Sweetlore世界のお菓子図鑑(534)

シェキのハルヴァ
Şəki halvası
米粉の網を重ね、ナッツとシロップを含ませる
砂糖菓子 / アゼルバイジャン・シェキ

シェキのハルヴァ(Şəki halvası)は、アゼルバイジャン北西部のシェキに伝わる、米粉とナッツの菓子である。米粉のゆるい生地を熱した鉄板に細く流し、網状に焼いたものを幾層も重ね、その間に香辛料を混ぜたナッツを詰める。焼成後にシロップを注ぐと、細い生地の隙間へ甘い液が入り、しっとりした層になる。
ハルヴァという名から連想される、ゴマのペーストを固めた菓子とは構造が違う。シェキ・パフラヴァ(Şəki paxlavası)とも呼ばれるが、小麦粉の薄い1枚の生地を重ねるパフラヴァとも異なり、米粉の細い網が特徴である。
穴のある器から、米粉の生地を流す
網状の生地はリシュタ(rishta)と呼ばれる。米粉に水を合わせた生地を、底に小さな穴のある専用の器へ入れる。熱いサジ(saj)の上で器をすばやく動かすと、細い線が交差し、薄い網ができる。線が細いため、長時間焼いて厚い皮を作るのではなく、短時間で火を通して鉄板から外す。
穴を11個備える道具を使うルセット(材料の配合と作り方)があり、専門の職人はこの作業を繰り返して、何枚もの網を用意する。小麦生地を1枚ずつ麺棒でのばす方法とは、層を作る手つきから違う。流す量や動きで線の密度を整えることが、後の層の厚みにつながる。
餡には、砕いたヘーゼルナッツやクルミに、コリアンダーの種、カルダモンなどを合わせる。米粉の層は甘味を受け止め、ナッツは粒と香りを加え、香辛料はその脂の風味に重なる。これらを丸い銅の盆の上で組み立てる。
網、餡、網を重ねてから、甘味を入れる
網を敷く枚数には職人やルセットによる違いがある。下に8枚、餡の上に5枚を置く例もあれば、家業として製造する職人の実演では下に6層を使う例もある。どちらも下の網にナッツ餡を広げ、さらに網をかぶせて焼く。
表面にはサフランなどを使って格子模様を描く。シェキの工房を訪ねた2013年の記録では、職人が鳥の羽根を筆にして、サフラン、乾燥ニンジン、ビーツを合わせた色で幾何学模様を描いている。街の木組みと色ガラスの窓、シェベケ(şəbəkə)を思わせる模様だが、菓子の格子と窓の格子は、この街の手仕事に共通する外見を持つ。
組み立てた菓子を炭火で焼き、その後に糖液をかける。より贅沢な形式には蜂蜜を使うものもある。焼成を終えた時点で完成なのではなく、液を吸わせるために休ませる時間が続く。国の料理紹介には8〜10時間置く例があり、細い網とナッツの層へ甘味を行き渡らせることも製造の一部になる。
2つの由来譚と、家業としての職人
由来については、シェキのハーンが客を驚かせるほど甘い菓子を料理人へ命じ、料理人たちがこのハルヴァを作ったという話がある。別の話では、タブリーズから移り住んだ商人マシャディ・フセインが作り方を伝え、シェキの商人たちが製造を始めたとされる。前者は宮廷の注文、後者は商人による移入を筋にする伝承で、どちらも発明を確認する年代付きの史料ではない。
シェキでは、ハルヴァ職人をハルヴァチ(halvachi)と呼び、家業の技として作り方を受け継いできた。サメドフ家の工房では、米粉の生地を焼く手つきから飾り、包装までを来訪者に見せる。祖父ヤフヤの名を掲げる工房を現在はラミン・サメドフが営んでおり、家族で製法を伝えるシェキの菓子づくりがこの工房にも続いている。
茶とともに食べ、箱に詰めて持ち帰るシェキのハルヴァは、街の土産でもある。一切れの中には、米粉を網状に焼く技術と、幾層にも組む作業と、液を含ませて仕上げる時間が重なっている。
用語解説
- リシュタ(rishta)
- 米粉の液状生地を細く流して焼いた網状の層。
- サジ(saj)
- 生地を焼く鉄板。シェキのハルヴァでは細い網を焼くために使う。
- ルセット
- 材料の配合と作り方をまとめたもの。
- シェベケ(şəbəkə)
- 木組みと色ガラスによる格子細工。シェキの建築で知られる。
- ハーン
- この由来譚では、シェキを治めた君主を指す。
- ハルヴァチ(halvachi)
- ハルヴァを作る職人。
- マシャディ・フセイン
- タブリーズから作り方を伝えたとする由来譚に登場する商人。
- サメドフ家/ヤフヤ/ラミン・サメドフ
- シェキのハルヴァ製造を家業として伝える一家、工房名に残る祖父、現在の工房の担い手。







