Sweetlore世界のお菓子図鑑(234)

パンナコッタ
Panna cotta
温めた生クリームを冷やして固める、乳の一皿
デザート / イタリア

泡立てないクリームが、匙を入れると柔らかくほどける。イタリアのピエモンテに結びつくパンナコッタは、「調理したクリーム」という名のデザートです。広く知られるのは、糖とゼラチンを加え、冷やして固める型。しかし卵白を使って湯煎焼きする型もあり、白いなめらかさの中には、異なる凝固の仕組みがあります。
冷やして形を保たせる
板ゼラチンは冷水で戻し、糖を加えたクリームを、バニラの種とさやで温めます。さやを除いてゼラチンを溶かし、粒のない液を型へ流します。ピエモンテの観光資料の配合はクリーム500ミリリットルへ板ゼラチン8グラム、冷蔵は少なくとも5時間です。型の外を短く温めて皿へ返します。形を保つ力と口でほどける柔らかさの釣り合いが、ゼラチンの量を決めます。
牛乳を使う地域の伝統型は、温めた乳へゼラチンを溶かし、別に糖と温めたクリームへ加えます。ラム、マルサラ、コーヒーで香りを付け、カラメルを敷いた大きな長方形型へ流すこともあります。一人分の型だけでなく、切り分ける一台も作られます。
卵白を泡立てず、湯の中で焼く
卵白型は、乳、クリーム、糖、バニラを温め、室温まで冷ましてから卵白を混ぜます。筋をほぐして均一にし、泡にはしません。型を湯の入った天板へ置き、炉でゆっくり加熱すれば、湯が急な熱と乾燥を抑える間に、卵白の熱凝固が液をまとめます。
焼いた後は湯煎の水の中で冷まし、さらに冷蔵してから外します。薄い焼き色が付く仕立てもあり、ゼラチン型とは表の様子も変わります。
ソースを添えるか、カカオを中へ乳化するか
カラメルの苦味、ベリーのクーリの酸味、チョコレートソースの香りが、乳の甘さへ加わります。型へ先にカラメルを敷く方法と、返した後にソースを添える方法があります。
中身そのものへチョコレートを入れると、乳化の仕事が必要です。ヴァローナのチョコレートP125を使うルセット(材料の配合と作り方)では、温かい乳、クリーム、糖、ゼラチンを溶かしたチョコレートへ少しずつ注ぎ、なめらかにつないでハンドブレンダーをかけます。泡を抱き込ませず、約30度でグラスへ流し、表へ接するフィルムをかけて一晩冷蔵します。グラスのまま、ココアとアーモンドのシュトロイゼルを添える仕立てです。攪拌はムースのような起泡でなく、乳とカカオを均一につなぐために行います。
1827年の手紙に残る乳の菓子
ジャコモ・レオパルディは、1827年6月1日、ボローニャから父へ送った手紙で、ラッテ・エ・メーレを紹介しました。材料はクリーム、無塩のゼリー、糖で、材料以上に料理人の手仕事が大切だと述べます。今日のパンナコッタとは異なる名ですが、乳と糖をなめらかな一皿にする古い菓子の記録です。
ランゲへ伝えた女性と、店に残る記憶
州の資料は、20世紀初めのランゲでハンガリー出身女性に結びつく来歴を伝えます。クリームを得やすい土地へ彼女が作り方を持ち込み、周囲へ広まったと伝わります。作り手の氏名を残す発明譚ではなく、土地に乳の菓子が根付く来歴です。今では州全域の伝統食品に数えられています。
ラ・モッラのボヴィオ家の回想は、ベルヴェデーレの宿へ来たハンガリー人旅行者が、1940年頃、料理人へ着想を与えたとするものです。料理人セッティモから息子ジョルジョ、次いでジャンを経て、その娘婿のマルコ・ボスキアッツォへと、店の作り方は継がれました。後継のマルコは、一部の手順を今も店の秘密として守っています。
一方、クーネオの「イ・トレ・チトローニ」の料理人エットーレ・ソンジャを創作者とする説もあり、成立の記憶は一軒に定まりません。アーダ・ボーニの1968年の本には、クリームと糖を冷蔵して固める「クレーマ・ベルヴェデーレ」が載ります。店で継ぐ作り方と、家庭向けに印刷されるルセットの双方が、二十世紀の乳のデザートを広めました。
日本へ届いた、返して盛る冷凍の一皿
1993年12月22日の『日本食糧新聞』は、森永乳業の65グラムの冷凍デザートを報じました。冷蔵解凍し、容器を逆さにして皿へ移す外食店向けの商品です。既に大手ファミリーレストランの献立にも入り、イタリア料理の定着とともに注目されていました。温めて型へ流す仕事を工場で済ませ、店へ届ける仕組みです。
後年の年表は1992年のサントリーの業務用粉末、1993年の森永乳業のカップ品を挙げます。ただし当時の報道の品は、冷凍、解凍、皿盛り用です。容器のまま食べる小売デザートと同じ用途ではありません。白い一皿は、レストランの調理だけでなく、業務用素材と冷凍流通も通って広まりました。
用語解説
- ボヴィオ家/ベルヴェデーレ
- ラ・モッラで飲食店を継いだ家族と、以前経営した宿・食堂の名。セッティモ、その息子ジョルジョ、ジャンと娘婿マルコの料理人たちが仕事を継いだ。
- マルコ・ボスキアッツォ
- ボヴィオ家の後継の料理人。
- エットーレ・ソンジャ
- クーネオの料理人。現代のパンナコッタの成立に関わるとする説がある。
- アーダ・ボーニ
- 二十世紀イタリアの料理著述家。
- 板ゼラチン
- 薄い板状に加工したゼラチン。冷水で戻してから温かい液へ溶かす。
- ゼラチン
- 動物のコラーゲンを加工した素材。溶かした液を冷やすとゲルを作る。
- 湯煎焼き
- 型を湯の入った天板などへ置き、湯を介して穏やかに加熱する焼成方法。
- 熱凝固
- 卵などのタンパク質が加熱によってまとまり、固まること。
- クーリ
- 果実などを裏ごしして作る、流動性のあるソース。
- 乳化
- 油脂と水分を細かく分散させ、均一になじませる操作。
- シュトロイゼル
- 粉、糖、油脂などを粒状にまとめて焼く素材。ココアとアーモンドを使う型もある。
- マルサラ
- イタリアのシチリアで造る酒精強化ワイン。菓子の香り付けにも使う。
- ジャコモ・レオパルディ
- 十九世紀イタリアの詩人。父への手紙に、旅先で知った乳の菓子を記した。
- ラッテ・エ・メーレ
- イタリアの古い乳の菓子の名。歴史資料では泡立てた甘いクリームなどもこの名で扱われる。
パレードのカフェ・ノワール パンナコッタ / Café Noir Panna Cotta
京都・伏見桃山の洋菓子店「パレード」が仕立てる、ほろ苦さとやさしい甘さのコントラストを楽しむ大人のデザート「カフェ・ノワール パンナコッタ」。
コーヒーゼリーには、石川県にあるコーヒーショップ「チョムスキーコーヒー」さんのトップグレード豆を使用。豆本来の香りと奥行きのある苦味を引き出しキレのある後味と澄んだ風味に仕上げています。
パンナコッタは、ミルクのコクを感じながらも重たさを残さないよう、口溶けのなめらかさと軽やかさのバランスを追求。
コーヒーゼリーと重ねたときに、それぞれの個性がぶつからず、互いを引き立て合うよう設計しています。一口目はコーヒーのほろ苦さ、続いてパンナコッタのクリーミーな余韻がやさしく広がり、最後まで心地よく食べ進められます。
パレードの蜜香紅茶と桃のパンナコッタ / Panna cotta au thé et à la pêche
京都・伏見桃山の洋菓子店「パレード」が手がける、やさしく広がる紅茶の香りと、みずみずしい桃の甘さを重ねた、季節限定の「蜜香紅茶と桃のパンナコッタ」。
使用している紅茶は、台湾産の『蜜香紅茶(みっこうこうちゃ)』。発酵の過程で生まれる、はちみつのような自然な甘い香りと、すっきりと澄んだ後味が特長です。ミルクと合わせても香りが埋もれないよう、パンナコッタに溶け込むようなやさしい風味に仕立てました。桃は、旬の時期に合わせて選んだ、果汁感あふれるみずみずしいものを使用。果肉のやさしい甘さと瑞々しさを活かすため、甘さを控えめにし、紅茶とのバランスを大切にしています。また、見た目の淡いピンク色は、着色料を一切使用せず、桃の皮から自然に色付け。素材そのものを使い切ること、余計なものを加えないことも、パレードのこだわりです。







