Sweetlore世界のお菓子図鑑(234)

スポッティッド・ディック
Spotted dick
干しブドウの斑点が浮かぶ、温かな蒸しプディング
デザート / 英国

淡い蒸し生地に干しブドウの暗い点が散ります。その斑点がスポッティッド・ディックの名の前半を作っています。英国のスエット入りプディングは、深い型で蒸して温かなカスタードを添える姿で親しまれますが、十九世紀の本には果実を巻き込んで茹で、バターと砂糖で食べる姿もあります。果実と脂肪を湿った熱で一つにする技術が、形とソースを変えながら続いてきました。
一八五〇年の布に包んだ巻き物
アレクシス・ソワイエの『現代の主婦』の一八五〇年ニューヨーク版には、「プラム・ボルスター、またはスポッティッド・ディック」という見出しがあります。のばした生地へ洗った干しブドウを点々と置き、巻いて布で包み、一時間茹でて、バターとブラウンシュガーで供する指示です。現在よく見る、果実を全体へ混ぜた深型蒸しと同じ組立てではありません。
さらに参照先の生地は、牛の腎臓まわりの脂を細かくし、油を少し加えてまとめ、バターの代わりに折り込むルセット(材料の配合と作り方)です。生地の中へ脂を折り込み、その上の果実を巻き込む構成です。ソースも、温かな乳卵のカスタードに代わり、バターと糖の風味を重ねていました。
斑点の後ろに残る三つの語源説
スポッティッドが表す斑点は、淡い生地に見える干しブドウです。後半の Dick には、人名リチャードの愛称、方言の料理名 dick pudding、dough(生地)の方言発音という異なる説があります。人の呼び名を借りたのか、生地や料理を指す言葉から変わったのか。淡い生地に浮かぶ果実の斑点と違い、後半の由来は一つに定まっていません。
腎臓まわりの脂を粉に散らす
伝統的な生地では、小麦粉、砂糖、干しブドウ、乳などに、スエットを加えます。スエットは牛や羊の腎臓の周囲などから取る脂肪で、細かくしたものを粉へ混ぜます。現在は植物性の代替スエットを使うルセットもあり、同じ蒸し菓子を異なる油脂で作れます。
プルー・リースの型では、小粒のカランツを柑橘の果汁でふやかし、水分を切って加えます。オレンジとレモンの皮、シナモンも使い、干した果実の甘みへ香りを重ねます。果実を先に柔らかくすると、粉の生地へ混ぜた後も、硬い粒だけが残りにくくなります。
蓋のひだを開かせて深型で蒸す
材料を乳で柔らかくまとめ、油脂を塗ったプディング型へ入れます。型の口を紙とアルミ箔で覆う際には、中央へ折りひだを作ります。蒸して生地が膨らむと、ひだが開き、蓋に押さえつけられずに高さが出ます。ひもをかけると、熱い鍋から型を持ち上げる時にも扱いやすくなります。
大きな鍋の底へ皿などを置いて型を載せ、湯を注いで蓋をし、ゆっくり蒸します。水蒸気と湯を介する熱で火を通すため、表面を香ばしく焼き固める工程にはなりません。中の果実を包む生地が膨らみ、湿り気を含む、温かな一台へまとまります。
カスタードを流す、カラメルの艶を添える
蒸し上がったら少し落ち着かせ、型の上へ皿をかぶせて返します。丸い型なら、外形はなだらかなドームになり、切り口へ干しブドウの小さな点が現れます。生地を大きく切り分け、カスタードソースを周囲へ流して供します。
ソースは、卵黄、砂糖、乳を穏やかに熱してとろみをつけ、バニラで香りを添えるものです。クリームも加えると、より乳脂肪の多い仕上がりになります。蒸し生地の穀粉と果実を、滑らかな液体が包み、温度と水分を補います。
英国の家庭的なプディングの一つとして親しまれ、果実を混ぜ込むもの、巻くものなどに作り方の幅があります。リースのルセットは薄いカラメルシロップも合わせ、蒸した表面へ光沢を添えます。斑点のある素朴な生地が、温かなソースを受け止める食後の菓子です。
アイルランドではソーダブレッドになる名
アイルランドの料理教育者ダリーナ・アレンが紹介するスポッティッド・ドッグは、白いソーダブレッドに干しブドウ、砂糖、卵を加えた型です。重曹とバターミルクを使い、丸くまとめて十字に切込みを入れ、オーブンで焼きます。スエットを粉へ混ぜて蒸す英国のプディングと、名前が似ていても、配合と加熱方法は同じではありません。
アレンは幼少期を振り返り、当時は白い粉や卵を加えること自体が特別で、温かいパンを布で包み、甘い紅茶とともに畑へ運んだと語っています。彼女の食べ方にはバターやジャムのほか、チェダーチーズもあります。斑点のある果実の生地という共通点から、食後の蒸し菓子と、茶に添える豊かなパンの違いが見えてきます。
用語解説
- スエット
- 牛や羊の腎臓周辺などから取る硬い脂肪。菓子では細かくして使う。
- カランツ
- 菓子作りに使う小粒の干しブドウ。
- プルー・リース
- 英国で活動する料理人・料理教育者。
- プディング型
- 蒸し菓子などを作る、深さのある耐熱の型。
- カスタードソース
- 卵黄、砂糖、乳などを穏やかに加熱し、とろみを付けたソース。
- アレクシス・ソワイエ
- 十九世紀に英国で活動したフランス出身の料理人。家庭向けの料理書も著した。
- ブラウンシュガー
- 糖蜜分などによる褐色と風味を持つ砂糖の呼称。
- ダリーナ・アレン
- アイルランドの料理教育者。バリーマルー料理学校を共同創設した。
- バターミルク
- このルセットでは酸味を持つ乳製品。重曹を使うソーダブレッドの水分として用いる。







