Sweetlore世界のお菓子図鑑(534)

ハラーワト・エル・ジブン
Halawet el Jibn
チーズを薄い皮に仕立てる甘味
デザート / シリア・ハマー、ホムスなど/レバノンでも親しまれる

ハラーワト・エル・ジブン(Halawet el Jibn、حلاوة الجبن)は、チーズとセモリナで作る柔らかな生地に、アシュタと呼ばれる乳のクリームを包んだ菓子です。白い短い巻物にピスタチオを散らし、花の香りを添えたシロップをかけます。チーズが入っているのは中心の餡ではなく、その外側の皮です。焼き固めたチーズケーキとも、細い生地でチーズを覆うクナーファとも、内外の組み立てが違います。
ハマーとホムス、それぞれに根付く菓子
シリア中部のハマーとホムスは、どちらもこの菓子で知られ、発祥をめぐる語りが競い合います。サッルーラ家には、アサアド・サッルーラの曽祖父が1870年代のハマーで甘いチーズ生地を作り、売り歩いたとする話が伝わります。その筋では、最初は切った生地にシロップを添え、のちにクリームを包む姿へ変わったとされます。レバノン北部のトリポリでも名物として作られ、家庭と菓子店の双方に受け継がれています。
20世紀にアレッポの言葉と暮らしを集めたハイルッディーン・アル=アサディの『アレッポ比較百科事典』には、春先、チーズが多く出回る時季に作られるという記述があります。現在の巻物の形だけでなく、季節の乳製品を甘味に使う暮らしも、この菓子の記録に残っています。
ハマー、ホムス、トリポリという都市の名だけでは、1皿の違いは説明できません。使えるチーズ、塩抜きの手間、アシュタの作り方、包むか別添えにするかが、1皿の姿を変えます。レバノンの菓子店では一口ずつの巻物に切り、シロップを別添えにする形も見られます。
溶けるチーズを、巻ける生地にする
名前はアラビア語で「チーズの甘味」を意味します。生地にはアッカーウィなどの白いチーズを使い、家庭ではモッツァレラも使われます。ただし、チーズなら何でも同じ仕上がりになるわけではありません。加熱したときに滑らかに溶け、引き伸ばせる種類を選びます。塩蔵したアッカーウィは、先に水に浸して塩を抜きます。甘いシロップを多くかけて塩味を隠すのではなく、皮の段階で塩加減を整える工程です。
セモリナは小麦を粒状に挽いた素材です。水と砂糖を加えて加熱し、粥より固いペーストにしてからチーズを練り込む方法があります。溶けて伸びるチーズを、加熱したセモリナのペーストと合わせ、滑らかにまとまるまで練ります。ここで大切なのはオーブンで焼くことではなく、鍋の中で生地を1つにまとめることです。チーズの筋が残ったままでは、薄い皮を均一に作れません。
生地は扱える温かさのうちに長方形に広げ、冷ましておいたアシュタを端に細長く置きます。端から1巻きしてクリームを包み、継ぎ目を下にして切り分けます。熱い餡を包むと形を整えにくいため、皮と餡は別々に用意します。生地の厚さや1切れの長さは店やルセット(材料の配合と作り方)によって違い、極端に薄いことだけが良さではありません。皮を厚めに残す形ではチーズの弾力が前に出て、薄く広げる形ではクリームとの割合が変わります。
同じ乳から、異なる2つの食感を作る
アシュタ(ashta)は乳の濃厚なクリームを指しますが、現在の家庭向けルセットには牛乳、生クリーム、コーンスターチを煮て固めるものもあります。乳の表面から集めたクリームと、でんぷんでとろみをつけた代用の餡は、作り方まで同一ではありません。後者は冷めると形を保ちやすく、巻き菓子に使いやすいという性格があります。
アタル(atter)と呼ばれる砂糖のシロップには、オレンジの花水やローズウォーターを加えます。チーズ生地自体にも砂糖が入るため、仕上げのシロップは甘味を加えるだけでなく、花の香りと表面の潤いを添えるものです。ピスタチオの細かな粒は、柔らかい乳の層に香ばしさを加えます。クリームを包まず、甘いチーズ生地を切って供する形もあり、「巻いてあること」が名前の全範囲を決めるわけではありません。

白いチーズ生地の菓子にアタルをかけるところ。写真:白と赤茶、CC BY-SA 4.0、原画像。加工なし。
用語解説
- ハイルッディーン・アル=アサディ
- アレッポの言葉と民俗を集めたシリアの研究者。
- アレッポ比較百科事典
- アル=アサディの著作。乳の季節とハラーワト・エル・ジブンの関係も記します。
- セモリナ
- 小麦の胚乳を粒状に挽いたもの。この菓子では加熱してチーズ生地に加えます。
- アッカーウィ
- 中東の白いチーズ。塩蔵品は菓子に使う前に塩抜きします。
- アシュタ(ashta)
- 乳のクリームの呼称。伝統的なクリームと、でんぷんで固めた家庭向けの餡があります。
- アタル(atter)
- レバントの菓子に使う砂糖のシロップ。
- アサアド・サッルーラ
- サッルーラ家の人物。曽祖父に結び付く由来話が伝えられます。
- サッルーラ家
- シリアの製菓家。ハラーワト・エル・ジブンの由来を語る家の1つです。







