Sweetlore世界のお菓子図鑑(234)

ダンプフヌーデル
Dampfnudel
ふたの中で膨らみ、鍋底だけに香ばしい皮ができる
デザート / ドイツ南部

白い上面は蒸気でふくらみ、底の一面は鍋で香ばしく焼けます。南ドイツのダンプフヌーデルは、丸い発酵生地をふた付きの鍋で蒸し煮にし、同じ鍋の中で底皮まで作る粉料理です。バニラや果実のソースを添えるデザートや甘い主菜にも、塩味の食事にもなります。複数形はダンプフヌーデルンです。
二度膨らませて、温めた液へ置く
小麦粉、酵母、牛乳、少量の砂糖、バターなどをこね、滑らかな生地を作ります。卵を加えるルセット(材料の配合と作り方)もあります。初めの発酵で膨らんだら、同じ大きさに分けて丸め、もう一度休ませます。鍋の中でも膨らむため、隣と接する余地を見ながら並べます。
鍋には牛乳と砂糖、バターを入れるもの、水とバターを使うものがあります。発酵の進んだ生地を、温めた液体へそっと置きます。バイエルンの家庭料理にも、水で炊くルセットが伝わります。
水分がある間は蒸し、減った後に底を焼く
ふたをすると、液体から出る蒸気が鍋にとどまり、生地の上面と側面を包んで火を通します。水分がある間は表面が乾きにくく、上は淡い色のまま膨らみます。液体が減った後には、底の油脂と熱で下側が焼け、色と香りが付きます。
蒸す工程と焼く工程を、同じ鍋で続けるところが特徴です。液体の量、鍋の広さ、火加減によって、底へ皮ができる時点が変わります。途中で何度もふたを開けず、最後に少し蒸らし、たまった水滴を生地へ落とさないようにふたを外します。
出来上がりは、底の皮を上へ向けて盛ることもできます。白い生地へソースが染みる柔らかさと、鍋底で焼けた一面の歯ざわりを、一個の中で味わいます。
塩の底皮にも、甘いワインのソース
バイエルンでは、バニラソースや果実のソースを添えた甘い仕立てが代表的です。一方、プファルツ地方では、水と油、塩を使って炊き、塩味の底皮を作ります。生地そのものには牛乳、卵、バター、少量の砂糖を使うこともあり、塩味は主に鍋底の仕上げにあります。
塩の皮だから、添え物も塩味だけとは限りません。白ワインと砂糖へ濃度をつけ、卵黄や泡立てた卵白を合わせた甘いワインソース、バニラソースとも取り合わせます。ジャガイモのスープを添える食べ方もあります。主菜としての献立では、最初にジャガイモや野菜のスープを出し、その後にバニラやワインの甘いソースでダンプフヌーデルを食べる流れもあります。ひと続きの食事の中で、塩味の汁物から甘い粉料理へ移るのです。肉料理のグラーシュや豚肉の煮込みに添える場合は、同じ皿に盛ってナイフとフォークで食べます。土地の違いは、底皮とソースだけでなく、どの料理の後に、何と一緒に食べるかにも表れます。
蒸気と団子の名、一七九一年のルセット
ダンプフは蒸気を意味します。ヌーデルは現在は麺を指すことが多いものの、古くはクヌーデル、すなわち団子に通じる語でもあり、この料理も丸い形です。
フリーデリケ・ルイーゼ・レフラーの『新料理書』(一七九一年)には、卵黄、乳、バター、酵母を使う複数のルセットがあり、「バイエルン風」の見出しもあります。十八世紀末には土地の名を付けた型が料理書に載り、十九世紀へも受け継がれました。
一二八六個の食事で救ったという村
プファルツのフレッケンフェルトには、一二八六個のダンプフヌーデルを模した浮き彫りの門があります。三十年戦争中、村に来たスウェーデン騎兵隊が金を要求し、払わなければ略奪すると脅した、という伝承にちなんだ記念物です。
村人は十分な食事を出すことで代えさせ、パン職人ムックと村人たちがワインソースとダンプフヌーデルを用意し、満腹になるまで一二八六個を供したといいます。観光機関も伝承として紹介しており、当時の食事数の帳簿は残されていません。村が食べ物で危機をしのいだ話で、ムックが料理そのものを発明したという記録ではありません。
詰めて蒸すゲルムクヌーデルとの違い
近縁のゲルムクヌーデルも、酵母で膨らませる丸い生地です。ウィーンの代表的なルセットでは、中に濃いプラムのペースト、ポヴィドルを包み、ゆでるか蒸して火を通し、溶かしバターとケシの実、粉砂糖をかけます。
ポヴィドルを包む甘い団子に対し、ダンプフヌーデルは中身を詰めない型が多く、塩味の底皮を含めてソースを選びます。似た発酵生地でも、詰め物と添える料理の関係で、一皿の性格が変わります。
用語解説
- フレッケンフェルト/ムック
- プファルツの村と、村の救済伝承に現れるパン職人。逸話は菓子の発明記録ではない。
- プファルツ
- ドイツ南西部の地方。塩味の底皮を作るダンプフヌーデルが伝わります。
- フリーデリケ・ルイーゼ・レフラー
- ヴュルテンベルクの料理人・料理書著者。1791年の『新料理書』にダンプフヌーデル類のルセットを記録しています。
- ゲルムクヌーデル
- 酵母生地の団子。オーストリアなどで、ポヴィドルを包み、ケシの実と砂糖を添える形が知られます。
- ポヴィドル
- プラムを濃く煮詰めたペースト。発酵生地の詰め物に使います。
- 発酵
- 酵母が糖を利用してガスを生じ、生地を膨らませる働き。







