Sweetlore世界のお菓子図鑑(234)

メレンゲクッキー
Meringues
卵白と砂糖でつくる、軽い食感
メレンゲ

小さな山、渦、匙で置く楕円。メレンゲクッキーは、卵白と糖が抱えた空気を、焼き乾かして形にする菓子です。小麦粉とバターの生地とは違い、軽い骨格の主役は泡です。乾き方と湿気の加減は、そのまま食べる歯切れにも、乳のクリームへ合わせる柔らかさにも関わります。
膨らむ量と、保てる形は違う
卵白を泡立てると、たんぱく質が気泡の表面へ膜を作ります。糖を加えると泡立つ速さは遅くなる一方、溶けた糖は泡を安定させ、細かなきめを保つ助けとなります。日本調理科学会の実験では、糖量と加える時期を変えた条件の比較で、糖を多くすると空気を取り込む速度が下がりました。量と安定性は同じではなく、糖は甘さだけでなく、絞った形を支える材料です。
冷たい卵白も泡立ちますが、温度、道具の脂、卵黄の混入、泡立てすぎで状態は変わります。進みすぎればぼそついて液体が離れることもあり、つやと、器具を上げたときのしっかりした角を見ます。
加熱の場所が違う三方式
フレンチ法は、泡立てる卵白へ細かな糖を少しずつ溶かし込み、小さな焼き菓子にも使います。コーンスターチを加える型、ナッツ、刻みチョコレート、果実粉末を散らす型もあります。
スイス法は卵白と糖を湯煎で温めてから泡立て、イタリアン法は熱い糖液を泡へ注ぎます。乾燥小菓子だけでなく、ムース、バタークリーム、ケーキの飾りも支える方法です。「メレンゲ」は、焼く前の泡と、焼いた菓子の両方を指します。
水分を抜く温度と厚さ
乾燥菓子は低温で時間を掛けます。厚い中心と細い先端で乾く速さが違うため、絞る大きさと厚みをそろえます。一つのルセット(材料の配合と作り方)は約121度で30分、その後約107度で1〜2時間。短ければ中心に噛み応えが残り、長ければ中まで乾いた歯切れになります。持った軽さ、底をたたく空洞音、割った中心が仕上がりの手掛かりです。冷ます際も繊細な骨格を壊さず扱います。
白さを目指す型ばかりではありません。スイスの食文化遺産調査によれば、1964年からボトランで専業となったアンジェロ・リムは、従来より高い約120度で乾かし、わずかな色と香りを付ける方法を広めました。焼き色をどの程度付けるかにも、土地の職人の改良があります。
甘い泡、乾いた菓子、名前の異なる時期
1604年のリエージュの料理書には、卵白へ糖液を混ぜた甘い泡がありますが、皿に供する記述で、現在の乾いた小菓子と同じではありません。1653年ラ・ヴァレンヌ『フランスの菓子職人』には「泡雪の砂糖ビスケット」という近いルセットがあると、製菓教育資料は整理します。
1692年のマシアロ『果実の保存・酒・果物の新しい教え』は、「メレンゲとマカロン」の章に二つの型を載せます。「双子のメレンゲ」は卵白を岩のような泡へ立て、レモンの皮と細かな糖を加え、紙の上へクルミほどの丸や楕円に置くもの。火を載せた炉の蓋で上から熱を当て、膨らんで色が付いた中心へ、砂糖漬けのラズベリー、サクランボ、イチゴなどを入れ、もう一枚で閉じます。
続くピスタチオ型は、湯で皮をむいて水を切った実を卵白と糖へ合わせ、タルトの飾りや盛り合わせにも使います。すでに一個を焼くだけでなく、果実を挟み、他の菓子へ組む発想がありました。泡の技術、乾いた一個、現在の呼称には、それぞれの歴史があります。スイスにも1753年のローザンヌや、19世紀の料理書にルセットが残ります。
マイリンゲンの職人という伝説
スイスのマイリンゲンで、イタリア系職人ガスパリーニが作ったという話があります。食文化遺産調査は、1894年のジョゼフ・ファーヴルの辞典が確説として扱ったとする一方、町の火災と戦争で関係史料が失われ、直接の検証が難しいとしています。
当時は高価な輸入糖を大量に使うため、農村の一発明より富裕な宮廷や都市での製造を考えやすい、という経済的な検討もあります。ドイツ語名はフランス語からの借用とされ、町の似た音だけで語源や職人は定まりません。
グリュイエールの乳を受け止める
エメンタール、フリブール、ヴォーの前アルプスでは、土地の乳製品を合わせます。濃厚なグリュイエールのダブルクリームをたっぷり掛ける一皿は、フリブールの祝祭ベニションの食事も締めくくります。乾いた糖と卵白は、乳の豊かさを受ける土台となります。
砕いてクリームと果実を重ねるイートン・メス、ケーキの飾りや台にも使えます。乳に触れれば水分を吸うため、直前に組むのは歯切れを残す工夫です。
乾かした後に、湿気を入れない
糖の吸湿性で、空気中の水分を取り込むとべたつき、柔らかくなります。十分に冷まして密閉し、冷凍時も匂い、湿気、押しつぶしを避けます。戻す際の結露も、水分が戻る原因です。包装と冷まし方まで、食感を作る工程が続きます。
卵白でなく、ひよこ豆の煮汁アクアファバを泡立てる型もあります。材料を替えても、泡を保ち、水分をどの段階で減らし、どこで与えるかが、軽い一個を作ります。
用語解説
- ガスパリーニ
- メレンゲのマイリンゲン発祥説に登場する、イタリア系とされる菓子職人。
- ジョゼフ・ファーヴル
- 19世紀の料理人・辞典著者。マイリンゲン説を確説として述べた。
- アンジェロ・リム
- スイスのボトランで1964年からメレンゲを専業で作り、乾燥温度の改良を広めた職人。
- フレンチメレンゲ
- 加熱していない卵白を泡立てながら砂糖を加える方法。
- スイスメレンゲ
- 卵白と砂糖を湯煎で温めてから泡立てる方法。
- イタリアンメレンゲ
- 卵白の泡へ煮詰めた熱い糖液を注ぐ方法。
- 吸湿性
- 空気中の水分を取り込む性質。
- ダブルクリーム
- 乳脂肪分が高く、とろりと濃厚なクリーム。グリュイエールのものは泡立てずメレンゲへかけて楽しみます。
- ベニション
- フリブール地方の伝統的な祝祭。土地の料理を囲む習慣があります。
- フランソワ・ピエール・ド・ラ・ヴァレンヌ/フランソワ・マシアロ
- 17世紀フランスの料理書著者。近い泡菓子のルセットと「メレンゲ」の名称記録を分けて考える手掛かりになる。
- アクアファバ
- 豆を煮た液体。ひよこ豆などの煮汁を、卵白の代わりに泡立てて使うことがあります。
パレードのメレンゲクッキー / Meringues
京都・伏見桃山の洋菓子店「パレード」が丁寧に焼き上げる、軽やかな食感が魅力のメレンゲクッキー。
使用する素材はシンプルだからこそ、口に入れた瞬間はさくっと、そのあとしゅわっと溶けていく独特の食感にこだわり、泡立ての状態や糖の加え方、乾燥と焼成のバランスまで、工程一つひとつを丁寧に見極めながら仕上げています。軽やかでありながら、ひとつひとつに手仕事の丁寧さが感じられる繊細な焼き菓子です。
甘さには白砂糖を使わず、身体にやさしいきび砂糖を使用。角のない、やさしく穏やかな甘みを表現し。素材そのものの風味が引き立ち、後味は驚くほど軽やかです。







