Sweetlore世界のお菓子図鑑(534)

カジュ・カトリ
Kaju Katli
海を渡ってきたカシューナッツ
砂糖菓子 / インド各地

カジュ・カトリ(Kaju Katli)は、カシューナッツと糖を主体に作り、薄くのばして切り分ける菓子です。菱形の表面に食用銀箔が載った姿がよく知られます。カジュはカシューナッツ、カトリは薄い切片を示す語で、材料と形が名前の中にあります。厚い乳菓と違って、一口の中にナッツの細かな粒と油脂、砂糖の甘さが密にまとまっています。
海を渡ってきたカシューナッツ
カシューナッツの木はブラジル原産で、16世紀にポルトガル人によってインドへもたらされました。ゴアなどの沿岸へ広がり、やがて菓子の主材料としても使われるようになります。インドのカシューナッツ研究所は、当初は土壌や水を守るために植えられた作物だったと説明しています。海を渡った木の種子が、粉に挽いて糖とまとめる菓子の中心になったのです。
この作物の来歴は、カジュ・カトリという菓子そのものの発明年とは別の歴史です。現在のカジュ・カトリでは、乳を濃縮する代わりにナッツを細かくし、その油脂と糖を薄い1枚へまとめます。
カシューナッツを、どこまで挽くか
作り方には、ナッツを水に浸してペーストにする方法と、乾いたまま粉に挽く方法があります。生地の作り方は店や家庭によって異なります。粉から作る場合には、挽く工程でナッツの油を過度に出さず、扱いやすい細かさにすることが重要になります。
料理人サンジーヴ・カプールは、機械を短く動かしては止めることを繰り返して挽き、機械の熱で香りを損ねないようにする方法を示しています。ナッツは油脂を持つので、粉を得ることとナッツバターを作ることは同じではありません。滑らかな菓子にするために細かさは必要ですが、最初から流れるペーストにしてしまえば、糖と合わせたときの生地の扱いも変わります。
糖液から、切れる生地へ
砂糖は水に溶かして加熱し、煮詰めたところへナッツを合わせます。そこから生地をまとめ、まだ温かく柔らかいうちにのばし、冷やして切り分けます。小麦粉の生地を焼いて硬くするクッキーではなく、濃い糖液と挽いたナッツを合わせて、切れる硬さへ整える菓子です。
カプールの2011年のルセット(材料の配合と作り方)では、砂糖240グラムに対して粉末カシューナッツ400グラムを用い、糖液を118℃まで加熱したあとグルコースシロップ(液状グルコース)を加えます。このシロップは、でんぷんを分解して得られ、ブドウ糖や麦芽糖などを含みます。糖の結晶化を抑え、食感を整える働きがあります。配合と加熱の程度は作り手によって異なります。同じ料理人の別の作例には、糖液の糸の状態を目安にするやり方もあり、製法を調整する際の判断方法は1つではありません。
生地は、軟らかすぎれば形を保ちにくく、加熱しすぎればしっとりした口当たりを失います。仕上げでは、油脂を塗った面で軽く練り、平らにのばして厚みを整えます。菱形は特別な型から生まれるのではなく、平らな1枚を斜めに切り分けることでできます。
銀箔は皮ではなく、薄い飾り
表面の銀色はヴァルク(vark)という食用の金属箔です。ごく薄い飾りとして、生地の表面へ貼り付けます。銀箔を付けず、ナッツの淡い色をそのまま見せるものもあります。
その光沢を生む銀箔は、菓子職人とは別の金属箔職人が作ります。ジャイプルのパーニーガロン・カー・ラースターでは、ムスリムの職人たちが、紙の間に挟んだ小さな銀を冊子状に重ね、槌で繰り返し打ち延ばしてきました。2017年の現地取材には、工房の槌音とともに、銀箔をまとった菓子を店が贈答箱へ詰める光景が記録されています。薄い菱形の仕上げには、ナッツを練る技と、金属を透けるほど薄く延ばす技が重なっています。
また、カジュ・カトリを乳菓のバルフィと同じ棚に置く店は多いですが、カシューナッツと糖だけを主体に作れる点に特徴があります。一方で、製品やルセットによっては乳成分やギーを使います。乳成分の有無は、製品の配合によって異なります。
祝祭の箱に入る薄い菱形
カジュ・カトリは、ディーワーリーなどの祝いの贈答にも用いられます。平らな菱形を箱に並べると、淡い生地の上で銀箔が光ります。プネーのカラチ・スイーツでは、2025年の祭りを前に、チョコレートやイチジクの新しい菓子も扱う一方、贈り物にはカジュ・カトリを選ぶ客が多いと店側が語っています。企業向けに小型の贈答箱を用意する動きもあり、家庭同士の祝いに加え、職場の挨拶にもこの菓子が選ばれています。
サフランを加えるケーサル・カジュ・カトリ、干しイチジクを使うもの、薔薇の甘い保存食グルカンドを合わせるものもあります。ピスタチオの生地をカシューナッツの生地で巻くカジュ・ピスタ・ロールは、材料を重ねる方向を変えた近縁の菓子です。1枚を切るカトリと、芯を包んで巻くロールでは、ナッツの組み合わせを断面で見せる方法が異なります。
用語解説
- パーニーガロン・カー・ラースター
- ジャイプル中心部の、金属箔職人の工房がある通り。
- ムスリム
- イスラム教を信仰する人。
- カラチ・スイーツ
- プネーの菓子店。本文では2025年のディーワーリー取材で語られた贈答需要を例としています。
- サンジーヴ・カプール
- インドの料理人。本文ではナッツを粉にする方法と糖液を合わせる作例を取り上げています。
- ルセット
- 材料の配合と作り方の一式。
- グルコースシロップ(液状グルコース)
- でんぷんを加水分解して得る糖のシロップ。ブドウ糖や麦芽糖などを含みます。
- ヴァルク(vark)
- 南アジアの菓子などに用いる食用の金属箔。
- ギー
- 乳から水分と乳固形分を除いた油脂。
- バルフィ
- 乳やナッツなどを糖とともにまとめ、切り分ける菓子群。
- ディーワーリー
- 南アジアで広く祝われる祭り。菓子の贈答も行われます。
- ケーサル
- サフランを指す語。
- グルカンド
- 薔薇の花弁を使う甘い保存食。
- カジュ・ピスタ・ロール
- カシューナッツとピスタチオの生地を重ね、巻いて作る菓子。







