Sweetlore世界のお菓子図鑑(234)

トシーノ・デ・シエロ
Tocino de cielo
卵黄とシロップだけで生まれる、黄金色の濃密な一切れ
デザート / スペイン・アンダルシア

黄金色の密な卵黄に、キャラメルの琥珀色が重なります。トシーノ・デ・シエロは、卵黄と砂糖のシロップを固め、冷まして型から返すスペインのデザートです。トシニージョ・デ・シエロとも呼ばれます。「トシーノ」は豚の脂身を意味しますが、肉や脂を加えるのではなく、色や滑らかで密な質感を重ねた呼び名です。de cielo は「天の」を意味し、全体では「天の脂身」という名になります。
酒蔵の卵白と、修道院の卵黄
ヘレス・デ・ラ・フロンテーラには、ワインを澄ませる卵白の残りの卵黄を、修道女へ贈ったことから生まれたという話があります。エスピリトゥ・サント修道院へ結び付く伝承で、清澄に使う部分と菓子へ使う部分が、一つの卵を分け合います。
酒蔵ゴンサレス・ビアスの一八三七年の在庫帳には、月に千個の卵を購入した記載があると、食文化研究者マヌエル・トーレスは伝えています。ワインを澄ませる卵白と、黄金色に固める卵黄。卵を多く使う酒の町に、修道院の甘味を結ぶ伝承が残ったのです。
乳でのばさず、シロップを合わせる
基本は卵黄、砂糖、水です。乳で卵をのばすフランに似た姿でも、この菓子は卵黄の厚みを直接生かします。卵黄だけのルセット(材料の配合と作り方)も、少量の卵白や全卵を加えるルセットもあります。ドクター・エトカーの例では、卵黄十個に卵白一個分を合わせ、砂糖290グラムと水90ミリリットルで作るシロップを加えます。全卵を同数使う配合とは異なる、卵黄中心の構成です。
砂糖と水を煮るシロップは、生地を甘くするためのもの。型の底に入れるキャラメルは、別の砂糖を色付けて作ります。ドクター・エトカーのルセットにはバニラも入り、果物のソースやラズベリーを添える仕上げもあります。乳を加えずにまとめる骨格の周りに、香りや盛り付けの違いが生まれています。
密な断面を作る、混ぜ方と湯煎
シロップの扱いにも差があります。スペイン観光局のルセットは、糸を引く濃さにしたシロップを卵黄へ少しずつ加え、こしてからキャラメルを敷いた型に入れます。ヘレスの料理人テレサ・マルケス・ヒメネスは、シロップを冷ましてから卵黄へ合わせる方法を伝えています。一方、熱いシロップを少しずつ注ぐルセットもあり、シロップを合わせる温度は、作り方ごとに異なります。
料理学校レイオアの手順は、泡を作らず均一にする程度に混ぜることを明記しています。空気を抱かせて膨らませる菓子ではなく、泡の少ない密な断面を目指すためです。この学校の型の底には、キャラメルではなく薄いグルコースの層を使います。透明なグルコースを敷く型は、キャラメルの琥珀色を重ねる型とは異なる表面に仕上がります。
オーブンの湯煎で固める型に加え、スペイン王立ガストロノミーアカデミーは、鍋の湯煎で、蓋を布で包んで穏やかに加熱する方法を示しています。いずれも焼いたり蒸したりして生地を固め、冷まして落ち着かせてから外す流れです。長方形なら四角い小片に、個別の型なら一人分の輪郭になります。
ヘレスの町から、北のグラードへ
スペイン北部のアストゥリアスでは、グラードのトシニージョが地域の名物になっています。自治体は、地元のチーズやパンと並ぶ食品として挙げ、全国の飲食店に向けて扱う業者が町にあることも紹介しています。乳を加えない卵黄の菓子は、南の酒どころにとどまらず、北の町の名物にもなっています。
ヘレス自身も、現在の職人と市民の甘味として菓子を引き継いでいます。2026年2月には、地元の菓子職人たちが約7000個を作る催しが取材され、売上を青少年支援へ充てる活動も行われました。古い伝承を持つ菓子が、現在の町の活動にも使われています。
用語解説
- フラン
- 卵と乳などを型で固める、スペインで親しまれるプリン。
- 湯煎
- 型を湯の入った容器に置き、湯を介して穏やかに加熱する方法。
- グルコース
- ブドウ糖。製菓ではシロップ状の材料としても使う。
- ヘレス・デ・ラ・フロンテーラ
- アンダルシアの都市。シェリー酒の産地。
- 清澄
- 液体の濁りや浮遊物を取り除き、澄ませること。
- エスピリトゥ・サント修道院
- ヘレスにある修道院。菓子の由来伝承に登場する。
- グラード
- スペイン北部アストゥリアスの町。トシニージョも名物の一つ。
- テレサ・マルケス・ヒメネス
- ヘレスの飲食店Venta El Alberoで卵黄菓子の作り方を伝える料理人。
- レイオア
- 菓子のルセットを公開する、バスク地方の料理学校。
- EFE
- スペインの通信社。2026年のヘレスの催しと、起源を調べる研究者への取材を報じた。
- マヌエル・トーレス
- EFEの取材に応じた食文化研究者。1837年の酒蔵の卵購入記録と、発明を証明するルセットの不在を説明した。







