Sweetlore世界のお菓子図鑑(534)

ジョイナガルのモア
Joynagarer Moa
普通のモアとの違いは米から始まる
砂糖菓子 / インド・西ベンガル州ジョイナガル

ジョイナガルのモア(Joynagarer Moa/জয়নগরের মোয়া)は、香り米をはぜさせたコイに、ナツメヤシ類の樹液から作るノレン・グルを含ませ、丸くまとめるベンガルの菓子です。西ベンガル州南24パルガナー県のジョイナガルとその周辺で作られ、冬の甘味として知られます。米の軽い粒に糖の香り、乳脂肪の風味が加わります。
普通のモアとの違いは米から始まる
モアは、膨らませた穀粒などを糖でまとめた菓子の呼称です。その中でもジョイナガルのモアを特徴付けるのは、カナクチュールという香り米のコイと、ノレン・グルの組み合わせです。コイは籾を加熱してはぜさせるものです。ムリは炊飯などを経て膨らませる米で、コイとは加工の順序が異なります。
コイは粒の内部に空隙があり、軽く、砕けやすい素材です。そこへ香りのある糖を含ませ、ギーや濃い乳を合わせます。香り付けや飾りにはカルダモン、干しブドウ、カシューナッツ、ピスタチオなどが使われます。乳を含ませることで、粒の軽さを残した柔らかなまとまりに仕上げます。
糖を煮てからコイを加え、その後にさらに糖蜜や乳由来の素材を合わせます。熱い糖で結着させるだけで終わらず、香りや湿りを調整して丸める作り方です。成形する手にはギーを塗り、膨らんだ米の形を残しながら1個にまとめます。
冬の樹液を煮詰める

西ベンガル州タキで、ナツメヤシに樹液を受ける壺が掛けられている。冬の糖づくりは、この採取から始まる。
写真・図版:Biswarup Ganguly/CC BY 3.0/原図。原寸ではなくCommonsの1280px縮小配信。切り抜き・色調整なし。
ノレン・グルは、ナツメヤシ類から冬に集める樹液を煮詰めた新しい糖です。幹から樹液を得て糖へ仕上げる仕事が、菓子の製造に先立ちます。
ジョイナガルのモアが季節菓子となった大きな理由は、この糖の採取期にあります。米自体も地域で生産される品種ですが、菓子の冬らしい香りを左右するのは、採りたての樹液から作る糖の存在です。保存した糖や代わりの香料があれば同じ時季以外にも似た菓子を作れますが、新しい糖を待つ季節感とは区別されます。
煮詰めた樹液の糖は土の器に保存し、選別したコイと混ぜます。熱い段階では木の道具で混ぜ、手で扱えるように冷ましてから丸めます。米を傷めずに糖を行き渡らせることと、成形できる温度を見極めることが連続しています。砂糖の板にナッツを閉じ込めるチッキとは、結着剤が糖という共通点があっても、粒の軽さと乳を含む柔らかな仕上がりが異なります。
樹液を採る職人はシウリと呼ばれます。夕方に幹へ切り込みを入れて器を掛け、夜明け前に下ろし、樹液を長く煮ます。採取と煮詰めを担う人の技能まで含めて、冬の菓子が支えられています。
原料の供給は年によって変わります。2024年の生産者団体への取材では、冬の訪れの遅さや時季外れの雨が短い商期を圧迫し、若い世代が都市の仕事へ移ることによるシウリの担い手不足も語られました。一方、2026年1月には、冷たい夜が続いて樹液の質と量が前年までより良いという現地のシウリの声が報じられています。糖の量と質は、その冬の天候と採取を続ける人々に支えられています。工房は季節ごとの供給に合わせて仕込みます。
発明の話と、商売を広げた話
ジョイナガルのモアの来歴には、複数の人物が現れます。生産者団体の登録申請では、スリプル村のアシュトシュ・ダースが1904年にモアの商売を始めたと説明しています。大きな籠で祭りへ運び、ラダ・バラブへの供物にも使われたという筋です。ここでは1軒の店を開くより前の、行商と祭礼による販売が語られています。
1929年には、シュリ・クリシュナ・ミシュタンナ・バンダルの店がジョイナガルに開かれたと伝わります。2009年に店主アショク・クマール・ゴーシュが語った家の沿革にも、この開店年が挙げられています。冬のポウシュ・サンクランティの時季にはコルカタからまとまった注文が来たといい、村の菓子が都市の祝いの需要にも応えていました。
ジョイナガルの名と、周辺の村の作り手
ジョイナガルのモアの生産には、町の周辺にあるバハルなどの作り手も関わっています。産地の名をめぐってジョイナガルとバハルのどちらを前面に出すかという議論があり、生産者団体も行政上の地域と作り手の範囲を意識してきました。町の名前は、冬に糖を作る村々や菓子工房を含む生産圏を代表する呼び名でもあります。
ジョイナガルのモアは2015年にインドの地理的表示で登録されました。保護の対象になるのは、米を丸めた形だけではなく、特定の地域と素材、製造技能が結び付いた名称です。普通の膨化米や香料で作った品にも同じ名が使われることへの、生産者側の懸念が申請書に表れています。2021年にはバーレーンへ約30キログラムの試験出荷が行われ、続く注文も寄せられました。祭りへ籠で運んだという村の来歴、コルカタからの冬の注文、国外への出荷が、この菓子の商圏の広がりを伝えています。
用語解説
- バハル
- ジョイナガル周辺のモアの生産地。町の名と実際の生産者の範囲をめぐる議論にも登場します。
- コイ
- 籾を加熱してはぜさせた膨化米。
- ムリ
- コイとは異なる製法の膨化米。一般的なモアに使われます。
- カナクチュール
- ジョイナガルのモアに用いられる地域の香り米。
- ノレン・グル
- 冬に採るナツメヤシ類の樹液を煮詰めた新しい糖。
- ギー
- 乳脂肪を精製した油脂。
- 地理的表示
- 産地と結び付く品質や評判を持つ製品の名称を保護する制度。
- アシュトシュ・ダース
- 生産者団体の登録申請で、1904年にモアの商売を始めたとされる人物。
- ラダ・バラブ
- ジョイナガルの祭りと供物の来歴に登場する神格。
- シュリ・クリシュナ・ミシュタンナ・バンダル
- ジョイナガルのモアを販売してきた店。家の沿革では1929年開店。
- アショク・クマール・ゴーシュ
- 2009年の取材で、店の1929年開店と冬の注文について語った店主。
- ポウシュ・サンクランティ
- ベンガルの冬の暦の節目に当たる祝い。
- シウリ
- ナツメヤシ類の樹液を採り、糖の生産を担う職人の呼称。







