Sweetlore世界のお菓子図鑑(534)

アシュレ
Aşure
小麦、豆、果実を煮合わせ、隣人へ分ける甘味
デザート / トルコ各地・周辺地域

アシュレ(Aşure)は、小麦を中心に、豆、米、干し果実、木の実などを組み合わせて煮るトルコの甘味だ。とろりとした煮汁の中へ、やわらかな穀粒や豆、形の残る果実が入る。材料を粉にして均一な生地へまとめる菓子とは対照的に、異なる大きさや歯触りを残したまま、1つの器へ盛るところに特徴がある。
材料の種類も甘みのつけ方も一通りではない。白いんげん豆とひよこ豆、小麦と米を合わせるものもあれば、砂糖の代わりに果実の濃縮蜜を使うものもある。家庭で大きな鍋に仕込み、訪問客へ出したり、親戚や近所へ配ったりする習慣と深く結びついている。誰へ、いつ分けるかには宗教共同体や土地による違いがある。
1つの鍋へ入れる前の、別々の加熱
アシュレは多種類の材料を煮る菓子だが、すべてを最初から同時に煮るとは限らない。小麦、ひよこ豆、乾燥した白いんげん豆では、吸水や煮え方が異なる。豆の芯が残る間に果実が崩れたり、小麦だけが煮詰まりすぎたりしないよう、それぞれ水に浸し、別々に火を通してから合わせる方法がある。
トルコ文化観光省のルセット(材料の配合と作り方)では、ドヴメ(dövme)と呼ぶ外皮を除いた小麦を、でんぷんが煮汁へ出るまで煮る。これが菓子のとろみの土台だ。豆はそれぞれやわらかく煮ておき、干し杏、干しいちじく、干しぶどうにも水を含ませる。煮合わせた後で柑橘を加え、砂糖は終盤へ回し、火を止めてからバラ水を合わせる。
この順序では、穀物から出したとろみと豆のやわらかさを先に整え、果実の香りや甘みを後で重ねる。くるみやざくろを器の上に置けば、長く煮た材料のやわらかさに、生の粒や木の実の食感が加わる。材料の多さだけでなく、それぞれをどの状態で合わせるかが仕上がりを決める。
砂糖だけでは決まらない地域の味
アシュレの甘みは、白砂糖だけに限らない。ペクメズ(pekmez)と呼ばれる果実の濃縮蜜を使う形式もあり、色と風味も変わる。チョルム地方には「ペクメズリ・ヘディク」と呼ばれる形式があり、ガズィアンテプではアニスを加える例が記録されている。
穀物にも幅がある。小麦に米を混ぜるほか、米を小麦の代わりにする場合もある。木の実にはアーモンドやヘーゼルナッツ、豆類にはそら豆や黒目豆を加えることがある。穀物、豆、果実の組み合わせは、土地の材料に応じて変わる。
現在よく知られる植物性材料のアシュレとは別に、地域によっては犠牲祭の肉を少量保存して加える例もある。
「十日目」と、ノアの鍋の物語
アシュレの名は、アラビア語で十日目を表すアーシューラー(ʿĀshūrāʾ)と結びついている。イスラーム暦の最初の月、ムハッラム(Muharrem)の10日目と関わる甘味で、この月に作って分ける習慣がある。月の運行を基準にする暦に従うため、作る時季は太陽暦の上では年ごとに移る。
アシュレには、ノアの方舟の食料が残りわずかになったとき、人々が穀物や果実など手元の材料を集めて煮た、という物語がある。洪水が収まり、方舟が山へ着いた後、神への感謝を表すために作ったと語られる。いくつもの材料を一緒にする菓子の姿と、乏しい蓄えを分け合う物語が結びついている。
ノアの鍋の物語とは別に、アシュレには追悼と断食の文脈がある。680年、カルバラーで預言者ムハンマドの孫フサインとその一族らが殺された出来事が、ムハッラム月の服喪と結びついている。
分ける習慣は家庭だけのものでもない。18世紀から19世紀前半のオスマン宮廷には、ムハッラム10日にアシュレを用意して配った記録が残る。食材の調達から器や配布先、運んだ者への謝礼まで、宮廷の帳簿でたどれる。大きな鍋で煮た甘味が、宮廷の儀礼とその外へ向かう贈与の両方を支えていた。
アレヴィー(Alevi)の信仰が広まるトゥンジェリ地方では、ムハッラムの断食を通じて死者を悼み、期間中は肉を食べず、生き物を傷つける行為を避ける習慣がある。12日間の断食の後には、フサインの子ザイヌルアービディーンが生き残り、預言者の血統が続いたことへの感謝とともに、アシュレを作って配る人々がいる。
10日目に関わる名、12日間の服喪、その後に配る甘味は、それぞれ異なる意味を持つ。ノアの感謝の物語だけでなく、死者を悼み、生き残った者を思う習慣も、同じ菓子に重なっている。
用語解説
- ドヴメ(dövme)
- 外皮を除いた小麦。アシュレ用の穀粒として使われる。
- ペクメズ(pekmez)
- ぶどうなどの果汁を煮詰めた濃縮蜜。
- アーシューラー(ʿĀshūrāʾ)
- ムハッラム月の十日目を表す呼称。アシュレの名と関係する。
- ムハッラム(Muharrem)
- イスラーム暦の最初の月。
- ルセット
- 材料の配合と作り方の一式。
- アレヴィー(Alevi)
- アナトリアなどに広がる信仰共同体。ムハッラム月の断食と服喪、アシュレの分配が行われる。
- ノア
- 大洪水を生き延び、残った材料を人々と一鍋にしたという、アシュレの伝承に登場する人物。
- フサイン
- 預言者ムハンマドの孫。680年にカルバラーで殺され、その死がムハッラム月の追悼と結びつく。
- ムハンマド
- イスラームの預言者。本文ではフサインの祖父として登場する。
- ザイヌルアービディーン
- フサインの子。生存と血統の継続への感謝が、アシュレの分配に結びつく例がある。







