Sweetlore世界のお菓子図鑑(234)

マクルード
Makroud
セモリナの菱形にデーツの甘みを包む
揚げ菓子 / チュニジア・アルジェリアなど

セモリナの皮の中に、褐色のデーツが続く。菱形に切って火を通し、蜜を含ませるマクルードは、チュニジアのケルアンの名物であり、アルジェリアにも根づく菓子です。粒のある皮と果実の餡を別に作り、一本に包んでから切り分けます。同じ名の周囲には、揚げるか焼くか、セモリナで包むか木の実そのものを生地にするかという違いがあります。
斜めに切る一個と、アラビア語の名
フランス語には makroud、makrout の綴りがあり、アラビア語の مقروض に由来します。語根の ق ر ض には「切る」の意味があり、maqrūḍ は「切られたもの」にあたる語形です。古典辞書『リサーン・アル=アラブ』の قرض の項にも、切断を表す語義が載ります。菓子を「菱形」と説明する呼び方は、一本の生地を斜めに切る姿に重なりますが、語根そのものが幾何学の菱形だけを指すわけではありません。
シェルブルック大学のUsito辞書には、フランス語で1852年にマグリブに触れた用例が挙がります。これよりはるかに早く、13世紀のイブン・ラジーン・アッ=トゥジービーの料理書には、既に maqrud の名がありました。
料理史研究者ダニエル・ニューマンが再現した中世の型は、セモリナ生地に糖とアーモンド、またはデーツを詰め、油で揚げて砂糖を振ります。餡を包んで切る骨格は近くても、現在の蜜を含む表面とは仕上げが異なります。ケルアンだけでなく、アルジェリア南東部やムザブにも由来を求める説があり、一つの発祥地に定まった菓子ではありません。
先に油脂、後から水
デーツ入りのルセット(材料の配合と作り方)の一つでは、中粒セモリナへ少量の小麦粉と澄ましバターを混ぜ、2時間以上置きます。温水とオレンジ花水はその後に指先で加え、強くこねずにまとめます。先に粒へ油脂をなじませてから、形を作るための水分を足す順序です。
デーツの餡は別に練り、シナモン、クローブ、澄ましバター、花水を合わせます。生地の棒に溝を作り、細長くした餡を入れて閉じ、太さをそろえてから斜めに切ります。木型の模様を表面へ押すこともあります。厚い皮の中に果実の線を通すため、切る前の棒と餡の太さが一片の断面を決めます。
揚げる型は油で表面を色づけ、焼く型は露出したデーツを焦がさないように片を寄せて並べます。冷ました菓子を蜂蜜、花水、レモンの液へ両面から浸し、一度休ませて再び浸す型もあります。蜜は外側の艶とともに、乾いた皮へ甘さと水分を加える仕上げです。
ケルアンの材料、アルジェリアの炉とアーモンド
ケルアンの小さな菱形には、セモリナ、オリーブ油、蜂蜜、南部オアシスのデーツが集まります。穀物の粒を皮にし、保存する果実を中へ包む組合せです。
アルジェリア東部のコンスタンティーヌなどに結び付くマクルード・エル・クーシャは、オーブンで焼く型です。詰め物には、デーツのほかイチジクやアーモンドも使います。これに対し、マクルート・エル・ルーズは、アーモンドを包んだセモリナ菓子とは構造が違います。
メルコットが公開するエル・ルーズは、アーモンド粉、糖、卵、柑橘皮を生地にし、菱形へ切って薄く焼き、糖液と粉糖で白く覆います。中身を取り囲む穀粉の皮がなく、木の実の生地そのものが一個になるのです。
祖母は板で挟み、断食明けに供した
レア・カルサンティーの祖母が作ったマクルードでは、セモリナを先に乾煎りします。デーツとヘーゼルナッツを合わせた中身を、板状の上下の生地へ挟み、菱形にして揚げ、蜂蜜とオレンジ花水の糖液へ浸します。
この家で供したのは、ユダヤ教のヨム・キプルの断食明けの食卓でした。棒の溝へ餡を閉じる方法とは異なり、上下二枚の皮の間へ、木の実を含む中身を一層として広げます。同じ蜜の菱形にも、家族が守る作業と祝いの時季があります。
マルタのイムアレットは、薄い皮を巻く
マルタのイムアレットも、デーツを包み、斜めに切って揚げます。マルタ出身の家族がオーストラリアで伝える型は、小麦粉、少量のマーガリン、水、花水で薄皮を作ります。デーツは柑橘皮、シナモン、アニス系の香辛料などと煮て冷まし、約2ミリに延ばした皮へ巻きます。
金色に揚げた一片は温かくも、冷たくも食べられます。マクルードの粒を含む厚い皮に対して、こちらは薄い小麦粉の膜。よく似た切り口の中でも、果実に届くまでの外側が違います。
用語解説
- セモリナ
- デュラム小麦などを粗く挽いた穀粉。粒のある皮の材料。
- デーツ
- ナツメヤシの果実。練った果肉を餡に使う。
- 澄ましバター
- バターから水分と乳固形分を除いた油脂。
- ケルアン
- チュニジア内陸の歴史都市。マクルードが名物の一つ。
- マクルード・エル・クーシャ
- コンスタンティーヌなどアルジェリア東部に結びつく、オーブンで焼く型。
- マクルート・エル・ルーズ
- アーモンドを主材料に、粉糖で白く仕上げる菱形の菓子。
- 『リサーン・アル=アラブ』
- イブン・マンズールの古典アラビア語辞書。語根قرضに切断の語義を収める。
- メルコット
- フランスの製菓家。アルジェリアのアーモンド型を自ら作った工程を公開している。
- イムアレット
- マルタの、デーツを薄い生地で包んで斜めに切り、揚げる菓子。
- ヨム・キプル
- ユダヤ教の贖罪の日。断食明けの食卓にこの菓子を供する家庭の記録がある。
- イブン・ラジーン・アッ=トゥジービー/ダニエル・ニューマン
- 前者は13世紀の料理書の著者、後者はその翻訳と中世料理の再現に取り組む研究者。







