Sweetlore世界のお菓子図鑑(234)

トゥルグール
Teurgoule
陶器の中でゆっくり育つ、シナモンの米菓子
デザート / フランス・ノルマンディー

褐色の皮をスプーンで破ると、その下には乳を吸った柔らかな米があります。ノルマンディーのトゥルグールは、米、牛乳、砂糖、シナモンを陶器の器で何時間も焼くデザートです。焦げ色の上面と淡い中身は別の層を流し分けたものではなく、同じ米と乳が、空気に触れる面と器の中で違う状態になったものです。
米を取り寄せた長官と、米を奪った私掠船
ノルマンディーの乳へ、土地の収穫物ではない米とシナモンがどう加わったか。由来には二つの物語があります。一つは十八世紀後半、雨で収穫を失ったカーン地方へ、王室の地方長官フランソワ=ジャン・ドルソー・ド・フォンテットが米を取り寄せ、調理法を掲示したという話です。1760〜1775年に在任したとされる長官が、食べ慣れない米を乳と長く焼く方法を広め、「テリネ」という菓子が生まれたと語られます。
もう一つはルイ十四世期のオンフルールの私掠船です。スペイン、オランダ、イングランドのガレオンから米やシナモンを奪い、それが菓子の材料になったという筋で、保存団体も紹介しています。長官の話とは時代も運び手も異なります。米を取り寄せる救済の話と、船荷を奪う話。海外から届いた材料を土地の乳で焼く菓子に、異なる運び手の伝承が添えられています。
熱くて、口をゆがめる名
トゥルグールの名は、熱い菓子を急いで食べ、口や顔をゆがめる土地の言葉へ結び付けて説明されます。器の中で長く焼いた乳と米の熱さを表す話です。しかし食べ方は熱々だけに限られず、冷たく、ぬるく、温かくも供されます。
香りの中心はシナモンですが、バニラを合わせるルセット(材料の配合と作り方)や、バニラ味の商品もあります。皮ごとすくえば、焼いた乳の香ばしさと内側の甘い乳、香辛料を一緒に口へ運びます。
少量の米を、大量の乳で柔らかくする
主材料は丸粒米、全乳、砂糖、シナモン、少量の塩です。保存団体のルセットは、牛乳2リットルに米130グラムを合わせ、陶器で115℃、6時間焼きます。主食の米を炊く配合ではなく、大量の乳の中でゆっくり加熱する方法です。粒が目立たなくなるほど柔らかくなり、乳とまとまってスプーンですくえる濃さになります。
鍋で絶えず混ぜるライスプディングと違い、表面を動かさないため、濃い焼き色の膜ができます。長い焼成の間、膜と柔らかい中身を同時に作ることが、この菓子の要点です。
器に合わせて、火の入れ方を変える
ノロン・ラ・ポトリーの陶器工房テュルジスは、注ぎ口のある施釉の専用器を作ります。器の容量と注ぐ乳の量は同じではなく、3リットルの器に使う乳は2リットル。米と砂糖を加える余地を残します。
同工房の方法は、米、砂糖、シナモンへ冷たい全乳を静かに注ぎ、冷たいオーブンから温めるものです。最初は150℃、沸き始めたら110℃へ下げ、さらに4時間焼きます。器と中身を一緒に温め、陶器へ急な温度差を与えない手順でもあります。
対してクタンスの型では、バニラ入りの乳を一度沸かし、ぬるくして注ぎ、予熱したオーブンで段階的に温度を下げます。冷たい器から育てる火入れと、ぬるい乳を予熱した窯へ入れる火入れ。始め方が違っても、焼き色の皮と柔らかな米へ行き着くところは共通します。
家庭に残った菓子を、町の大会へ
ノルマンディーでは、トゥルグールと、卵、バター、クリームなどを使う土地のブリオッシュ、ファリュを守る団体が活動しています。設立直後の1978年に、最初の「黄金のトゥルグール」コンクールを開きました。当時、家庭以外で見かける機会が減っていた菓子を、職人と一般の参加者に開く年次大会や、ルセットの紹介で広め直してきたといいます。
何時間もの火入れを要する一皿を、家庭のオーブンだけが支えているわけではありません。器を作る工房、焼く職人、味を競う催しも、米と乳の菓子を土地の食文化として継いでいます。
用語解説
- 私掠船
- 国の許可を受けて敵国の船などを攻撃し、船荷を奪った船。
- ガレオン
- 大航海時代などの海上輸送や戦闘に使われた大型帆船。
- オンフルール/カーン
- ノルマンディーの港町と内陸都市。
- テュルジス
- 専用陶器と作り方を紹介するノロン・ラ・ポトリーの工房。
- 全乳
- 乳脂肪を取り除いていない牛乳。
- 施釉
- 陶器などの表面に釉薬を掛けて焼くこと。
- ノロン・ラ・ポトリー
- ノルマンディーの陶器産地。本文の工房がある村。
- ファリュ
- ノルマンディーのブリオッシュの一種。卵やバター、クリームなどを使う。
- ブリオッシュ
- 卵やバターを含む発酵生地のパン。
- フランソワ=ジャン・ドルソー・ド・フォンテット
- 18世紀後半のカーン地方長官。凶作時に米と調理法を広めたという菓子の来歴に登場します。
- テリネ
- 陶器の器に由来する呼び名。トゥルグールの別名として地域資料に記されます。
- 黄金のトゥルグール
- 保存団体が1978年に始めた菓子のコンクール。仏名Teurgoule d’Or。







