Sweetlore世界のお菓子図鑑(234)

セアダス
Seadas
薄い揚げ皮の中でチーズが伸び、蜂蜜が香るサルデーニャ
揚げ菓子 / イタリア・サルデーニャ

黄金色の薄皮を切ると温かなチーズが伸び、表面の蜂蜜と乳の塩味が重なります。セアダスは、サルデーニャの穀粉、チーズ、油脂、蜂蜜を一つにする包み揚げの菓子です。甘い詰め物でなくチーズそのものを生かす姿には、羊飼いの帰宅を祝う食卓の記憶があります。どの乳を使い、包む前のチーズにどんな仕事を施すかが、一皿の違いを生みます。
春に羊飼いを迎える一皿
サルデーニャ州の伝統食品票は、バルバジャ地方の女性たちが、冬の寒い季節に群れを放牧した羊飼いの帰宅を迎える春にこの菓子を用意した、と記します。穀粉、羊乳チーズ、油脂、蜂蜜を一皿に合わせる背景には、こうした季節をまたぐ牧畜生活があります。牧畜の食卓に根付いた一皿は、やがて食後に温かく供するデザートとしても広まりました。ヌオーロ地方に根を持つ一方、島全体へ広がりました。
地域によっては羊乳のペコリーノだけでなく、牛乳のカチョッタを使います。カンピダーノの型は、牛のチーズにレモンの皮を合わせる例。皮へ卵を加える配合もあり、粉と水だけの型とは伸びや焼け方が変わります。島の一品といっても、乳と皮の選び方には幅があります。
薄い膜と、乾かしたチーズの円盤
基本のルセット(材料の配合と作り方)では、皮はデュラム小麦のセモリナに水とラードなどを合わせ、休ませてから薄く伸ばします。ラードは生地へ油脂を行き渡らせ、揚げたときの歯切れを作る材料です。砂糖を大量に練り込んでケーキのように膨らませるのではなく、薄くても中身を漏らさない膜に仕上げます。
中身のチーズには、若いペコリーノを使います。サルデーニャ州の伝統食品登録が具体的に記す型では、わずかに酸味を帯びたペコリーノをすりおろし、弱火で糸を引く一塊になるまで温めます。柑橘の皮を混ぜて直径六センチほどの円盤に押し、数時間乾かしてから薄皮で包みます。別の家庭配合では、加熱して円盤にせず直接詰める型もあります。固く乾燥させた熟成チーズとは違い、加熱して柔らかくなるものを選びます。水分と柔らかさを調整するのは、揚げる間に皮と中身へ同時に火を入れるためです。
揚げた後に蜂蜜の香りを重ねる
丸く抜いた皮へチーズを置き、もう一枚をかぶせ、周囲をよく密着させます。ふちを飾り切りすることもありますが、内側から溶けたチーズが漏れないことが第一です。油で両面を揚げると、薄い皮のところどころに泡が立ち、中は温まって柔らかくなります。
仕上げには蜂蜜、または砂糖を使います。サルデーニャらしい選択の一つは、ほろ苦さを持つコルベッツォロの蜂蜜。単純に甘さを増すだけでなく、チーズと皮の香りへ別の輪郭を添えます。揚げた後にかけるからこそ、蜂蜜の香りが表面に残ります。
甘い詰め物に置き換えず、チーズの個性を保ったまま甘く食べる構造は、現代の料理人にも受け継がれます。アーティチョークとチーズを詰めた塩味の改作もあり、包み揚げの技術が菓子と料理をまたぎます。基本の型は温かいうちに、皮の歯切れとチーズの伸びを一緒に味わいます。
つやを名に映すセアダ、セバダ、サバダ
セアダス seadas はサルデーニャ語の複数形で、一個ならセアダ seada。ログドーロとカンピダーノではセアダ、ヌオーロではセバダ sebada、サルーレではサバダ sabada と、島の中でも呼び名が変わります。
脂を意味する seu、ヌオーロの語形 sebu に名の由来を求める説では、揚げた皮の光沢が名に映されています。ラードを練り込んだ薄皮に揚げ油と蜂蜜が重なる、つややかな表面です。
島の名前を守る規格と、乳の選択肢
二〇二三年には、「セバダス」「セアダス」など六つの呼び名に「サルデーニャの」を添えた名称が、EUの地理的表示へ登録されました。対象は島とその付属諸島で加工・包装する詰め物入りの生パスタです。
登録仕様は、羊乳のチーズだけでなく、山羊乳、牛乳のチーズや牛乳の凝乳も認めます。皮にはデュラム小麦系の粉だけでなく軟質小麦粉を使えるため、島の乳製品と穀粉を幅広く生かす規格になっています。香りはレモンやオレンジの皮で添えられます。
中身のチーズをあらかじめ溶かして作る型には、その古い製法を示す任意の表示もあります。円盤の成形に手をかける作り方も、保護名称の下で受け継がれています。
用語解説
- セモリナ
- デュラム小麦を粗く挽いた粉。細挽きもあり、麺やパン、菓子に使う。
- ペコリーノ
- 羊乳のチーズの総称。セアダスには熟成の浅い柔らかい型を使う。
- カチョッタ
- 牛乳などから作る、小ぶりで比較的若いチーズの系統。
- コルベッツォロ
- イチゴノキとも呼ぶ植物。その花から採る蜂蜜には特徴的な苦みがある。
- カンピダーノ
- サルデーニャ南西部の平野を中心とする地域。
- 地理的表示
- 産地との結びつきなどを基に、特定の名称を保護する制度。
- ログドーロ
- サルデーニャ北西部の地域。
- ヌオーロ
- サルデーニャ中東部の都市と周辺地域。
- バルバジャ
- ヌオーロの南方に広がる内陸の山地。
- サルーレ
- バルバジャ地方の町。
- 凝乳
- 乳のたんぱく質などが集まり固まったもの。チーズ作りのもとになる。







