Sweetlore世界のお菓子図鑑(234)

ナナイモ・バー
Nanaimo bar
ココア、淡いクリーム、チョコレートの三層
デザート / カナダ

ココア色の粒の土台、淡い黄色のクリーム、薄いチョコレート。カナダ西岸のナナイモの名を持つナナイモ・バーは、三層を別々に用意して重ねる冷たい切り菓子です。既製のクラッカーを使い、オーブンでは焼きません。家庭や教会の集まりの小菓子が、地域の料理書、店の販売、町のコンテストを経て、土地の象徴となりました。
粒を固める底、泡立てる中、流す上
市のルセット(材料の配合と作り方)は、バター、糖、ココアを湯煎で溶かし、溶いた卵を混ぜて加熱し、とろみを付けます。火を下ろし、砕いたグラハムクラッカー、ココナツ、細かいアーモンドを混ぜて底へ強く押します。粉を焼く生地でなく、焼き済みの粒を油脂と卵でつなぐ骨格です。
中央はバター、生クリーム、粉砂糖、バニラ風味のカスタードパウダーを軽く泡立てます。卵と乳を炊くカスタードとは違い、粉末で香りと淡い色を入れるクリームです。最上部はチョコレートと少量のバターを溶かし、熱を落としても液状のうちに薄く流し、冷蔵します。下のクリームを熱く溶かさず、粒の底、柔らかな中、固い薄膜を重ねる温度が必要です。
1952年の料理書には別の名があった
家庭で人をもてなす小菓子デインティーの文化には、戦後に糖とバターを再び使え、クラッカーなどの冷蔵菓子が広がる背景があります。食文化研究者レノア・ローリ・ニューマンの調査では、1952年のナナイモ病院婦人補助会の料理書に、今の三層へ近い三ルセットがあり、チョコレート・スクエアやチョコレート・スライスと呼ばれていました。
1953年の新聞は「ロンドン・フォグ・バー」、別名ナナイモ・バーと記し、同年の料理書にもナナイモの名が出ます。1947〜48年の新聞には、底へ近い焼かないチョコレート菓子があり、後にカスタード風味と上のチョコ層が加わったと、研究は推定します。
1954年のニューブランズウィックの婦人会料理書にも、似た三層が「メイベルズ・スクエア」としてあります。同じ三層が、土地の名にも、人の名にもなる。新聞への投稿や地域の料理書を通じて、家庭の配合と名が行き交いました。
既製品を使っても、もてなしには手を掛ける
戦後のナナイモは、製紙業が支える労働者の中流家庭の町でした。家庭や教会の食事会に出すデインティーには、人をもてなす腕と、手を掛けられる暮らしぶりを示す役割もありました。バターと糖を豊富に使い、クラッカー、カスタードパウダー、チョコレートを買いそろえ、三層を丁寧に作る。焼かないことは、必ずしも手間や費用が少ないことを意味しません。
ニューマンは、こうしたもてなしの期待を、女性が有償の仕事から遠ざけられていた社会と結び付けています。既製品やブランド品も、新しい食品産業への信頼と豊かさのしるしになりました。土地の農産物を集めた菓子とは異なり、購入した材料を組む家庭の仕事が、やがて町そのものを表す一切れになったのです。
仕出し店が売り、市が代表作を選ぶ
スーザン・メンデルソンは、1979年にバンクーバーで共同経営するレイジー・グルメで売り始め、1980年の自著へ自店のルセットを載せたと語ります。本人が語るのは発明ではなく販売の歩みです。家庭の菓子は、都市の店と仕出しの定番にもなっていきました。
1986年、市長と地元商業施設が代表ルセットのコンテストを開き、4週間で約100種類を集め、ジョイス・ハードキャッスルのものが選ばれました。現在市が紹介するのは、この受賞作です。同年のバンクーバー万博の料理書にも複数が載り、土地の名を持つ菓子として知られていきます。
三層から、町を巡る味へ
市内のナナイモ・バー・トレイルには、伝統型と、ピーナツバターや塩キャラメル、チーズケーキやアイスへの展開があります。縞をそのまま組む品ばかりでなく、風味を別のデザートに移す例です。2019年には地方菓子の切手「スイート・カナダ」にも選ばれ、冷たい一切れの名が、町を外へ伝えています。
用語解説
- グラハムクラッカー
- 全粒小麦の風味を持つ、北米で使われるビスケット状の焼き菓子。
- カスタードパウダー
- でんぷんや香料、色素などを合わせ、カスタードの色や風味を作る粉末材料。
- バタークリーム
- バターを砂糖などと合わせ、空気を含ませて作るクリーム。
- デインティー
- 家庭のおもてなしや集まりで供する、小さく甘い菓子。
- レノア・ローリ・ニューマン
- カナダの食文化と地理を研究する研究者。新聞、地域の料理書、関係者への聞き取りからナナイモ・バーの歴史を調べた。
- スーザン・メンデルソン
- バンクーバーの仕出し店「レイジー・グルメ」を共同経営し、ナナイモ・バーの販売と自著のルセットで知名度を広めた菓子商。
- ジョイス・ハードキャッスル
- 一九八六年にナナイモ市などが開いたルセットコンテストの受賞者。







