Sweetlore世界のお菓子図鑑(234)

キュベルドン
Cuberdon
紫の薄い殻に、ラズベリーの甘い中心
砂糖菓子 / ベルギー

紫がかった小さな円錐を噛むと、薄い砂糖の殻が割れ、ラズベリーの香る柔らかなシロップが現れます。ベルギーのゲントで親しまれるキュベルドンです。出来てからも結晶化が進むため、食べる時期によって殻と中心の対比が変わります。
でんぷんの粉に円錐のくぼみを作る
キュベルドンの形は、厚く敷いたでんぷんの粉へ型を押し、できたくぼみへ糖液を流して作ります。金属の容器から同じ形を抜くのではなく、粉の中に一粒ずつ円錐を写し取る方法です。
糖液には砂糖と果実の香料を使い、アラビアガムでまとまりを与えます。ゼラチンを併用するルセット(材料の配合と作り方)もあります。銅鍋などで材料を加熱して均一なシロップにし、熱いうちに粉の型へ注ぎます。外側の殻と中のシロップを別々に作って詰めるのではなく、同じ糖液から、硬さの異なる内外を作り出します。
七日間の乾燥で薄い殻を立てる
型へ流した後は、低温で時間をかけて乾燥させます。たとえば、伝統製法を公開するレオポルドの工程では、約55度の乾燥室で七日間置きます。表面が固まって殻となっても、中心には柔らかな状態を残します。
型から出した菓子には、でんぷんの粉が付いています。これを空気や刷毛で丁寧に落とすと、光沢の強い透明な飴とは異なる、きめの細かな砂糖の表面が現れます。糖液の配合と乾燥の加減は、殻が薄く立ち、しかも中身が漏れ出さないための要点です。
完成後にも厚くなる砂糖の殻
キュベルドンは、出来上がってからも質感が変わります。薄かった砂糖の殻は週を重ねると厚くなり、中心も結晶化が進んで、流れるシロップから、より密な柔らかい糖菓へ近づきます。新鮮なものほど、殻を割った瞬間と中心の柔らかさの差がはっきりします。
製作者が勧める期間には配合や保存状態による幅がありますが、薄い殻と流動的な中心を楽しむには、鮮度が大切にされます。涼しく乾いた場所で、直射日光や急な温度・湿度の変化を避けて扱います。
薬剤師の失敗、聖職者の帽子
ゲントの観光案内には、薬のシロップを長持ちさせようとした薬剤師が、外だけ固まり中が液体のまま残るのを見て菓子にした、という発見譚があります。レオポルド社には、十九世紀のブルッヘ近郊の聖職者が初めて作り、形から「司祭の帽子」と呼んだ、という別の伝承が残ります。保存の失敗を語る話と、作り手と形を結ぶ話で、どちらが実際の発明者かは定まっていません。
同社は、第二次世界大戦中にアラビアガムが不足し、一九四六年に再び手に入ってから製造を再開したとも伝えます。これは同社の継承する製造史で、全国の作り手が同じ年に再開したという記録ではありません。
菓子名 cuberdon は、ワロン語・ピカルディ語の cul d’bourdon という形へさかのぼります。一九三六年以前に記録されたこの方言形とは別に、現在の綴りの新聞用例が残るのは一九四六年です。さらに古い名付けの理由は定まっていません。
市場の「小さな鼻」から、遠方の贈り物へ
ゲントのグルーンマルクトなどの市場や菓子店では、紫の円錐を袋や箱へ詰めて売ります。市場や縁日で買い、長く取り置かずに食べる文化は、時間とともに変わる菓子の性質とよく合っています。近年はラズベリー以外の香りや色も加わり、シロップやアイスクリームなどへ味を取り入れる使い方もあります。
オランダ語系の愛称はネウゼケス、「小さな鼻」です。フランス語圏の「司祭の帽子」、シャポー・ダ・キュレとともに、尖った形を違うものへ見立てています。伝統的な製法を受け継ぐ製品は、フランドルの地域産品認証にも登録されています。
一方、買う場は市場に限られません。レオポルドはアンギャンの工房、惣菜店や高級食料品店、ワイン店、チーズ店などに販路を広げ、通信販売で国外にも発送します。同社が自製品の保存期間を製造から十一週間とする一方、新しいものほど殻が薄いと案内するように、商品として扱える期間と、薄い殻を楽しむ時期は同じではありません。箱に収めて遠くへ送れるようになっても、時間が菓子の質感を変える性質は残ります。
用語解説
- ゲント
- ベルギーの東フランドル州にある都市。キュベルドンの市場での販売や愛称と結びつきます。
- ネウゼケス
- オランダ語系の愛称で「小さな鼻」の意。単数形はネウゼケ。
- アラビアガム
- アカシア類から得られる植物性のガム質。キュベルドンの糖液をまとめる材料です。
- でんぷん型
- 粉へ形を押し、そのくぼみに液状の材料を流す製菓の型。型のでんぷんは、菓子の形を受け止める側の材料。
- 結晶化
- 糖などが規則的な構造を持つ固体になること。中心の流動性が変わる要因となります。
- シャポー・ダ・キュレ
- フランス語で「司祭の帽子」。キュベルドンの円錐形に付けられた別名。







