Sweetlore世界のお菓子図鑑(234)

フリトゥレ
Fritule
柑橘の香りを閉じ込めた、小さな黄金色の丸
揚げ菓子 / クロアチア

匙から油へ落とした小さな生地が、不ぞろいな丸や小さな突起を作ります。クロアチアのアドリア海沿岸などで親しまれるフリトゥレは、柑橘の皮やラム、ラキヤを香らせた一口の揚げ菓子です。クリスマス前夜や謝肉祭の卓に現れる同じ名の丸にも、酵母で膨らませるもの、ヨーグルトを混ぜてすぐ揚げるもの、じゃがいもを使うものがあります。
一つの名に三つの生地
小麦と乳、酵母で作る発酵生地、ヨーグルトとベーキングパウダーですぐ膨らませる生地、ゆでたじゃがいもを使う生地。フリトゥレのルセット(材料の配合と作り方)は、柔らかな生地を小さく揚げるという共通点を持ちながら、膨らませ方と粉をつなぐ材料が異なります。
ダルマチア沿岸のパコシュタネに伝わる酵母型は、ぬるい乳と少量の糖で酵母を起こし、粉、卵、糖、酒などを合わせます。ラムに漬けたレーズンを混ぜ、温かい場所でおよそ倍に膨らむまで待ちます。発酵して柔らかくなった生地を、少量ずつ油へ入れる作り方です。
ヨーグルト型では、小麦粉、ヨーグルト、卵、ベーキングパウダーを混ぜ、長い発酵を待たずに揚げます。すりおろしたりんごを入れれば、果実の水分と細かな繊維が生地に散ります。りんごを使わず、レーズンや柑橘の香りを中心にする仕立てもあります。
生地の柔らかさをどこで整えるか
ヨーグルトは固形か液状かで、同じ粉量に対する水分が変わります。料理人メルキオル・バシチのりんご入りの型では、固いヨーグルトならオレンジの果汁と皮を加え、液状なら果汁を控えます。生地を少量ずつ油へ落とせる柔らかさに合わせる調整です。
レモンやオレンジの皮は香りを添え、ラムや果実の蒸留酒ラキヤは、生地そのものにもレーズンの漬け汁にも使います。糖を生地へ多く入れすぎると、中心へ火が入る前に表面が色づきます。甘さの一部を揚げた後の砂糖に担わせることで、中まで加熱する時間と表面の色を整えます。
じゃがいも型では、ゆでてつぶしたいもへ、粉、卵、柑橘の皮、酵母などを合わせます。料理人イノ・クヴァチッチのルセットは、ラムを含ませたレーズンを入れ、一時間ほど休ませてから匙で揚げるもの。ヨーグルトやりんごを混ぜる型とは、粉をつなぐ材料の組合せが違います。
丸は手の中から生まれる
フリトゥレの生地は、延ばして型抜きするほど硬くありません。片手を軽く握って生地を押し出し、もう片方の小匙ですくって油へ落とす方法があります。二本の匙で落とす、絞り袋から出た生地を長さと幅がそろうところで切り落とす、といった方法でも小さな丸を作れます。
油へ一度に詰め込むと温度が下がり、生地が向きを変える場所もなくなります。少量ずつ両側を黄金色まで揚げ、油を切って、温かいうちに砂糖を振ります。均一な型がないからこそ残る突起や丸みが、柔らかな生地を揚げた跡です。
海を挟んでつながる揚げ菓子の名
単数形は fritula、複数形は fritule。語源はヴェネツィア方言の frìtola、イタリア語の frittella に結び付きます。アドリア海を挟む土地に、揚げ菓子を表す言葉のつながりがあるのです。クロアチア語の辞典はじゃがいも生地の丸い揚げ物を代表的な意味として挙げますが、沿岸の家庭には乳と酵母、ヨーグルトの型も並びます。言葉の親しさを共有していても、それぞれの台所で選ばれる材料は一つではありません。
冬の食後にも、客を迎える一口にも
スプリトのクリスマス前夜には、塩漬け・干し鱈などの料理に続いて、温かいレーズン入りフリトゥレを家族で囲む食卓が伝わります。同じ卓のクロシュトゥレは薄く細長い帯の揚げ菓子で、丸いフリトゥレとは形が異なります。リエカでは謝肉祭に酵母型を作る例があり、土地と祝日によって選ぶ生地も違います。
クヴァチッチが伝えるじゃがいも入りは、干しいちじくや果実の蒸留酒とともに、祝いの始まりに客を迎える菓子でもあります。同じ小さな丸が、食後の甘味にも、祝宴の最初の一口にもなるのです。
用語解説
- ラキヤ
- バルカン地域などで飲まれる、果実を原料とする蒸留酒の呼称。
- ベーキングパウダー
- 水分や加熱によってガスを生じ、生地を膨らませる膨張剤。
- 謝肉祭
- キリスト教の四旬節前に行う祭り。
- メルキオル・バシチ
- クロアチアの料理人。ヨーグルト、りんご、柑橘を加えるフリトゥレの作り方を紹介しています。
- イノ・クヴァチッチ
- クロアチア出身の料理人。じゃがいもを用いるフリトゥレのルセットと祝いの食べ方を伝えています。
- fritula/fritule
- クロアチア語の単数形/複数形。辞典はヴェネツィア方言 frìtola、イタリア語 frittella との語源関係を挙げる。
- クロシュトゥレ
- ダルマチアの薄い帯状の揚げ菓子。フリトゥレと同じ祝いの卓に出るが形が異なる。
調査注記
語源の関係はHrvatski jezični portalによる。現在のすべての配合がヴェネツィアの一つのルセットから直接伝わったことまで示す資料ではなく、言語上のつながりと各地の製法史を同一視しない。







