Sweetlore世界のお菓子図鑑(534)

ブーザ
Booza
乳の冷菓を、搗いて伸ばす
デザート / シリア・ダマスカス、レバノンなど

ブーザ(Booza、بوظة)は、レバントで親しまれる乳の冷菓です。とりわけシリアのダマスカスに伝わるものは、滑らかに溶けるだけでなく、引き伸ばせる粘りと、噛んで味わう弾力を持ちます。筒形の冷凍容器の中で大きな棒を使って搗く工程が特徴で、ピスタチオをまぶして巻き、切り分けて供する形もあります。
サハラブとマスティックは、別の材料
乳と砂糖に加える特徴的な材料が、サハラブ(sahlab、salep)とマスティック(mastic)です。サハラブはラン科植物の地下の塊茎を乾燥させて粉にしたものです。乳に加えて加熱するととろみがつき、冷菓の厚みのある食感に関わります。マスティックは樹木から採る樹脂で、砕いて少量を使い、独特の芳香を添えます。白っぽい粉や粒という見た目が似ていても、植物の部位も役割も違います。
乳のクリームであるキシュタを加える形もあります。牛乳、生クリーム、キシュタをどのように組み合わせるかで乳のこくが変わり、サハラブの濃度や冷やし方も食感を左右します。料理家アニッサ・ヘルーは、乳のアイスクリームのルセット(材料の配合と作り方)でサハラブを少しずつ加え、混ぜ続けて塊を防ぐ工程を示しています。香りにはローズウォーターを使い、マスティックもよく分散させます。
ヘルーの家庭向けの作り方は、アイスクリーム機で冷却・攪拌するもので、街の職人が大型の棒で搗く製法とは道具も手順も異なります。サハラブの代わりにコーンスターチを使う案もありますが、同じ量で置き換える配合ではありません。市販のサハラブの粉も、純粋な塊茎粉と、でんぷんなどを混ぜた製品では働きが違います。
冷やした後にも、手をかける

2013年に撮影されたブーザの作り手。金属容器に入った冷菓を道具で扱う。
写真・図版:AlUmawi/CC BY 4.0/原図。Wikimedia Commons生成の450px縮小版を取得。追加のトリミング・色加工なし。原寸は共有環境の429を踏まえ未取得。
ダマスカスの技法を伝える職人は、冷たい乳の塊を棒で搗き、切り、伸ばす作業を繰り返します。ロンドンでブーザを作るサーメフ・アサミの工程では、金属容器の内側で凍った部分を削り取り、棒で細かくしてから再びまとめます。凍らせて終わりではなく、固まったものを練り直す作業が入るのです。
仕上がりは空気を多く含む軽いアイスクリームに比べて密で、巻物のように形を整えられます。外側にピスタチオの粒をつけ、輪切りにしたものを少し曲げて盛ると、白い断面と緑の縁が見えます。サハラブと樹脂の配合だけでなく、冷たい塊へ繰り返し力を加える手の仕事も、この形を支えています。
街の名物と、1人の職人の道具
ダマスカス旧市街のスーク・ハミディーエには、ブーザの店バクダーシュがあります。19世紀末からの店の歴史と、搗いて伸ばすブーザで知られます。
アサミはダマスカスで乳製品を作る家に育ち、10歳のころから叔父たちに技術を教わりました。子どものころに贈られた長さ約120センチのアンズの木の棒を、レバノンを経てロンドンまで運びました。長く使った棒は手になじみ、先端も使い手の搗き方で形を変えます。その道具は、のちにロンドン博物館の収蔵品になりました。1人の職人が使った棒から、手の技術が都市を越えて受け継がれた経路をたどれます。
地域に広がる乳の冷菓
パレスチナのラマッラーのルーカブ家は、店を開く前から家庭でブーザを作っていたと伝えています。店の創業年と、この家が技術を受け継ぎ始めた時期は別です。現在の店では白い乳の味に加え、ピスタチオや果実などを合わせた盛り合わせもあります。ラマッラーの別の店には機械と棒を併用する形もあります。レバノンの家庭向けルセットには、サハラブと花水を使い、機械で作るものもあります。伸びる食感には共通点があっても、すべてを1つの店の製品や製法にまとめることはできません。
ブーザという語は、アラビア語ではアイスクリームを指す呼び名としても使われます。日本語で「伸びるシリアのアイス」と呼ぶ範囲と、現地でこの語が使われる範囲には違いがあります。乳と砂糖の冷菓という大きな呼び名の中に、ダマスカスの搗く製法や、家庭で機械を使う形が含まれています。

ダマスカス旧市街のバクダーシュ店内。ピスタチオをまとったアイスが器に並ぶ。 写真:Ankara、CC BY 3.0(出典)。縮小版、追加改変なし。
用語解説
- レバント
- 地中海東岸を中心とする地域。シリア、レバノン、パレスチナなどを含みます。
- サハラブ(sahlab、salep)
- ラン科植物の塊茎から作る粉。乳の飲料や冷菓に用います。
- マスティック(mastic)
- 樹木から採る芳香性の樹脂。少量を砕いて使います。
- キシュタ
- 乳の濃厚なクリームの呼称。地域によりアシュタとも呼ばれます。
- アニッサ・ヘルー
- レバノンとシリアにルーツを持つ料理家・著者。
- サーメフ・アサミ
- ダマスカス出身のブーザ職人。ロンドンのLevant caféの創業者。
- バクダーシュ
- ダマスカス旧市街のブーザ店。
- ルーカブ家
- ラマッラーでアイスクリーム店を営む家族。







