Sweetlore世界のお菓子図鑑(234)

クレマ・カタラーナ
Crema catalana
レモンとシナモンを香らせ、熱い鉄で甘い膜を焼く
デザート / スペイン・カタルーニャ

冷たい乳のクリームに熱い鉄を当て、上の砂糖だけをぱりっと焦がします。クレマ・カタラーナは、牛乳へレモン皮とシナモンを香らせ、卵黄とともに鍋で炊くカタルーニャの菓子です。なめらかな中身と薄い焦がし膜は、別々の熱で作られます。聖ヨセフの日の名が残る、春の祝いの一皿でもあります。
乳へ香りを移し、鍋で濃くする
代表的な香りは、レモンの皮とシナモンです。牛乳を温め、シナモンの棒とレモンの黄色い皮を加え、火を止めて香りを移します。白いわたの部分を避け、果皮の芳香を乳へ取り込みます。
卵黄、砂糖、でんぷんは、塊がなくなるまで滑らかに混ぜます。そこへ温め直した牛乳を少しずつ合わせ、鍋で絶えず混ぜながら加熱します。とうもろこしのでんぷんを使うルセット(材料の配合と作り方)では、穀粉の粒や皮を食感に残さず、卵黄の色と乳の味をまとめられます。
でんぷんが水分を抱えて濃度をつけ、卵黄とともに柔らかいクリームを支えます。濃くなったらこして、香りを移し終えた皮とシナモン、残った塊を取り除き、浅い器へ分けて冷まします。粉を均一に散らすこと、鍋の中をむらなく混ぜること、最後にこすことが、続けて滑らかさを整える工程です。
食べる直前、冷たい中身に熱い鉄
表面の砂糖は、食卓へ出す直前に焦がします。伝統の道具は、パラ・ダ・クレマー、またはフェーロ・ダ・クレマーと呼ぶ、丸い鉄板に細長い柄を付けたものです。握る部分には木を使い、鉄板を火で赤くなるまで熱して、砂糖を振った面へ当てます。
鍋でクリームを炊く熱と、最後に砂糖を焦がす熱を分けることで、冷たい中身の上に薄い焦がし膜ができます。仕上げた面はぱりっと割れ、焦がし砂糖の香りが乳と卵の甘さを引き締めます。長く置くと砂糖が下のクリームから水分を受けるため、中身は先に用意できても、表面は食べる時間に合わせて仕上げます。
乳と卵の料理から、焦がすクリームへ
十四世紀の『リブレ・ダ・サン・スビー』、十六世紀の『リブレ・ダル・コック』の乳・卵料理は、先行例に挙げられます。ただし冷たい器の上で砂糖を焦がす現在の姿と同一ではありません。十八世紀後半から十九世紀初めのマルダー男爵ラファエル・ダマットの日記には「聖ヨセフのクリーム」がたびたび現れます。三月十九日の祝いには、焦がさずチョコレートやメレンゲで文字を描く仕立ても伝わっています。
一七五八年版のフアン・アルタミラス『新しい料理術』にある「焼いた乳」は、乳、砂糖、溶いた卵へ上下から火を当てる料理です。現在と似た材料でも、焼いて全体を固める点で、鍋で炊いて冷ました表面だけを焦がす仕立てとは違います。
一七八四年のジョアン・バティスタ・パニョの料理書には、もっと現在に近い「フランジパーヌ風クリーム」があります。小麦粉、卵、乳、砂糖にレモン皮、オレンジ花水、シナモンを合わせ、鍋で絶えず混ぜながら煮て、冷めてから砂糖と熱いへらで仕上げます。今日のフランジパーヌと異なり、アーモンドを使わない配合です。菓子の名と材料の組合せは、時代を越えて同じとは限りません。
一八五一年版『ラ・クイネラ・カタラナ』の「クリームを作る」では、乳へ卵黄、でんぷんまたは米粉、砂糖、レモン皮、細いシナモンを合わせ、木の匙で混ぜてとろみをつけます。香りの材料を除き、平たい皿へ広げて冷まし、白砂糖を振って熱い鉄のへらか蓋で焦がします。鍋の加熱と表面の加熱を分ける仕組みが、具体的に残るルセットです。同書には、焦がす前のクリームを切り、粉をまぶしてラードで揚げる別の型もあります。
司教が「燃える」と叫んだ名付けの伝説
修道女が来客の司教へフランを作り損ね、熱い焦がし砂糖を飾って供したところ、司教が口をやけどし「クレマ、クレマ」と叫んだ、という話があります。クリームと「燃える」を掛けた名付けの伝説です。誰がいつ失敗したかは確定していませんが、冷たい中身と熱い表面の対比が、物語にも取り込まれています。
聖ヨセフの名と、クレーム・ブリュレとの違い
三月十九日のサン・ジュゼップ、聖ヨセフの日に食べる習慣から、クレマ・ダ・サン・ジュゼップという名もあります。現在は一年を通じて親しまれていますが、春の祝いの食卓との結びつきが名前に残っています。
フランスのクレーム・ブリュレと共通するのは、クリームを覆う焦がし砂糖の層です。今日よく見られる、生クリームとバニラを使い、器ごと湯煎焼きするクレーム・ブリュレに対し、クレマ・カタラーナは牛乳へレモンとシナモンを香らせ、鍋で炊いてから器へ移すのが代表的な作り方です。乳の選び方、香り、濃度をつける工程に、それぞれの持ち味があります。
皿の中から、コカやケーキの層へ
クレマは器に盛るだけの菓子ではなく、他の菓子を組み立てる材料にもなります。カタルーニャの菓子店アンブラスには、ホイップクリームと焦がしたクレマを組み合わせるマッシーニ、さらにチョコレート入りクリームを加える「三つの味」のケーキがあります。単独の皿では砂糖とクリームの二層だったものが、生地や別のクリームと重なり、一切れの中に違う柔らかさを作ります。
コカ・ダ・リャバネラスは、二枚のパイ生地でクリームを包み、上をアーモンドの生地と薄切りアーモンドで覆う型の菓子です。乳製品を作るレト・ノストラは、自社のクレマ・カタラーナを中へ使うルセットを、六月のサン・ジュアンの祝いに紹介しています。こちらでは焦がし砂糖の膜より、焼いたパイの層が外側の歯ざわりを担います。
氷菓にも、乳と卵のクリームを凍らせ、上の砂糖を手で焦がす仕立てがあります。例えばジェラッツ・グラスの一人分のクレマ・カタラーナは、アイスクリームの上に焦がし砂糖を載せます。名と香味を移すだけでなく、冷たい中身と割れる表面という組合せを、別の温度帯でも生かしています。
用語解説
- でんぷん
- 加熱すると水分を抱えて糊状になり、濃度をつける材料。現在のルセットにはコーンスターチも使われます。
- パラ・ダ・クレマー
- クリームの砂糖を焦がす丸い鉄板と長い柄を持つ道具。フェーロ・ダ・クレマーとも呼びます。
- サン・ジュゼップ
- 聖ヨセフ。三月十九日の祝いと、この日に食べるクリームの名に結びつきます。
- マルダー男爵
- ラファエル・ダマット・イ・ダ・クルターダ。バルセロナの生活を記した日記に、聖ヨセフのクリームが登場します。
- コカ・ダ・リャバネラス
- カタルーニャのリャバネラスに結びつく甘い菓子。パイでクリームを包み、アーモンドの生地や薄切りを上に用いる型がある。
- サン・ジュアン
- 聖ヨハネの祝い。六月の前夜祭にコカを囲む習慣がある。
- 湯煎焼き
- 型を湯の入った容器に置き、オーブンの熱を穏やかに伝える焼き方。
- フアン・アルタミラス
- 十八世紀スペインの修道士・料理書著者。「焼いた乳」など、乳と卵の料理を記した。
- ジョアン・バティスタ・パニョ
- 十八世紀の料理書著者。1784年の書に、冷めたクリームを砂糖と熱いへらで仕上げる配合がある。
- フランジパーヌ
- 現在はアーモンドを使うクリームの名として知られる。パニョの同名の配合にはアーモンドがなく、現代の定義をそのまま当てはめられない。







