Sweetlore世界のお菓子図鑑(234)

カリソン
Calisson
アーモンドと砂糖漬け果実を、一口の舟形に
砂糖菓子 / フランス

白い糖衣と薄いパン・アジムの間に、アーモンドと砂糖漬けメロンの柔らかなペーストが収まります。エクス・アン・プロヴァンスのカリソンは、果実を香りだけでなく中身そのものに使う砂糖菓子です。低い細長い形は、底の薄片に支えられ、上の糖衣で輪郭を整えます。王妃の笑顔と町の祝福をめぐる物語も、その小さな白い姿に結びつきました。
砂糖漬けメロンも、生地を作る
伝統的な型の主な材料は、皮を除いたアーモンド、砂糖漬けのメロン、糖のシロップです。少量の砂糖漬けオレンジの皮や、オレンジ花水などを添える仕立てもあります。メロンは香りを加えるだけの材料ではなく、ペーストそのものを構成します。アーモンドと糖を主体に練るマジパンより、砂糖漬け果実の風味と柔らかさが中心へ入ります。
果実とアーモンドを細かくし、熱した糖液を合わせて練り、加熱してなめらかな生地にまとめます。休ませてから成形する工程もあり、工房によっては三日間寝かせます。材料の比率や休ませる日数には、製造者ごとの違いがあります。
下で支える薄片、上で固まる白い皮
ペーストは、薄いパン・アジムの上に、細長い型へ沿って押し出します。柔らかな中身を底の薄片で支え、上からグラス・ロワイヤルを塗り、型から外します。グラス・ロワイヤルは糖と卵白を使う糖衣で、乾くとなめらかな薄い皮になります。
中心のペーストと上面の糖衣は、別々につくる部分です。形をそろえるだけでなく、糖衣を側面へ流しすぎず塗り、輪郭を崩さず型から外す作業も仕上がりを左右します。伝統型の白い表面に対し、現代には果実の風味に合わせて糖衣を着色するものや、チョコレートを合わせるものもあります。
婚礼で王妃が笑ったという伝説
一四五四年、ルネ王とジャンヌ・ド・ラヴァルの婚礼で、王妃が菓子を食べてようやく笑ったという話が伝わります。エクスの宮廷菓子職人が差し出した一口で、沈んだ表情の王妃が笑い、周囲の者がプロヴァンス語で「Di calin soun(抱擁だ)」と言った、と語る版があります。王妃自身の言葉とする版もあり、この句は菓子名に「抱擁」を重ねる後世の語呂合わせです。婚礼当時の献立や配合も知られておらず、一四五四年を創作年とはできません。
語源には別の説もあります。辞書には、葦を編んだ小さな台を指す canissoun の音が変わったとする説が見られます。言語学者フィリップ・ブランシェは一九九八年、lを含む古い語形の方が早く、確実な例も多いとしてこれに反対し、聖杯の calice と縮小辞 -oun による「小さな聖杯」を有力と考えました。聖餐の宗教的比喩を検討した説ですが、北イタリアの近縁語との伝播方向は未決着です。
古い名前と、メロン入りになるまでの空白
歴史家ノエル・クーレは、マエストロ・マルティーノの「caliscioni」というマジパン入り包み菓子を、イタリアの古い候補に挙げます。薄片にメロンのペーストを載せ糖衣で覆う現在型とは、材料も成形も同じではありません。一六二八年刊、クロード・ブリュエの詩には菓子名が現れますが、その形と材料までは分かりません。一五〇三年という辞書の用例も、元文書を追えないとクーレは指摘しています。名の古さから現在の姿の成立までには、まだ隔たりがあります。
商業化の記録には、一八三五年、パリでルネ王の肖像を箱へ付けて売った広告があります。婚礼の王のイメージも、売られる菓子に重なっていきました。
菓子を祝福する九月と、名前を守る動き
九月の祝福行事は、一六三〇年、ペスト流行を受けて市の役人マルテリーらが立てた誓願に結びつけて語られます。当時の礼拝や行列に菓子の配布は確認できず、現在の菓子祝福は一九九六年に始まりました。古い市の誓願が、菓子を祝う新しい行事の背景となっています。
九月の祝福とは別に、カリソンはプロヴァンスのクリスマス・イヴに並ぶ「十三のデザート」にも数えられます。ナッツや乾果、ヌガーなどとともに小菓子を取り分ける卓では、日常の一粒とは異なる季節の役目を担います。
製造者たちは「Calisson d’Aix」の名を守るため、原料と製造地を定めた地理的表示の認定を求めてきました。アーモンドと砂糖漬け果実を使い、エクスの菓子として作るという輪郭を、名称の条件にしようとする動きです。
用語解説
- パン・アジム
- 酵母で発酵させない薄片。カリソンでは柔らかなペーストの底を支えます。
- グラス・ロワイヤル
- 糖と卵白などを合わせ、乾くと固まる白い糖衣です。
- マジパン
- アーモンドと糖を主体に細かく練ったペースト状の製菓材料です。
- ルネ王
- 十五世紀のアンジュー公・プロヴァンス伯。カリソンの婚礼伝説に登場します。
- ジャンヌ・ド・ラヴァル
- 一四五四年にルネと結婚した人物。カリソンを食べて笑顔になったという伝説に登場します。
- フィリップ・ブランシェ
- プロヴァンス語の語形を比較し、カリソンの語源を論じた言語学者です。
- ノエル・クーレ
- カリソンの古い名称とエクスの祝福行事を調べた歴史家です。
- マエストロ・マルティーノ
- 古いイタリア料理書で「caliscioni」を記した料理人です。
- クロード・ブリュエ
- 十六〜十七世紀のプロヴァンス語の詩人。一六二八年刊の詩集にカリソンの名を記しました。
- マルテリー
- ペスト流行期のエクスで市政を担った役人。感謝の行列と礼拝を行う誓願が、現在の祝福行事の背景となっています。
- 十三のデザート
- プロヴァンスのクリスマス・イヴに、菓子や果実など十三種を供する習慣です。







