Sweetlore世界のお菓子図鑑(534)

ムグリ
Meghli・Meghle
誕生を祝う、香辛料入りの米のプディング
デザート / レバノン

ムグリ(Meghli、Meghle、مغلي)は、米粉と水、砂糖に、キャラウェイやシナモンの香りを加えて煮るレバノンの菓子です。褐色の滑らかなプディングを小鉢に注ぎ、白いココナツと色とりどりのナッツをのせます。牛乳で米粒を炊くライスプディングとは違い、細かい米粉で水をとろませて作ります。米は主食の粒ではなく、スプーンですくえる柔らかな形を作る材料として使われています。
褐色と香りを作るのは、米ではなく香辛料
ムグリの芯になる香りはキャラウェイです。種子のように見える小さな果実を挽き、シナモンと合わせて使います。アニスを加えるルセット(材料の配合と作り方)もありますが、すべてに入るとは限りません。米粉だけなら白いプディングになるところを、挽いた香辛料が褐色に変え、甘味の中に温かみのある香りを加えます。
キャラウェイには、クミンとは異なる甘く爽やかな香りがあります。近隣地域では、キャラウェイのアラビア語名に由来するカラウィヤという名で親しまれる類似のプディングもあります。呼び名が変わるとともに温かく供する例もありますが、国境だけを境に温度が一律に切り替わるものではありません。同じキャラウェイの香りを、冷たい小鉢と温かい器の両方で味わう形があるのです。
沸いてからも混ぜる理由
ムグリの名は「煮たもの」に結び付けられます。米粉、砂糖、挽いた香辛料を先に混ぜ、冷たい水か常温の水でよく分散させてから火にかけます。熱湯へ米粉をまとめて入れると塊ができやすく、粒のない滑らかさを得にくくなります。加熱中も混ぜ、沸いてから火を弱めて煮ることで、米粉が水を含んでとろみのある状態になります。
煮る時間は量や配合、火加減で変わります。少量の家庭向けルセットと、来客のために何倍量も作る鍋では同じではありません。イマンの少量のルセットでは沸いてから火を弱めて15〜20分ほど混ぜ、なめらかなとろみへ整えます。熱いうちに小鉢に分け、冷めるにつれてさらに落ち着いた固さになります。
誕生を知らせる小鉢
レバノンでは赤ちゃんの誕生を祝う菓子として知られ、お祝いに訪れた家族や友人へ、小さな器に盛って供します。家庭料理の作り手イマンは、娘の出産時に母から作り方を教わり、次の子の誕生を機にムグリのルセットを記しました。祝うために作る習慣と、母から子へ調理を教える機会が重なっているのです。
表面にはココナツ、ピスタチオ、アーモンド、松の実、くるみなどをのせます。滑らかな米の土台に粒や薄片が重なり、一口の中に異なる歯触りが生まれます。飾りの量や種類は家にあるものや好みに合わせて選べ、レーズンを添える家もあります。乳を使わない土台にナッツのこくが加わるため、牛乳のプディングとは別の味の組み立てになります。
キリスト教徒の家庭では、クリスマスにも作られます。キリストの降誕を、人の誕生を祝う菓子で迎えるわけです。食文化の保存活動家カマル・ムーザワクは、2016年の取材で、クリスマスに作る村の習慣が少なくなったと語っています。一方、ベイルートの家庭には今もクリスマスの食卓に置く例があります。同じ器が出産祝いと宗教行事の双方に置かれ、家族や共同体の祝いをつないでいます。
ムグリの褐色を肥沃な土に、上に散らすナッツを新しい命に見立てる説明もあります。子の誕生を知らせ、祝いに来た人へ手渡す小鉢に、こうした意味を重ねる作り手もいます。
左は米粉と香辛料を煮て小鉢に注いだ状態、右はココナツとナッツをのせた例。色・器の寸法・飾りの数は1家庭の規範を表さない。 模式図であり実寸ではない。 図:Sweetlore独自作図。
用語解説
- キャラウェイ
- セリ科の植物。香辛料として使う果実には、甘く爽やかな独特の香りがあります。
- アニス
- 甘い香りを持つセリ科の香辛料。ムグリに使うかどうかはルセットによって異なります。
- カラウィヤ
- アラビア語のキャラウェイの名に由来する呼称。周辺地域では類似のプディング名にもなります。
- イマン
- 家庭料理サイトSimply Lebaneseの作り手。自身の出産と母から教わったムグリについて記しています。
- カマル・ムーザワク
- レバノンの食文化を記録・発信する人物。クリスマスにムグリを作る村の習慣について語っています。







