Sweetlore世界のお菓子図鑑(534)

タルクシュ・カレヴェ
Talkysh Kaleve
蜂蜜の飴を細く引き、型へ納めるタタールの菓子
砂糖菓子 / タタールスタン・カザンなど

タルクシュ・カレヴェ(Talkysh Kaleve、Талкыш кәләвә)は、蜂蜜と砂糖の飴を引き伸ばし、油脂で炒めた小麦粉と合わせて細い繊維にし、小さな型へ詰めたタタールの菓子だ。カザンをはじめとするタタールスタンで知られ、淡い色の小さな円錐や角錐のような姿に整えられる。形はまとまっていても、中身は1枚の硬い飴ではなく、折れやすい細かな繊維の集まりだ。
飴と、炒めた粉を別々に作る
タルクシュ・カレヴェの仕込みには、性質の異なる2つの材料が必要だ。一方は蜂蜜、砂糖、水を煮詰めた飴。もう一方は、アルバ(альба)と呼ばれる、澄ましバターと小麦粉を炒めたものだ。タタール文化資源センターが記録した作り方では、バターを溶かして粉を少しずつ加え、かき混ぜながら均一にする。表面に油が現れ、木の実を思わせる風味と色が出るところまで炒める。
飴は別の鍋で煮詰め、油を塗った皿へ移して冷ます。ただし、完全に硬くなるまでは冷まさない。手で扱える程度に温度が下がり、まだ伸びる状態で引き、2つに折ってはまた引く動作を繰り返す。最初の褐色の飴が、白く光沢のある伸びやすい塊へ変わっていく。
その飴をアルバの上へ移し、さらに伸ばす。粉と油脂の層を伴いながら細く引くことで、1本の塊がほどけたような繊維の集まりになる。飴を加熱する工程と、粉を炒める工程と、温かいうちに引く工程が続いており、材料を混ぜて型へ流すだけでは同じ構造にならない。
引いた後に、もう1度まとめる
タルクシュ・カレヴェの繊維は、そのまま大きな束で出すとは限らない。折れやすくなった細い繊維を台の上へ広げ、杯や専用の小型の型へ指で押し込む。型を伏せて抜くと、底の広い小山のような形が残る。できた菓子は蓋のできる容器へ移して冷やす。
綿状の菓子と聞くと、溶けた砂糖を機械で飛ばす綿あめを思い浮かべがちだが、ここでは手で引く操作が中心だ。炒めた小麦粉とバターを合わせること、最後に繊維を押して型へ納めることが、蜂蜜の香りとほろりと崩れる食感、独特の姿を一緒に作っている。

図版:Vyacheslav Kirillin、2024年4月22日、カザンでのアルスキー地区文化行事。型でまとめた菓子にも繊維が残る様子が分かる。CC BY-SA 4.0、変更なし。原画像・権利表示/ライセンス。
トルコから戻った職人をめぐる家伝
この菓子には、サフィウリン家の祖、ボルハン・サフィウリンに関わる物語がある。家に伝わる話では、19世紀末、トルコで捕虜となったボルハンは菓子店の仕事を手伝った。店主は彼に帰郷の切符を用意し、ボルハンはカザンへ戻って、トルコで知った複数の菓子の作り方をもとに、蜂蜜、砂糖、澄ましバター、小麦粉、水を使う菓子を作ったという。
この話は、ひ孫のニヤズ・サフィウリンが2014年に語った家族史として伝えられている。2019年にもニヤズは妻ラヴィリャと工房を取材した記者に、ボルハンが帰郷後に地元の料理人と結婚し、裕福なカザンの家々へ料理を届けながら菓子を試作したと話した。
一方、作り方を後代へ残す経緯には、料理人ユヌス・アフメトジャノフの名が現れる。タタール料理の料理書をまとめた彼は、1950年代、ボルハンの娘ファヒラから作り方を聞き書きしたとされる。ニヤズの語りでは、ファヒラはすぐに教えず、アフメトジャノフが自家製の麺入りスープの作り方を伝えた後、家の菓子の作り方を明かしたという。交換されたのは紙上の配合だけでなく、互いの家の料理の手技でもあった。
家内の菓子から、各地の作り手へ
タルクシュ・カレヴェは、蜂蜜や砂糖が貴重だった時代の茶のもてなしとも結びついている。ニヤズ夫妻によれば、澄ましバターと蜂蜜に費用がかかり、かつては裕福なカザンの家の菓子だった。繊維を型へ詰めず、大きな束から少しずつつまんで茶と食べた時代も家族の記憶に残る。戦時・戦後の物資不足の時期には、材料を持ち込める人の注文で作られるようになり、販売が途絶えた時期もあったと伝えられる。1990年代初めにはサフィウリン家の子孫が量産を始め、菓子は再び広く買えるものになった。
伝承の担い手は一つの家に限らない。アトニンスキー地区には祖母から技を受け継いだ作り手がおり、タタールスタン各地や、ウファ、オレンブルクにも製造が広がっている。共通するのは材料の一覧よりも、飴の温度を見ながら手早く引き、細い繊維を壊れすぎないうちに成形する技だ。小さく揃った1個は、飴とアルバを別々の鍋で作る作業と、台の上で繊維を型へ詰める作業の両方を経ている。
用語解説
- アルバ(альба)
- 澄ましバターで小麦粉を炒めたもの。飴を引く際に合わせる。
- 澄ましバター
- バターから水分や乳固形分を除き、脂肪分を主に取り出したもの。
- ボルハン・サフィウリン
- タルクシュ・カレヴェの成立に関わる家伝の中心人物。
- ニヤズ・サフィウリン
- 2014年に家族の菓子作りの歴史を語った、ボルハンのひ孫。
- ラヴィリャ・サフィウリナ
- ニヤズとともにタルクシュ・カレヴェを作り、家族の製法を伝える作り手。
- ユヌス・アフメトジャノフ
- タタール料理の記録と料理書編纂に携わった料理人。
- ファヒラ
- ボルハンの娘。アフメトジャノフへ作り方を伝えたとされる。







