Sweetlore世界のお菓子図鑑(534)

ホシュメリム
Höşmerim
フレッシュチーズを甘い練り菓子へ変える
デザート / トルコ・バルケスィル

ホシュメリム(Höşmerim)は、トルコ各地にある甘い料理の名である。中でもバルケスィルのものは、塩を加えない新鮮なチーズに、セモリナ、砂糖、卵黄などを合わせ、鍋で練りながら加熱する。焼いた皮もシロップの衣もなく、乳の細かな粒と穀物が一つになった、柔らかな黄色い菓子になる。
凝固させたばかりの乳を使う
バルケスィルの作り方は、牛乳や羊乳からチーズを作る段階につながっている。温めた乳へ凝乳酵素を加え、固まったテレメ(teleme)を崩して水分を切る。熟成させて切り分けるチーズにする前の、塩の入らない凝乳を菓子の材料へ回すのである。
テレメには水分が多く残る。鍋で細かく崩し、卵やセモリナと混ぜ、底を焦がさないようかき混ぜて加熱する。加熱を続けると乳の塊が細かくなり、油脂がにじみ、全体のまとまりも変わっていく。乳を凝固させる工程と、その凝乳をほぐして煮る工程が、続けて行われる点が特徴である。
セモリナは小麦を粗く挽いた粒で、乳の水分を含んで加熱され、菓子をまとめる。小麦粉を併用する作り方もある。バルケスィルの文化観光局が伝える一例では、チーズと卵黄をゆっくり加熱してから、セモリナ、小麦粉、砂糖を加える。現場を記録した別の作り方では、凝乳へ卵と穀粉を混ぜてから火にかけ、油脂が出て鍋底から離れ始めたころに砂糖を加える。乳の状態を見て加熱と材料の順序を決める、複数の方法がある。
黄色は卵黄だけで決まるとは限らず、サフランや着色料を使うものもある。黄色い外観が共通でも、材料表示と製法には違いがある。家庭のルセット(材料の配合と作り方)には粉の使い方や加熱順に違いがあり、地理的表示を持つ地域の製品には、名称ごとの仕様がある。
乳の仕事と結び付く土地
バルケスィルは、マルマラ海とエーゲ海に面するトルコ西部の県である。ホシュメリムはこの地方のヨリュクの乳利用と結び付けて伝えられる。羊乳を搾る春から夏の仕事の中で作られ、乳が濃くなる春の終わりのものを好む作り手もいる。
17世紀の旅行家エヴリヤ・チェレビの『旅行記』にも、トルクメンの移住者とこの菓子を結び付ける記述があるとされる。
1775〜78年に書かれた料理書『アーグディイェ・リサーレシ』(Ağdiye Risalesi)では、チーズ入りのホシュメリムに、牧人の呼び名テルミュシュ(telmüş)と、ヨリュクの呼び名スンデュルメが併記された。後者の名は1844年の料理書にも残る。同じ凝乳の菓子が、乳を扱う人びとの間で異なる名を持ち、書物にも記録されていた。
1844年の、後から甘くする作り方
メフメト・キャーミルの料理書『メルジェウット・タッバーヒーン』(Melceü’t-Tabbâhîn、1844年刊)には、ホシュメリムをスンデュルメ(sündürme)とも呼ぶルセットがある。塩のない新しいチーズやテレメを手で崩し、炭火にかけて混ぜ、溶けてきたところへ少量の上質な小麦粉を加える。油脂が出て、引き糖の菓子のように伸び始めたら火から下ろす。
この料理書では、砂糖や蜂蜜を食べるときに加える作り方も述べられている。現在のバルケスィルで代表的な、鍋の中で砂糖を一緒に煮詰める作り方だけが、古い形ではない。乳を加熱して伸ばす段階と、甘味を添える段階を分けた作り方が、19世紀の記録に残っている。
名前を語る夫婦の伝承
名を説明する民間の話には、長く戦地へ行っていた夫へ、妻が手元の材料で甘いものを作って供したという筋がある。妻が「ホシュ・ム・エリム(Hoş mu erim?)」、つまり「おいしいですか、あなた」と尋ねた言葉が、菓子の名になったという。
これは夫婦の再会ともてなしに名前を重ねた伝承である。別に、ペルシア語のホシュ(hoş、甘い・心地よい)と、マラム(maram)というクリームを指すとされる語に結び付ける説明もある。ただし、後半の語をクリームとする説明には異論があり、語の成り立ちは一つに定まっていない。呼び名の響きに合わせた物語と、語を構成する語源の説明とは、別々に伝わっている。
同じ名でも、チーズを使わないものがある
ホシュメリムをトルコ全土で同じチーズ菓子と考えることはできない。チャンキリのものは、小麦粉をバターで炒り、岩塩を溶かした湯を加えて火を通し、熱いうちに蜂の巣入りの蜂蜜をのせる。バルケスィルの代表的な配合に入る卵、セモリナ、凝乳酵素や砂糖を使わず、甘味を蜂蜜で加える。
熱い粉の生地へ蜂蜜を置くのは、ゆっくり溶かして甘さを浸透させるためである。塩もこの地方のものを特徴付ける。乳を崩して煮るバルケスィルのものと、粉を油脂で炒って蜂蜜を加えるチャンキリのものは、使う鍋が似ていても出発点となる材料が違う。シヴリヒサールのものは、牛乳由来の脂肪分の高いクリーム、粉、ごく少量の塩を炒って作り、上へブドウのペクメズ(pekmez)をかける。食事の後に作りたてを供し、祝祭の朝には年長の家族の家へ集まる食事にも添える。煮る凝乳、炒る粉、炒るクリームという材料と工程の違いに加え、いつ作って供するかにも地方差がある。
用語解説
- ホシュメリム(Höşmerim)
- トルコ各地の甘い料理の名。バルケスィルでは主に無塩の新鮮なチーズを使う。
- テレメ(teleme)
- 乳が凝固したばかりの凝乳。ホシュメリムでは崩して加熱する材料になる。
- セモリナ
- 小麦を粗く挽いた粒状の製粉品。
- ルセット
- 材料の配合と作り方の一式。
- ヨリュク
- アナトリアの遊牧・移牧の伝統を持つ人々の呼び名。
- エヴリヤ・チェレビ
- 17世紀オスマン帝国の旅行家。『旅行記』で知られる。
- ホシュ・ム・エリム(Hoş mu erim?)
- ホシュメリムの名を説明する夫婦の民間伝承に出る問いかけ。
- ホシュ(hoş)
- 甘い・心地よいなどに結び付く語。本文の語源説明の構成語。
- マラム(maram)
- クリームを指すとする語源説明に現れる語。その意味と語源解釈には異論がある。
- チャンキリ
- トルコ中北部の県。同名の、バターで炒った小麦粉と蜂蜜を使うものがある。
- メフメト・キャーミル
- 1844年刊のオスマン料理書の著者。
- メルジェウット・タッバーヒーン(Melceü’t-Tabbâhîn)
- 19世紀の料理書。本文ではホシュメリムの古い作り方に関わる。
- スンデュルメ(sündürme)
- 18世紀後半の料理書でヨリュクの呼び名として記され、1844年の料理書でもホシュメリムの別名となる語。
- アーグディイェ・リサーレシ(Ağdiye Risalesi)
- 1775〜78年に書かれたオスマン朝の料理書。
- テルミュシュ(telmüş)
- 同書がチーズ入りホシュメリムの牧人の呼び名として記す語。
- シヴリヒサール
- トルコのエスキシェヒル県の町。クリームと粉を炒るホシュメリムがある。
- ペクメズ(pekmez)
- 果汁を煮詰めた甘味料。本文のシヴリヒサールのものにはブドウ由来のものをかける。







