Sweetlore世界のお菓子図鑑(534)

ハンファルーシュ
Khanfaroosh
家庭と菓子店に広がる仕事
揚げ菓子 / バーレーン・UAEなど湾岸地域

ハンファルーシュ(Khanfaroosh、خنفروش)は、卵と砂糖を含む生地を油で揚げる、湾岸地域の小菓子である。バーレーンやアラブ首長国連邦、カタールなどで知られ、カルダモン、バラ水、サフランといった香りを加える。小さな揚げケーキや厚い円盤に近い形で、外側はきつね色、内側には卵入り生地の柔らかさが残る。
同じ湾岸の揚げ菓子であるルカイマートは、丸い生地に蜜を掛ける食べ方で知られる。それに対し、ハンファルーシュでは卵と砂糖を含んだ生地そのものに味と香りを持たせる。蜜の中に沈める工程を置かず、揚げたまま温かく供する作り方もある。
家庭と菓子店に広がる仕事
ハンファルーシュはバーレーンだけでなく湾岸各地で作られる。サウジアラビア東部州でも、伝統的な菓子作りの仕事の1つに数えられている。バーレーンではラマダーンに向けて家庭で作る菓子でもある。小さく揚げた生地を温かいうちに出す形は、家で食べる菓子にも店で売る菓子にもつながる。
呼び名にはハムファルーシュに近い発音もある。発明者や最初の製造年は分かっておらず、音が似た別の菓子から伝わったと決めることもできない。
ラス・アルハイマの菓子店では、フィリピン出身の作り手が店主から地元の菓子作りを学び、ハンファルーシュを店の名物に育てた。2018年の取材では、配合を店の秘密として守りながら親族と仕事を担う姿が伝えられている。家庭での継承に加え、店で働く人が技を受け継ぐ道もある。
卵を含む生地を、少しずつ揚げる
生地は、小麦粉、米粉、砂糖、卵、水などを合わせて作る。米粉と小麦粉の割合や、膨張剤の使い方には幅がある。液体を多く含むため、パンのように伸ばして切るのではなく、スプーンなどで少量ずつ油へ入れる作り方がある。両面を返して揚げると、丸く厚みのある形や、縁が薄く広がった形になる。
バーレーンの製粉会社Bahrain Flour Millsが公開するルセット(材料の配合と作り方)は、小麦のセルフレイジング・フラワーにセモリナを加える。卵と砂糖を合わせ、水とバラ水を加えてから粉類を混ぜ、カルダモンを入れる。覆って30分置いた後、スプーン1杯ずつ油へ入れ、両面をきつね色に揚げる。この配合は、バラ水とカルダモンの香りを生かしている。
セモリナを使う作り方は、1996年初版の湾岸料理書『Traditional Dishes of Arabian Gulf』にも残る。セモリナ、卵、カルダモンなどから柔らかい生地を作り、丸く厚い形にして揚げる。一方、バーレーンの学校が2021年のラマダーン向け会報に掲載した家庭用ルセットでは、米粉と小麦粉を合わせ、卵、バラ水、カルダモン、サフランを使う。生地を30分置き、スプーンで落として両面を揚げる。粉の組み合わせと香りは変わっても、卵入りの生地を小さく揚げるという基本の作り方は共通している。
黄色い色と香りの組み合わせ
サフランを加える場合は、その香りと黄色い色が生地に移る。カルダモンは粉にして混ぜ込み、バラ水は液体の材料として加える。香料を表面に散らすだけでなく、生地の内側まで香りを含ませる点が特徴である。卵自体にも色があるため、黄色い断面を見ただけで、サフランが使われていると決めることはできない。
バラ水とカルダモンを使う製粉会社の配合に対し、学校の会報ではサフランも加える。どの香りを重ねるかにも、家庭向けの作り方の幅が表れている。
左は柔らかい生地を油へ落とす工程、右は揚がった小菓子の厚み。実際の直径・油温・断面気泡の数を示すものではない。 模式図であり実寸ではない。 図:Sweetlore独自作図。
用語解説
- Traditional Dishes of Arabian Gulf
- A.O.ムサイガーによる湾岸料理書。1996年初版にセモリナを使うハンファルーシュが載る。
- ルカイマート
- 小さな生地を丸く揚げ、蜜などを掛ける湾岸地域の菓子。
- セルフレイジング・フラワー
- 膨張剤をあらかじめ配合した小麦粉。
- セモリナ
- 粒の粗い小麦の挽き粉。ハンファルーシュに使う配合例がある。
- カルダモン
- 種子を香辛料として使う植物。生地の香り付けに用いる。
- サフラン
- 花の柱頭を乾燥させた香辛料。黄色い色と香りを付ける。







