Sweetlore世界のお菓子図鑑(234)

シュシュ
Xuixo
発酵生地の巻きにクリームを包み、砂糖をまとう
揚げ菓子 / スペイン・ジローナ

砂糖をまとった発酵生地を割ると、淡い黄色のカスタードが太い芯になって現れます。シュシュ、シュイショとも記されるジローナの揚げ菓子は、生地を巻いてクリームを包み、両端を閉じてから油で膨らませるもの。パンとカスタードの二つの仕事を、一人分の細長い形に収めます。市が一九一八年を起点に祝う来歴と、くしゃみの音に名を求める道化の伝説が、ともに町へ根付いています。
冷ました生地とクリームを巻き、端を閉じる
土台は、小麦粉、酵母、糖などを合わせる発酵生地です。卵や油脂の扱いは配合によって異なります。延ばした生地へクリームを置き、包むように巻きます。平面の生地を筒にするので、切り口には、中身を囲む生地の重なりが現れます。酵母の気泡を持つ生地を油で加熱すると、外側は色づき、中は柔らかくふくらみます。
生地の継ぎ目を閉じ、揚げる時にクリームが流れ出ない形へ整えます。外側が金色になったら油を切り、砂糖へ転がします。焼き色のある面へ白い粒が薄くつき、食べ始めには砂糖と揚げた皮、その後にクリームという順で、味と口当たりが重なります。
カタルーニャ州の地域食品目録は、粉乳と卵も含む薄い生地を延ばし、クリームを詰めて巻き、両端を内側へ折る製法を紹介しています。中央が厚く、端がやや細くなる形で、表面には生地を巻いたひだが残ります。
料理人ロシオ・アロヨの公開ルセット(材料の配合と作り方)では、小麦粉、水、バター、砂糖、生酵母、塩、レモンの皮を捏ねます。生地を休ませ、一個分ずつ丸めて冷蔵し、クリームも冷めてから包みます。卵黄は中身のクリームに使い、生地は卵を加えずにまとめる型です。
芯の硬さと、地元の山羊乳の新しい中身
代表的な中身は、牛乳、卵黄、砂糖、でんぷんや粉などを加熱したカスタードです。バニラなどで香りをつけ、とろみを出してから冷まします。生地を巻く時に流れすぎない硬さにすることが、細長い一個の中へ、厚い芯を保つ仕事になります。
現在はチョコレート、りんご、カベイ・ダンジェルと呼ぶ繊維状の果実の甘煮などを詰める展開もあります。ウリャストレットの家族経営レクイッツ・ヌリは、地元の山羊乳から作るレクイット・デ・ドラップを詰めた型も紹介しています。同じ揚げた円筒が、違う土地の食材を受け止めます。外側の砂糖の歯ざわりを残しながら、中身の濃さと香りを変えられる形です。
一九一八年のプッチと、町の百周年
ジローナ市は二〇一八年をシュシュの百周年として祝い、市内のプッチ菓子店で一九一八年に生まれたと考えられる来歴を紹介しました。かつての店の場所には記念のプレートが置かれ、菓子職人のコンクールや実演も行われました。町の一個が、都市の記憶を残す対象にもなっています。
市の子ども向け観光案内は、フランスの chou à la crème と呼ばれるクリーム菓子が手掛かりになった可能性も紹介しています。クリームを詰めるシューからの着想に、地元では発酵生地を巻いて揚げる製法が重なります。
閉店の後も、職人が伝えた生地と芯の均衡
プッチの店と現在の職人を結ぶのは、記念の年だけではありません。ジローナ市が伝える2026年のコンクール優勝者、ジョゼップ・マリア・トルネスは、閉店したプッチの職人が自分たちの店へ移り、そこから作り方を受け継いで改良したと語っています。本人も1990年代に「ジローナのシュシュの十箇条」の作成に加わりました。市の取材では、生地とクリームの重量の均衡を求めると説明し、審査員もその釣り合いと生地の軽さを評価しています。
発祥店がなくなっても、生地の厚みと芯の量をそろえる仕事は、移った職人とともに次の店へ受け継がれました。
袋の中のくしゃみ、祭りで回るタルラー
ジローナには、タルラーという人物と菓子を結びつける話もあります。 市の春祭りの解説によると、ペストのため隔離されたアルジャンタリア通りで、彼が曲芸をして住民を楽しませたという伝承があり、現在も人形を通りに渡した棒へ吊り、回してその姿を再現します。市の教育資料では、菓子職人の娘に会いに来たタルラーが、小麦粉の袋に隠れ、くしゃみで見つかったと語られます。父親に許してもらうため、まだ知られていない菓子の作り方を教えると約束し、その菓子をくしゃみの音にちなんでシュシュと呼んだ、という話です。
歩いた人に配る、連帯の一個
シュシュは、がん患者と家族を支援するオンコリガ・ジローナ財団のチャリティーウォークにも名を貸しています。二〇二五年の「マルシャ・デル・シュシュ」では、ジローナ近郊を歩いた参加者に、地方の菓子職人団体やパン店が提供するシュシュが振る舞われました。朝食や午後のおやつで親しまれる一個が、この日には地域の人が歩き、支援を寄せる活動をつないでいます。
用語解説
- ジローナ
- スペインのカタルーニャ地方の都市。
- カスタード
- 乳、卵、糖などを加熱して作るクリーム。
- カベイ・ダンジェル
- かぼちゃ類の繊維を残して甘く煮たもの。
- ロシオ・アロヨ
- スペインの料理人。Canal Cocinaで発酵生地とクリームのルセットを公開する。
- レクイット・デ・ドラップ
- 布で包んで作る、柔らかなフレッシュ乳製品。
- レクイッツ・ヌリ
- ウリャストレットで地元の山羊乳を使う乳製品製造者。
- プッチ菓子店
- ジローナ市が1918年のシュシュの誕生地として顕彰する店。閉店後は職人が他店へ移り、製法を伝えた。
- ジョゼップ・マリア・トルネス
- ジローナの菓子職人。2026年のコンクールで優勝し、プッチからの継承と改良を語った。
- タルラー
- ジローナの伝説に登場し、シュシュの名の物語にも結びつく人物。
- オンコリガ・ジローナ財団
- 地域のがん患者と家族を支援し、チャリティーウォークも主催する団体。







