Sweetlore世界のお菓子図鑑(534)

タヒニのハルヴァ
Tahini Halva・Halawa
ごまの油脂と、ほろりと崩れる糖の組織
砂糖菓子 / レバント・エジプト・トルコなど

タヒニのハルヴァ(Tahini Halva)は、ごまを細かく挽いたペーストと糖を合わせ、塊に成形する菓子です。切った断面には細かな筋が現れ、口に入れると薄い層がほぐれるように崩れます。ごまの濃い香りと油脂を含みながら、滑らかなペーストとは違う、乾いた脆さを備えていることが特徴です。
ハルヴァという名前は、広い地域でさまざまな甘い食べ物に使われます。小麦粉を炒めて糖液を加えるもの、セモリナを使うもの、でんぷんを練って透明な弾力を出すものまであります。タヒニのハルヴァを見分ける手掛かりは、名前だけでなく、主材料がごまペーストであることです。オマーンのでんぷんを使うハルワとは、形も食感も異なります。
ペーストを、そのまま固めるのではない

2025年、モスルでのタヒニ製造設備。ごまをペーストにして、ハルヴァなどに使うタヒニを作る。
写真・図版:Abdulsalam Al Dabbagh/CC BY-SA 4.0/原図。Wikimedia Commons生成の450px縮小版を取得。追加のトリミング・色加工なし。原寸は共有環境の429を踏まえ未取得。
タヒニ(tahini)は、ごまを挽いて作るペーストです。ハルヴァの製造では、これとは別に砂糖と水を煮て糖液を作ります。糖液に酸を加え、泡立てを助ける植物の根の抽出液を用いる方法が知られています。トルコの製造研究で使われるソープワート(soapwort)の抽出液は、その一例です。糖液を白く泡立てた後、タヒニと合わせて混ぜ、まだ温かいうちに練り、型へ詰めて冷まします。
この工程では、ごまのペースト、濃縮した糖、空気が一様な液体として混ざるわけではありません。糖の部分と、ごま由来の固形分や油脂が組み合わさった細かな組織が、特有のほぐれ方を作ります。混ぜる順序や練り方が重要なのは、材料を均等に分けるためだけでなく、切り分けられる形と、崩れる食感を同時に作るためです。
油脂を多く含むため、保存しているうちに油が表面へにじむこともあります。食品研究では、この離油を抑え、見た目と食感を安定させる方法が検討されています。ごま油があること自体は菓子の欠点ではありませんが、固形の組織が油をどの程度保つかによって、製品の扱いやすさが変わります。
古い名の下で、作り分けられた菓子
ハルヴァはアラビア語の「甘い」に関わる語を起点とする呼称です。古いペルシャの文献にもこの名が現れますが、その名だけでは主材料を確定できません。粉を炒める菓子とごまを練る菓子を、同じ昔の一品に由来すると断定することはできません。中世から続く名前の歴史と、現代のごまペーストを練った菓子の歴史は、分けて見る必要があります。
イランでは、ごまを主体とする菓子がハルワー・アルダと呼ばれ、砂糖や糖蜜で甘みを付け、ナッツを加えた形も作られます。トルコやギリシャで盛んに作られるごまを使うハルヴァは、この大きなハルヴァの仲間の一つです。
トルコのエルメネクでは、砂糖に代えてブドウの濃縮果汁ペクメズ(pekmez)を使います。干したブドウを水に浸して液を採り、煮詰めたものに根の抽出液とタヒニを合わせる形式です。かつては寒い季節に畑や果樹園で働く人々の食べ物で、バズラマやユフカと呼ぶパンとともに食べられました。今日では季節を問わず食べられ、婚礼や祝いの客へのもてなし、贈り物にもなっています。ごまを使うハルヴァの中にも、砂糖の糖液を使う形と、土地のブドウを使う形があります。
トルコのヘルヴァ、エジプトのハラーワ
トルコではタヒン・ヘルヴァ、エジプトではハラーワなどと呼ばれ、バニラ、ココア、ピスタチオを加えたものもあります。プレーンの生地にナッツを点在させる形と、ココアの色が筋を描く形では、香りだけでなく断面も変わります。東ヨーロッパでは、地域で手に入りやすいヒマワリの種子が、ごまとは別のハルヴァの材料となりました。種子をペーストにして糖の組織と合わせる製法を受け継ぎながら、土地の作物に合わせて別の風味の菓子へ変化した例です。
エジプトではパンにはさんで食べる身近な甘味でもあります。菓子を小皿で食べる場面だけでなく、子どもの弁当や家庭のパンの中にも入るところに、この菓子の暮らしとの近さがあります。現代の家庭向けには、タヒニに粉糖と粉乳を合わせ、火を使わずに丸める方法も考案されています。ただし、これは工場の泡立てと練りの工程を省いたルセット(材料の配合と作り方)で、同じ香味を目指しても、伝統的な塊の脆さと同一ではありません。

ピスタチオ入りのタヒニのハルヴァ。大きな塊の切り口に、ナッツが点在します。 写真:Sjschen、出典、Public domain(権利者による放棄/不可能な国では無条件利用許諾)。改変なし。
用語解説
- タヒニ(tahini)
- ごまを細かく挽いたペースト。ハルヴァの香りと油脂の主な供給源です。
- ソープワート(soapwort)
- 泡立つ成分を持つ植物の呼称。本文では製造研究に記された根の抽出液を指します。
- ペクメズ(pekmez)
- ブドウなどの果汁を濃縮した甘味料。エルメネクのごまを使うハルヴァに使われます。
- 離油
- 食品の固形の組織から油が分かれてにじむ現象。
- セモリナ
- 粗い粒状に挽いた小麦粉。ごまを主体としない別のハルヴァにも使われます。
- ルセット
- 材料の配合と作り方の一式。家庭の簡便な方法と工場製法を区別して用いています。







