Sweetlore世界のお菓子図鑑(534)

グラブ・ジャムン
Gulab Jamun
乳を煮詰めたコアが生地になる
揚げ菓子 / インド各地・南アジア

グラブ・ジャムン(Gulab Jamun)は、乳固形分を主にした生地を丸めて揚げ、甘い糖蜜を中まで含ませる南アジアの菓子です。褐色の表面はなめらかで、切ると内側には細かな気孔があり、柔らかな乳生地と蜜を一緒に食べられます。インド、パキスタン、バングラデシュ、ネパールなどで親しまれ、祝いの食卓にも、菓子店の日常の品ぞろえにも現れます。
乳を煮詰めたコアが生地になる
伝統的な生地の土台は、乳を煮詰めたコアです。コーヤ、マーワーなどの呼び名もあります。乳を広い鍋で加熱し、かき混ぜながら水分を飛ばすと、乳の固形分が集まり、柔らかな練り生地のようになります。コアは、乳の固形分を集めた、菓子の材料となる乳製品です。
コアには、水分が少なく密にまとまったもの、粒がはっきりしたもの、柔らかく水分を多く残すものがあります。グラブ・ジャムンに適するのは、ダープと呼ばれる水分の多い種類です。残った水分がマイダという精製小麦粉や、加える場合のセモリナへ行き渡り、ほかの材料と均等に混ざることを助けます。ペーダーやバルフィに使うコアと、必要な性質が違います。
コアに小麦粉や少量の膨張剤を合わせ、ひびのない球へ成形します。小麦粉は乳素材を1つの生地へまとめる役割を担い、膨張剤を用いる作り方では、揚げる間に内部へ気孔を作ります。粉が多いものと乳が多いもの、湿りのあるコアと乾いたコアでは、同じ加水量でも生地の状態が変わります。
粉乳から作る現在の形
現在は、生のコアを使う方法に加え、粉乳や専用のミックスから作る方法も広く用いられます。粉乳を使う場合は、乳固形分を先に乾燥した素材から取り、水分を戻して生地へ仕立てます。乳業協同組合ミルマの製品にも、コア、小麦粉、脱脂粉乳を合わせて揚げ、糖蜜を含ませて缶に詰めるものがあります。
また、乳を酸で固めたチェナーを加える配合もあります。チェナーとコアはどちらも乳素材ですが、前者は酸で凝固させて水分を切ったもの、後者は乳の水分を加熱で減らしたものです。コアを中心にする生地と、チェナーを組み合わせる生地では、乳の状態に合わせて粉や水分の配合も変わります。
揚げ色の前に、中心の構造がある
成形した生地は、ギーや植物油脂でゆっくり揚げます。表面を褐色にするだけでなく、内部まで加熱して、蜜が入る組織を作る工程です。揚げる間には水分の蒸発、でんぷんや乳たんぱく質の変化が起こり、表面と中心の状態が変わります。外側だけ急に色が付いたものと、中心まで均等に加熱したものは、切った時にも食感にも差が現れます。
油温は生地と設備に応じて選ばれます。コア中心のルセット(材料の配合と作り方)には、130〜140℃程度で揚げるものがあります。低い圧力で揚げる真空揚げも研究され、インド工科大学カラグプル校での試験では、チェナーとコアを合わせた同じ生地について、常圧160℃で4分の加熱と、125〜145℃で8〜12分の低圧加熱などを比較しました。その実験で選ばれた真空揚げの試料は、比較した常圧のものより油脂が少なく、柔らかく、内部に気孔があることが確認されています。乳生地の配合とともに、加熱中の圧力も内部構造を変える要素です。
揚げた生地は糖蜜に移し、十分な時間をかけて含ませます。蜜が中まで入ることで、しっとりした柔らかさに仕上がります。仕上がりは、糖蜜の濃さ、温度、浸す時間と、揚げた生地の気孔の状態との組み合わせによって変わります。細かな気孔は、軽さを作るだけでなく、糖蜜を受け入れる場所にもなります。
バラの名と、果実に似た形
グラブは、ペルシア語の花を意味するグルと、水を意味するアーブに由来する、バラ水の名です。ジャムンは南アジアの濃い紫色の果実を指し、丸い形と大きさが菓子の名前に重なっています。果実は材料としてよりも、形と色を連想させる名前として現れます。
糖蜜にはバラ水のほか、カルダモン、サフラン、ケウラを用いることがあります。バラ水が名前に残りつつ、香りは1種類に固定されていません。球だけでなく、楕円や円筒形の製品も作られます。
バラ水の糖蜜に揚げた生地を浸す菓子には、西アジアのルクマ・アル・カーディーなどがあります。ただし、乳を煮詰めたコアが中心の生地と、小麦粉を主体に発酵させる生地では中身が異なります。ムガル宮廷と結び付けた由来が語られる一方、現在のグラブ・ジャムンの成立を1人の調理人の1度の発明に結び付ける確かな年代は定まっていません。
色、乳素材、土地による呼び分け
カラ・ジャムンは、より濃い、黒に近い褐色に揚げたものです。生地にも糖を加える配合があり、糖蜜に浸す前の生地の違いが色にも関わります。一方、ベンガルのパントゥアはチェナーを含む乳生地を揚げて蜜に浸す菓子として知られます。製法が近くても、乳を濃縮するか酸で凝固させるかという素材の違いと、土地での呼び名が重なっています。
蜜から引き上げて供するドライ・ジャムンもあります。料理家ダッサナ・アミットの作り方では、揚げた球をいったん糖蜜へ浸し、蜜を切ってから細かな砂糖や乾燥ココナッツをまぶします。「ドライ」は蜜を含ませないという意味ではなく、周囲に液状の蜜を添えずに出す形です。内側のしっとりした生地に対し、外側には粒状の糖やココナッツが残ります。
ネパールの灯の祭り、南アフリカの細長い形
ネパールではラル・モハンの名で親しまれます。ティハールを前にしたカトマンズ盆地のジャワラケルの菓子店への取材でも、祭りに並ぶ品の1つとして挙げられています。ティハールには女神ラクシュミーへの供物や、兄弟姉妹の祝いであるバイ・ティカのために、菓子の詰め合わせを買う人々が訪れます。ラル・モハンは、その売り場でほかの乳菓子や揚げ菓子と並ぶ甘味です。
南アジア系の人々が暮らす南アフリカでは、練乳と小麦粉を中心にした細長いグラブ・ジャムンも作られます。現地の砂糖メーカー、ヒューレッツの郷土料理集では、練乳にギー、セモリナ、ナツメグ、カルダモンを合わせ、小麦粉と膨張剤を加えた生地を短いソーセージ形にします。揚げた後に温かい蜜へ2〜3分浸し、乾燥ココナッツをまぶす仕上げです。
同料理集が挙げる食べる機会には、結婚、誕生日、祈りの供物、ディーワーリー、イードがあります。コアを煮詰める工程を練乳へ置き換え、球を細長くし、短く蜜へ浸すという展開にも、土地で作り続けられる菓子の姿が表れています。
用語解説
- ペーダー
- コアに糖などを合わせて小さく成形する乳菓子。
- バルフィ
- 乳製品や豆粉、ナッツなどを糖と調理して固め、切り分ける菓子の一群。
- コア
- 乳を加熱して水分を減らし、練り生地状にした乳製品。コーヤ、マーワーとも呼ばれます。
- ダープ
- 水分を多く残し、柔らかい種類のコア。
- マイダ
- 精製した小麦粉。
- セモリナ
- 小麦の粗い粉。配合によって生地に加えます。
- チェナー
- 乳を酸で凝固させ、水分を切った乳製品。
- ギー
- 乳脂肪を精製した油脂。
- ミルマ
- ケーララ州の乳業協同組合連合によるブランド。
- ルセット
- 材料の配合と作り方の一式。
- ケウラ
- タコノキ類の雄花から得る芳香水。
- ルクマ・アル・カーディー
- 小麦粉の生地を揚げて甘い蜜を含ませる西アジアの菓子。
- ムガル
- 16世紀以降、インド亜大陸の広い範囲を支配した王朝。
- カラ・ジャムン
- 濃い褐色に揚げたジャムンの一種。
- パントゥア
- ベンガルの乳生地を揚げて蜜を含ませる菓子。
- ラル・モハン
- ネパールで使われるグラブ・ジャムン系の菓子の呼び名。
- ヒューレッツ
- 南アフリカの砂糖ブランド。本文の細長い練乳生地は、同社が公開する郷土料理集の一例です。
- ティハール
- ネパールの灯の祭り。菓子の贈答や供物を伴います。
- バイ・ティカ
- ティハールの時季に兄弟姉妹の結び付きを祝う日。
- ラクシュミー
- 富と繁栄に結び付くヒンドゥー教の女神。
- ディーワーリー
- 灯をともして祝う祭り。菓子を贈り、食べる機会でもあります。
- イード
- イスラム教の祝い。断食明けや犠牲祭などの祭日を指します。
- 真空揚げ
- 大気圧より低い圧力下で揚げる方法。水分の蒸発条件が変わります。
- ドライ・ジャムン
- 糖蜜を含ませた後、周囲の蜜を切って供するジャムンの一種。
- ダッサナ・アミット
- インドの料理家。本文では本人が公開するドライ・ジャムンの作り方を例にしています。







