Sweetlore世界のお菓子図鑑(234)

クレイヌル
Kleinur
菱形の切れ目へ端を通す、ねじり揚げ菓子
揚げ菓子 / アイスランド

菱形の中央へ切れ目を入れ、片端を一度くぐらせると、平たい生地がねじれた立体に変わります。クレイヌルは、アイスランドで日常のコーヒーにも添える揚げ菓子。一個ならクレイナ、複数ならクレイヌルです。金色の皮に残る穴と溝は、型へ押し込むのでなく、切り目を通す一手で作られます。
柔らかな酸乳生地を延ばす
生地は小麦粉、糖、卵、乳、油脂などで作ります。ヨーン・エーバーハルトのルセット(材料の配合と作り方)は、サワークリームと重曹、牛乳またはバターミルクを使い、ナツメグとバニラを香らせるものです。酸味のある乳と膨張のための材料を組み合わせます。
卵と糖へ、重曹を混ぜたサワークリームを加え、乳と粉類を交互に入れます。硬くしすぎず、延ばして切れる程度にまとめ、作業台では軽く整えます。粉を足しすぎず、強く混ぜ続けないことが、揚げた内部の柔らかなほぐれにつながります。
数ミリに延ばした生地を帯に切り、さらに斜めに切って菱形にします。中央へ縦の切れ目を一本入れ、片端を通して引くと、両側がねじれて細い開口が残ります。専用の切り車クレイニュヤールンを使うほか、ピザカッターなども使えます。幅と長さをそろえることは、油の中で火の通りを近づける仕事でもあります。
熱い油へ入れて途中で返し、両側を金色にします。伝統的には獣脂、現在は植物油などを使う型もあります。油を切った一個には、薄い端の歯ごたえと、少し膨らんだ厚い中央の柔らかさが残ります。粉砂糖を振る食べ方はあっても、厚い糖衣やクリームで、穴と焼き色を隠す必要のない構成です。
1800年の本には切れ目が二本
1800年のマグヌース・ステフェンセンの料理書には、古い印刷ルセットが残ります。そこでは、中央の一本ではなく、中心の両側に二本の切れ目がありました。同じ名の中にも、成形の仕方の変化があります。
古い切り車には、鯨骨で作られたものも記録されています。名はドイツ語 klein「小さい」へ結びつけられ、北・西ヨーロッパの揚げ菓子文化とのつながりが見えます。
クリスマスの近縁型と、日々のコーヒー
ノルウェーのファッティマンも、切れ目へ端を通す菓子です。乳業TINEのクリスマス向けルセットは、卵黄と糖、泡立てた生クリーム、コニャック、香辛料へ、泡立てた卵白を合わせます。冷たい場所で一晩休ませ、ごく薄く延ばして揚げます。酸乳と重曹のクレイヌルとは、形が近くても、泡の入れ方と生地の厚みが異なります。
隣国の近縁型がクリスマスの菓子となる一方、近代以降のアイスランドでは、日常のコーヒーに添える位置を得ました。19世紀後半から20世紀初めの移住者は、カナダや米国の家庭へも伝え、ヴィーナルテルタなどとともに故郷を表す菓子にしています。菓子の移動と、その名で暮らしに定着する過程が重なります。
来客に備えて覚える仕事
人類学者ニーナ・ローズ・イスベルグの2010年の研究は、戦後アイスランドへ移ったドイツの女性たちの記憶を伝えます。一人は、食事の間にも何度もコーヒーの時間があり、クレイヌルなどを作り続けたことを、日曜に菓子を焼くドイツでの暮らしと対比しました。
別の女性は、客へ何種類も用意する習慣に合わせようとし、この菓子を上手に作れるまで苦労したと回想します。特定の世代と地域への聞き取りですが、ねじる一個が日々のおやつだけでなく、家に人を迎えるために身に付ける仕事だったことを、具体的に伝えています。
用語解説
- クレイニュヤールン
- クレイヌルの生地を切るための専用の切り車。
- サワーミルク
- 酸味を持つ乳。重曹と組み合わせる配合にも使う。
- ヨーン・エーバーハルト
- クレイヌルの公開ルセットを提供した人物。
- ニーナ・ローズ・イスベルグ
- 移住女性とアイスランドの家庭生活を聞き取りから研究した人類学者。
- ファッティマン
- ノルウェーでクリスマスにも作る、ねじった薄い揚げ菓子。
- マグヌース・ステフェンセン
- 1800年の料理書にクレイヌルの二本切れ目型を記した著者。
- スールヴェイグ・オーラフスドッティル/グズルーン・ハトルグリムスドッティル
- アイスランド大学の知識サイトで古い菓子記録と家庭への広がりを紹介する著述者。







