Sweetlore世界のお菓子図鑑(534)

ルカイマート
Luqaimat
ラマダーンの市場と家庭
揚げ菓子 / カタール・UAEなど湾岸地域

ルカイマート(Luqaimat、لقيمات)は、小さく落とした生地を丸く揚げ、デーツの蜜や砂糖のシロップなどを掛ける湾岸地域の菓子である。カタールやアラブ首長国連邦などで親しまれ、ラマダーンの食卓にも並ぶ。外側の薄い揚げ皮と、内側の柔らかさ、その上から加わる蜜の甘さが一口の中に重なる。
アラビア語の名は「小さな一口」を意味する。似た揚げ菓子は広い範囲にあり、ロクマ、アワーメ、ルクマト・アルカーディーなどの名前でも知られる。ただし、形や蜜の掛け方は一定ではなく、名称をすべて1つの共通ルセット(材料の配合と作り方)に置き換えることはできない。
ラマダーンの市場と家庭
ラマダーンには、日没後に断食を解くイフタールや、その後の集まりに甘い揚げ菓子が用意される。ルカイマートは、大きな菓子を切り分ける必要がなく、皿に盛って1個ずつ取れる。カタールでは、市場で作りたてを買う食べ方と、家で揚げて家族や客に出す食べ方の両方がある。
発酵した生地を油へ落とす
小麦粉、水、酵母などを混ぜた生地を置き、気泡が見える状態にしてから、少量ずつ油へ落とす。手で丸い団子を固くこねるというより、柔らかな生地を小分けにし、揚げる間に膨らませる作り方が多い。外がこんがりした色になっても、中は柔らかく残る。この外側と内側の差が、蜜を加えた時の食感の土台になる。
生地に牛乳を加える作り方、水を中心にする作り方、コーンスターチやベーキングパウダーを併用する作り方がある。酵母だけで膨らませるものと、別の膨張剤も合わせるものは、待つ時間も扱いも同じではない。牛乳入りでは乳の風味が加わり、水を主体とする生地では香辛料や仕上げの蜜が前に出る。
揚げる時には向きを変え、表面全体に色を付ける。出来上がった球を油から引き上げ、余分な油を切ってから甘味を加える。カタールでは、作りたての外皮と温かい中身を味わう、屋台や軽食店の菓子としても親しまれている。スーク・ワーキフでは、家庭料理を売る女性たちがその場で揚げる例がある。
蜜は1種類ではない
湾岸のルカイマートには、デーツを煮詰めたディブスを掛けるものがある。濃い色の蜜が球の間へ入り、表面にごまを散らす場合もある。砂糖のシロップや蜂蜜を合わせるものもあり、カタールではカルダモンやサフランの香りを伴うものが知られる。香辛料を生地に加えるか、甘い仕上げに含めるかは作り方で異なる。
近年の家庭向けには、練乳やチョコレートなどを掛ける例もある。こうした仕上げは、揚げた球形の生地という骨格を保ちながら、甘さと香りを変える。デーツ蜜の品と乳のソースの品では、見た目の色だけでなく、果実を煮詰めた風味と乳の濃さという違いが出る。
同じ名の古い揚げ菓子
「裁判官の一口」を意味するルクマト・アルカーディーの名は、中世アラビア語の料理書に見られる。1226年にバグダードで著された料理書では、こねて発酵させた生地をハシバミの実ほどに取り、ごま油で揚げ、シロップに浸し、細かい砂糖を振る作り方が記される。小さな発酵生地を揚げて甘く仕上げる点は現在のルカイマートと似ている。ただし、料理書にこの名が見えることと、現代の湾岸式が1226年に完成していたことは別である。
一方、14世紀の『よく知られた料理の記述』に伝わる同名の菓子には、アーモンドやピスタチオと砂糖を練った餡を、薄い生地で覆って揚げるものがある。現代の湾岸の一口と比べると、生地自体が主体になるか、ナッツ餡を包む薄い衣になるかという違いが大きい。中世には同じ名前でも複数の構造があり、香りや仕上げを変えながら続く揚げ菓子の幅が読み取れる。

クウェートのルカイマート。小さな球形の揚げ生地と、表面を覆う蜜の艶が見える。 写真:Aldousari/CC BY-SA 3.0、元画像。
用語解説
- ラマダーン
- イスラーム暦の第9月。ムスリムが夜明けから日没まで断食を行う月。
- イフタール
- ラマダーンに日没後の断食を解く食事。
- ディブス
- 果実などの汁を煮詰めた蜜。ここではデーツの蜜を指す。
- スーク・ワーキフ
- カタールの首都ドーハにある市場。伝統的な料理や菓子を売る場所でもある。
- よく知られた料理の記述
- 中世アラビア語料理書の題名の日本語訳。14世紀の写本にナッツ餡入りの揚げ菓子が伝わる。
- ルクマト・アルカーディー
- 「裁判官の一口」を意味する揚げ菓子の名。中世アラビア語の料理書に見られる。







