Sweetlore世界のお菓子図鑑(534)

ジャレビ
Jalebi
渦を描ける生地、蜜を含む揚げ方
揚げ菓子 / インド・北インドなど・南アジア

細い生地が何重にも輪を描き、揚げた表面にシロップが光ります。ジャレビ(Jalebi)は、小麦粉を主にした流動性のある生地を油へ絞り、揚げてから糖液に浸す菓子です。輪のあいだに隙間があり、細い1本1本を噛むと、薄い表面の歯切れと内部に含んだ甘い液が一緒に感じられます。北インドの菓子屋だけでなく、南アジアの各地に根を下ろしています。
渦を描ける生地、蜜を含む揚げ方

ハウラーの菓子店で、布袋から細い生地を鍋へ円を描くように絞る。糖液へ浸す前の揚げ工程が見える。
写真・図版:Biswarup Ganguly/CC BY 3.0/原図。Commonsの1280px縮小配信。切り抜き・色調整なし。ファイル名の日付とEXIF日時が一致しないため撮影日の本文記載を避ける。
生地に使われるマイダ(maida)は、精製した小麦粉です。パンのように手で形を保つ硬さにはせず、細い口から切れずに落ち、油の上で線を引ける状態にします。容器や布袋の口、絞る速さ、生地の流れ方が、輪の太さとつながりを左右します。円形は型で抜くのではなく、油の中へ描いて作る形なのです。
発酵させる製法も重要です。料理人サンジーヴ・カプールのルセット(材料の配合と作り方)では、粉と水を十分に混ぜて温かい場所で24時間置き、翌日に少量の粉を足して再び混ぜます。発酵時間や配合は店によって変わります。発酵乳を加える別の配合を扱った研究では、その添加量と発酵時間で生地の酸性の度合いが変わり、水分量が流れ方を左右することも確認されています。粘りの強さを整えることも、途中で切れない線を油へ描くための準備です。生地を整える工程と、糖液を煮詰める工程を別々に進め、揚げ上がりに両者を合わせます。
糖液は砂糖を溶かしただけの薄い水にとどめず、煮詰めて濃さを調節します。カプールは指の間で細い糸を引く段階を目安とし、サフランを加えてぬるく保ちます。揚げた輪は油を切ってから浸し、引き上げて余分な液を落とします。表面を揚げてから糖液を含ませる順序が、ただ甘い生地を揚げる菓子との大きな違いになります。細い線でできた形には、内側の輪にも外側の輪にも糖液が触れる面があります。
甘いものが朝食に入る土地
ジャレビは朝食にも登場します。マディヤ・プラデーシュ州のウッジャインでは、煮詰めた甘い乳のラブリ(rabri)と合わせるほか、香辛料で調理した米の軽食ポーハや、塩味のカチョリとも食べられます。インドールのポーハ・ジャレビも、甘味と塩味を1度の食事に組み合わせる例です。
一方、北インドや西インドでは、結婚式の会場でその場で揚げる菓子にもなります。揚げたてを温かく供する場面と、菓子店で買って持ち帰る場面が並存します。乳を加えるものや、淡い色に仕上げるものもあります。各地の店は生地と糖液の両方を調整し、太さ、色、香りに違いを作っています。
乳を加えるもの、パンで包むもの、大きく分け合うもの
中部インドのブルハーンプルでは、生地にマーワーという濃縮乳固形分を加えるマーワー・ジャレビが名物です。小麦粉を水で溶く基本の生地に乳素材が入り、色と風味、口当たりが変わります。ここでも発酵させる生地が使われ、乳やラブリと合わせて朝食にも供されます。濃縮乳を加えることは、できあがった輪へ乳を添える食べ方とは別の、製造段階での変化です。
ネパールではジェリと呼ばれ、薄い揚げパンのスワリで包んで食べます。カトマンズ盆地の菓子店で買うジェリ・スワリは、熱い茶と組み合わせる朝食です。パタンの老舗には、結婚式や祭礼に菓子を詰め合わせて届け、ジェリ・スワリも日々販売する店があります。甘い輪と塩味の料理を並べるインドの朝食に対し、ここでは柔らかなパンが輪を包む一口になります。
バングラデシュのジラピには、細いもの、厚くゴマを散らすもの、チェナを使うもの、砂糖の糖液に代えてグルの蜜を使うものがあります。ダカ旧市街のチョーク・バザールでは、大きなシャヒ・ジラピを家族で分け合います。ラマダーンの日没後、断食を解くイフタールの市場で求められる菓子です。同じ渦巻きでも、1人分の軽い輪から、何人もで分ける大きな1枚へと規模が変わります。
パキスタンのイスラマバードでは、温かい乳、カルダモン、ナッツと合わせるドゥード・ジャレビが冬の夜の甘味になります。ジャレビは朝のものだけでも、祭日のものだけでもなく、土地の食事と気候に応じた食べ方を持っています。
中世の網状の揚げ菓子
10世紀後半のバグダードで編まれた、イブン・サイヤール・アル=ワッラークの料理書には、ザラービヤという名の複数の菓子が載っています。その中の網状のものでは、発酵した流動性のある生地を、穴のあるココナッツの殻から油へ流し、揚げてから香りを付けた蜂蜜に浸します。生地の甘さより、揚げたあとに蜜を含ませる工程が重要でした。
食文化史研究者ランディ・K・シュウォーツは、中世料理書の翻訳を比較し、この網状の菓子と南アジアのジャレビのつながりを論じています。南アジアでは、1450年頃のジナスーラのジャイナ教文献に、宴席のジャレビが登場するとされています。中世西アジアの記録と南アジアの記録は、似た製法の菓子が広い地域で作られてきた手掛かりです。
1600年より前のサンスクリット語料理文献『グニャグナボーディニー』には、材料と作り方の記述も伝わります。インド学者P・K・ゴーデの文献調査は、宴席で名が挙がる段階に加え、作る手順が料理書に組み込まれていたことを示しています。現在は乳を生地へ加えたり、糖蜜を替えたりする土地ごとの作り方があり、古い網状の揚げ菓子の技術に各地の素材と食習慣が重なっています。
名前の近さと、同じ菓子であること
ジャレビの名には、ペルシャ語のゾルビヤ、アラビア語のザラービヤに由来するという説明があります。1903年版の英印語彙辞典『ホブソン=ジョブソン』は、見出し「Jelaubee」でこの関係を挙げ、網のように入り組んだ形の甘味として説明しています。一方、シュウォーツは、薔薇水の名であり、広く糖液も指すジュラーブ(julāb)に結び付けています。こちらは、仕上げに含ませる甘い液から名を説明する見方です。
西アジアにも、油で揚げて蜜を含ませる近縁の菓子があります。ただし、ザラービヤという呼称のもとには丸い塊や別配合の生地も含まれ、南アジアの細い渦巻きと常に同一ではありません。同じ系統の名が、土地によって異なる形と生地に使われています。
イランの近縁の揚げ菓子バーミエは、指ほどの長さの生地へ蜜をまとわせたものです。来客の茶菓子にするほか、ラマダーンの日没後の食卓にも出されます。蜜を含む細い輪に対し、こちらは指のような生地のまとまりが残ります。
よく似た輪の菓子にイマルティ(imarti)があります。ウッタル・プラデーシュ州ジャウンプルのイマルティは、ウラド豆(urad dal)を水に浸し、少量の水ですりつぶした生地を布袋へ入れ、花模様に絞ってギーで揚げ、温かい糖液に浸します。豆をすりつぶす生地と、マイダを水で溶く生地では、同じように揚げて蜜を含ませる菓子でも、異なる素材の技術が使われています。またチェナを使うチェナ・ジャレビもあります。渦巻きという外形の内側に、穀物や乳の異なる技術が収まっています。
用語解説
- ウラド豆(urad dal)
- black gramと呼ばれる豆。ジャウンプルのイマルティの生地に使われます。
- ジュラーブ(julāb)
- 薔薇水や糖液を指すペルシャ語。ジャレビの語源説の1つに現れます。
- イブン・サイヤール・アル=ワッラーク
- 10世紀後半のバグダードの料理書の編者。網状のザラービヤを含む製法を記録しています。
- ランディ・K・シュウォーツ
- 中世の揚げ菓子の系譜を比較した食文化史の研究者。
- ジナスーラ
- 1450年頃のジャイナ教文献に名が伝わる著者。宴席のジャレビの記述が論じられます。
- マイダ(maida)
- 精製した小麦粉。ジャレビでは流し絞れる生地の主材料になります。
- サンジーヴ・カプール
- インドの料理人。本文では発酵生地と糖液を別々に調製するルセットを一例として取り上げています。
- ルセット
- 材料の配合と作り方の一式。
- ラブリ(rabri)
- 乳を煮詰めて作る甘い乳製品。薄い乳の膜を含むものもあります。
- ホブソン=ジョブソン
- 英領インドで用いられた語を集めた歴史辞典。1903年版の「Jelaubee」を本文で参照しています。
- イマルティ(imarti)
- 豆の生地を絞って揚げ、糖液を含ませる輪形の菓子。
- マーワー
- 乳の水分を蒸発させて作る濃縮乳固形分。コアとも呼ばれます。
- チェナ
- 乳を酸で凝固させ、水分を切った乳製品。
- ジェリ・スワリ
- ネパールで親しまれる、渦巻きの甘味ジェリと薄い揚げパンの組み合わせ。
- グル
- サトウキビやヤシ類の樹液などから作る精製度の低い糖。
- シャヒ・ジラピ
- ダカ旧市街などで売られる大きなジラピ。シャヒは王家に関わる語です。
- ラマダーン/イフタール
- イスラム教の断食月と、その期間の日没後に断食を解く食事。
- ドゥード・ジャレビ
- 乳とジャレビを組み合わせる甘味。ドゥードは乳を意味します。
- グニャグナボーディニー
- 1600年より前に成立したとされ、ジャレビの材料と調製を記すサンスクリット語の料理文献。
- P・K・ゴーデ
- インドの文献学者。1943年の論考で古いジャレビの記述を調べました。
- バーミエ
- イランの蜜をまとわせた揚げ菓子。本文では指ほどの形のものを比較しています。







