Sweetlore世界のお菓子図鑑(534)

アユヴァ・タトゥルス
Ayva Tatlısı
マルメロの形を残して煮る、トルコの果実菓子
デザート / トルコ・ブルサなど

アユヴァ・タトゥルス(Ayva Tatlısı)は、マルメロを切って砂糖と煮、濃厚な乳製品やくるみを添えるトルコの甘味だ。アユヴァ(ayva)はマルメロ、タトゥル(tatlı)は甘いものを表す語だ。果肉を細かくつぶしたジャムとは異なり、半割りや4つ割りにした果実の大きさが、そのまま1人分の姿になる。
生の果実の硬さと渋み
マルメロは香りの強い果実だが、果肉が硬く、酸味や渋み、苦みも強い。渋みに関わる成分にはタンニンがある。そのため生でかじる果実というより、砂糖を加えて煮たり、ジャムやゼリーへ加工したりする材料として使われてきた。アユヴァ・タトゥルスも、果実の香りを残しながら、加熱と甘みによって一皿へ整える方法である。
果肉を細かく砕いて均一なペーストへ煮詰める菓子と違い、ここでは切った果実をやわらかくしつつ、まとまった形で取り出す。そのため芯のくぼみも、盛りつけの一部として残る。
長く煮ると、色も口当たりも変わる
マルメロの淡い果肉は、長く加熱すると桃色から赤みのある色へ変わることがある。果実には、渋みにも関わるプロアントシアニジンという成分が含まれる。長い加熱と酸の作用でその一部が小さな成分に分かれ、空気中の酸素と反応して赤い色素のアントシアニンが生じると説明される。マルメロの果汁を糖や酸を加えずに加熱して赤色を得た実験例もあり、色づきを砂糖の焦げだけで説明することはできない。色の深さは果実と加熱条件で異なり、いつも濃い赤になるわけではない。
一方、果肉の軟化には、細胞壁に含まれるペクチンなどの変化が関わる。硬かった果肉は、水を加えて加熱するうちにやわらかくなる。色づきと軟化を進めながらも、アユヴァ・タトゥルスでは器へ取り出せる果実の形を残す。
果実を器にする切り方
マルメロは中心の種や芯を除き、そのくぼみを残して加熱する。煮上がった果実へカイマク(kaymak)を置くと、くぼみが乳製品を受け止める。カイマクは乳の脂肪を濃厚に集めた乳製品で、果実の香りと砂糖の甘みに、乳脂肪の厚みを加える。砕いたくるみも添えれば、やわらかくなった果肉の上へ、異なる歯触りが重なる。
ブルサのルセット(材料の配合と作り方)では、中ほどの大きさのマルメロは2つ、大きなものは4つに切る。果実の大きさに合わせて器の形を作る。
ブルサでは、煮た後に焼く作り方も
アユヴァ・タトゥルスには、鍋で煮て冷まし、乳製品を添えて仕上げる姿がよく知られている。しかしブルサの郷土料理には、砂糖水で煮たマルメロを取り出し、天板へ並べ、中心へカイマクを置いてオーブンへ入れる作り方がある。表面に焼き色をつけた後、仕上げにさらにカイマクとくるみを加える。
この方法では、果肉をやわらかくする煮る工程と、表面を焼く工程を分けている。同じ乳製品でも、焼く前に置いた部分と、盛りつけの際に加えた部分では、料理の中で受ける熱が異なる。
ブルサ版の材料にはクローブも含まれる。マルメロ、砂糖、水、カイマク、くるみという構成へ香辛料が加わるが、クローブを何本入れるか、煮汁をどこまで煮詰めるかは、果実と量に応じた個々の作り方の問題だ。
同じ名前でも、仕上げは一様ではない
トルコ各地で食べられるアユヴァ・タトゥルスには、カイマクの代わりにアイスクリームを添えたり、中心へすりおろしたりんごや果実を詰めたりする形式もある。果実を煮るか焼くか、温かく出すか冷まして出すかも一つには決まらない。共通するのは、マルメロを甘く加熱して、そのまとまった果肉を味わうことだ。
1844年の料理書にある、種と色の使い方
メフメト・キャーミルの1844年刊料理書『メルジェウット・タッバーヒーン』(Melceü’t-Tabbâhîn)にも、アユヴァ・タトゥルスの作り方がある。公開された翻刻によれば、芯をくり抜いて皮をむいたマルメロをすぐ水へ入れ、変色を避ける。果実をゆでてから別の器へ並べ、ゆで汁と濃い砂糖液を注ぐ。取り除いた種は砕いて別に煮て濾し、その粘る汁も加え、弱い炭火でゆっくり火を通す。冷めてから器に分ける作り方だ。
この記録には、煮ている間に菓子用の色素で着色する人もいると記される。マルメロは加熱だけでも赤みを帯び得るが、濃い桃色の菓子をすべて果実の自然な変色だけで説明することはできない。1844年の作り方は種の粘りを生かして冷まして供する一方、ブルサの作り方では煮た果実へカイマクをのせて焼く。果実の大きさを保つ点は共通しても、種、乳製品、最後の加熱の扱いが異なる。
ブルサはオスマン朝初期の都で、宮廷料理の影響を受けた土地だ。1844年の料理書では種を生かして煮汁にとろみを付け、現在のブルサの一例ではカイマクを載せて焼く。冬のマルメロを大きな果肉のまま供する菓子には、時代と土地によって異なる仕上げが重なっている。
用語解説
- アユヴァ(ayva)
- トルコ語でマルメロを表す語。
- タトゥル(tatlı)
- 「甘い」「甘いもの」を表すトルコ語。
- カイマク(kaymak)
- 乳の脂肪を濃厚に集めた乳製品。果実菓子の添え物にも使われる。
- ルセット
- 材料の配合と作り方の一式。
- タンニン
- 植物に含まれる成分群。マルメロの渋みにも関係する。
- プロアントシアニジン
- 植物に含まれるフェノール性成分の一群。マルメロの渋みと、加熱時の色の変化に関わる。
- アントシアニン
- 赤、紫、青などを示す植物色素の一群。マルメロの加熱による赤色化にも関わる。
- ペクチン
- 果実の細胞壁などに含まれる多糖類。加熱時の軟化や、ジャムのとろみに関わる。
- メフメト・キャーミル
- 1844年刊の料理書『メルジェウット・タッバーヒーン』の著者。
- メルジェウット・タッバーヒーン(Melceü’t-Tabbâhîn)
- アユヴァ・タトゥルスの古い作り方を収めるオスマン料理書。







