Sweetlore世界のお菓子図鑑(534)

ラドブ
Ladob
バナナやパンノキをココナッツミルクで煮る、セーシェルの甘味
デザート / セーシェル

ラドブ(Ladob)は、セーシェルでバナナやサツマイモ、パンノキなどをココナッツミルクと煮る料理です。甘く作る場合は糖、バニラ、ナツメグなどを加え、実やいもが柔らかくなり、煮汁がクリーム状になるまで火を通します。プリンのように型で固めるのではなく、材料の形と濃くなった煮汁を一緒に味わう甘味です。
同じラドブという名には塩味の料理もあります。塩魚を使い、糖の代わりに塩を用いる作り方です。菓子の名として紹介されることが多くても、言葉が指す範囲はデザートの一皿より広いのです。

セーシェル文化機関の説明をもとにした材料構成の模式図。甘いラドブと塩味のラドブを区別する。 出典。図:Sweetlore。
パンノキやバナナを、濃い煮汁へ

セーシェルのヴィクトリアで、バナナなどの果実や野菜を売る市場。2011年10月22日撮影。
写真:Fabio Achilli/CC BY 2.0/原図。配信元の表示用縮小画像、追加加工なし。
甘いラドブの主役は1つに固定されていません。熟した調理用バナナを使うもの、サツマイモを使うもの、パンノキの実を使うものがあり、ココナッツミルクを共通の煮汁にします。パンノキは、名前にパンとあっても小麦の加工品ではなく、でんぷん質の実をつける樹木です。セーシェルでは焼く、ゆでる、揚げるなど多くの方法で食べられ、その1つがラドブです。
ラドブでは、使う実やいもの固さと熟し方が仕上がりに関わります。煮上がりにも実やいもの部分が残り、周囲をココナッツの煮汁が包みます。角切りや輪切りの寸法、使う素材、熟し方が違えば、柔らかくなるまでの時間も一様ではありません。
ココナッツミルクは最後にかけるだけのソースではなく、素材を加熱する液体です。実やいもを煮るうちに、ココナッツミルクのほうも濃くなっていきます。煮込む間に素材へココナッツの味が入り、周囲には濃い煮汁が残ります。
バニラとナツメグが加わる場所
バニラやナツメグは、甘いラドブに香りを添えます。シナモンを合わせる例もあり、香辛料を1つの決まった組み合わせに限ることはできません。糖で甘味をつけ、ココナッツの脂肪分を含む煮汁と合わせることで、乳製品のクリームを使わなくても、濃い口当たりの甘味になります。
ラドブは温かいままでも冷ましてからでも、実やいもと濃いココナッツの煮汁を一緒に盛って食べます。
すりおろしたキャッサバを煮る作り方
セーシェルの家庭料理を伝えるThe Creole Melting Potには、キャッサバをすりおろして小さくまとめ、甘いココナッツミルクで煮るラドブ・クードプウェン・マヨックというルセット(材料の配合と作り方)が残されています。これは、実を切って煮るだけではないラドブの例です。
この作り方では、すりおろしたキャッサバの水分で材料をまとめ、強く練り固めないようにします。鍋の底には葉や紙を敷き、穏やかな火で煮ます。作り手は、でんぷん質が焦げやすいことから強火を避け、球が壊れないようかき混ぜる代わりに鍋を揺する、と説明しています。煮汁を吸ったキャッサバの球を、周囲に残ったココナッツミルクとともに盛り付けます。
この呼び名を小さなキャッサバのビスケットに使う人もいます。すりおろす、まとめる、煮る、焼くといった加工の違いとともに、家庭ごとの呼び名が伝わっています。
ラドブは、煮方と結びつく名
ラドブはフランス語でla daubeとも書かれ、煮込みの名と結びついています。フランスやアフリカ、インド洋の島々から来た人々の暮らしが重なった、セーシェルのクレオールの食文化に根づく料理です。
1770年にモーリシャスから来た入植者は、食用と栽培用のキャッサバを持ち込みました。キャッサバやサツマイモは、島々で働かされた奴隷の人々の主食にもなりました。パンノキはそれより後、19世紀前半にモーリシャスから移されたと伝えられます。ラドブの鍋に入るでんぷん質の作物には、島へ移ってきた人々と栽培の歴史があります。
ラドブは家庭の一皿としてだけでなく、改まった食卓にも登場します。かつてのクレオールの会食を伝えるバンケでは、スープ、ロースト、カレーや煮込みの後に甘味を出しました。2019年に文化遺産団体と料理店が再現したクリスマスのバンケでも、ラドブはパパイアの甘煮やクレオールのケーキとともに最後の皿を飾っています。
用語解説
- パンノキ
- でんぷん質の大きな実を食用にする樹木。セーシェルでは甘いラドブにも使います。
- キャッサバ
- 食用のでんぷん質の根を持つ植物。ラドブには、すりおろして用いるものがあります。
- ルセット
- 材料の配合と作り方。
- クレオール
- この記事では、複数の地域から来た人々と言語・生活文化が交わって育ったセーシェルの文化を指します。







