Sweetlore世界のお菓子図鑑(534)

ラドゥ
Laddu・Laddoo
同じ豆粉から、違う球を作る
砂糖菓子 / インド各地

ラドゥ(Laddu、Laddoo)は、南アジアで広く作られる球形の甘味の総称です。ひよこ豆の粉、小麦粉、セモリナ、ココナッツ、胡麻など、主材料は1つに決まっていません。砂糖やジャガリー、ギーなどを合わせて手で丸める点が、多くの種類に共通します。球の中が炒った粉なのか、揚げた小さな粒なのかによっても、食感と製法が分かれます。
同じ豆粉から、違う球を作る
ベサン・ラドゥでは、ひよこ豆粉のベサン(besan)をギーでじっくり炒ります。粉の生っぽさを残さず、香りを出したあと、少し冷まして砂糖とカルダモンを混ぜ、手で丸めます。小さな焼き粒を集めるのではなく、炒った粉を主体とする塊を作るものです。粉の粗さは口当たりにも関わり、料理人サンジーヴ・カプールの一例では粗挽きのベサンを使っています。
これに対し、モティチュール・ラドゥでは、同じ豆粉からまずブーンディ(boondi)を作ります。豆粉を水で流れる生地にし、穴のある匙へ流して、下の油に細かい滴を落とします。揚がった粒を糖液へ入れ、液を含ませてから、幾つもの粒を寄せ集めて球にします。粉を炒ってまとめるものと、生地を滴に分けて揚げ、蜜でまとめるものでは、途中で作るものが全く異なります。
モティチュールの名は細かな真珠を思わせる呼称で、細粒の集合という見た目と結び付きます。表面をよく見ると、滑らかな1枚の皮ではなく粒の境が見えます。糖液を吸った粒の集合が、しっとりした崩れ方を生みます。大きさを変えるだけの違いではなく、粒の段階を経ること自体が食感の違いになります。
何を使ってまとめるか
ラドゥの甘味料は白い砂糖だけではありません。精製度の低い糖のジャガリーを用いるものもあり、胡麻と合わせるものや、穀物・豆を挽いたものと合わせるものがあります。ギーは乳から水分や乳固形分を除いて得る油脂で、粉を炒る媒体になり、球をまとめる材料にもなります。すべてを糖液で煮固める菓子ではなく、粉糖を混ぜて丸めるものも含みます。
ベサン・ラドゥのように砂糖をあとから混ぜるものと、ブーンディのように糖液を吸わせるものでは、砂糖の扱いが違います。ココナッツを使うものなら、豆粉の焙煎香ではなく、ココナッツ自体の風味が主になります。同じ球に見えても、主材料と結び方を替えることで、多くの菓子がこの名の下に収まります。
胡麻、小麦、米の土地ごとのまとまり方
マハーラーシュトラでマカラ・サンクランティに交換するティルグルには、胡麻をジャガリーでまとめたラドゥがあります。「甘いものを受け取り、甘い言葉を話しましょう」という挨拶とともに、家族や友人へ渡します。粉を炒った塊とは違い、小さな種子の粒を糖がつなぐ菓子です。冬の収穫を祝う行事の中で、材料の組み合わせそのものが親しさを伝える役目を持ちます。
ラージャスターンのチュールマ・ラドゥでは、小麦粉をいったん生地にし、加熱してから砕き直します。料理人サンジョート・キールのルセット(材料の配合と作り方)では、ギーを混ぜた硬めの生地を棒状にして弱い火で揚げ、冷まして粗く砕き、溶かしたジャガリーとギーでまとめます。ベサン・ラドゥの粉を直接炒る方法とも、モティチュールの小滴を揚げる方法とも異なり、できた生地を砕いてから球へ組み直す作り方です。
オディシャのチュダ・カダンバには、押しつぶした米のチュダを粉にし、砂糖、すりおろしたココナッツ、ギーと混ぜ、温かい乳を少しずつ加えて球にする作り方があります。糖を硬く煮詰めるだけが結着の方法ではありません。この作り方では、穀物の粉へ水分を加えて成形できる状態にします。生の米粉をそのまま球にしたものとも違い、加工済みの米を用います。
ココナッツを主にしたものにも幅があります。現在の乳製品メーカーのルセットには、加糖練乳と生のすりおろしココナッツを鍋で加熱し、鍋肌を離れるまで濃くしてから冷まし、丸めるものがあります。ここでは粉を揚げる代わりに、乳とココナッツの混合物を煮詰めます。同じ丸い形の内側に、種子を結ぶ、加熱した小麦生地を砕く、米の粉を湿らせる、乳を煮詰めるという別々の操作が収まっています。
家の祝いと、寺院の供物

パンジャーブ州サングルールの村で、婚礼用のラドゥを丸める2人。大鍋の中で材料をまとめ、手で1粒ずつ形を整える。
写真・図版:Satdeep Gill/CC BY-SA 4.0/原図。Commonsの縮小配信。切り抜き・色調整なし。
ラドゥは祝いの贈り物や宗教行事に使われます。寺院で神に供えたあと信者へ渡すプラサード(prasada)としても知られ、とりわけアーンドラ・プラデーシュ州ティルパティの寺院のラドゥは、土地と深く結び付いています。豆粉、ギー、砂糖、カシューナッツなどを使うこの菓子には、「Tirupathi Laddu」という独立した地理的表示もあります。
ティルパティ寺院の製造を支えるのが、ポートゥと呼ばれる調理場です。寺院側の2016年の説明には、大量のブーンディを揚げる設備を使いながら、菓子を作る手仕事も続ける姿が記されています。配合や量はディッタムと呼ぶ取り決めで管理され、製品の水分や材料の確認も行われます。巡礼者が持ち帰る供物を整えることは、信仰上の役割を担うとともに、多くの人へ同じ菓子を渡す製造の仕事でもあります。
ラドゥは誕生を迎えた家の食事にも現れます。食用樹脂のゴンドを使うものや、生姜を使うものなどを、出産後の母親のために用意する食習慣が記録されています。寺院で分けられる供物に加え、家族が身内のために作る食べ物という役割もあります。
古典のラドゥは、1つの豆粉菓子ではない
11世紀のカンナダ語百科『ロコーパカーラ』には、日常の料理とともにラドゥなどの菓子の調製が取り上げられています。名のある菓子として、中世の南インドの実用書に組み込まれていたことが分かります。
15世紀末から16世紀初頭のマンドゥー宮廷の料理書『ニマトナーマ』にも、複数のラドゥが登場します。ノラ・M・タイタリーの英訳では、穀粉の生地をギーで揚げて糖蜜を含ませ、バラで香りを付けるものや、緑豆を用いるものが記されています。アーモンドとココナッツ、カルダモン、クローブに、樟脳や麝香の香りを重ねる例もあり、現在の豆粉・ギー・砂糖だけの像より、材料も操作も広がっています。
バラや麝香を香らせた宮廷の甘味と、現在の祭りで交換する胡麻の球は、同じ名を持ちながら材料も食べる場面も異なります。穀物や豆、油脂、糖、香りを組み替える幅は、古い料理書にも表れています。
ラドゥという名は、サンスクリット語のラッドゥ、ラッドゥカに連なります。梵英辞典では、豆や穀物の粗い粉、糖、香辛料、ギーや油などから作る甘い菓子の名として記録されています。現在も主材料やまとめ方に幅があるのと同じく、語としても特定の1つの配合だけを指してはいません。
用語解説
- ポートゥ
- ティルパティ寺院で供物を調製する調理場の呼称。
- ディッタム
- 寺院の供物の配合や量などを定める取り決め。
- ベサン(besan)
- ひよこ豆を挽いた粉。炒って使う場合と、水で溶いて揚げる場合があります。
- ギー
- 乳由来の油脂から水分と乳固形分を除いたもの。
- サンジーヴ・カプール
- インドの料理人。粗挽き豆粉のベサン・ラドゥなどを発表しています。
- ブーンディ(boondi)
- 流動性のある豆粉の生地を滴にして揚げた小粒。
- モティチュール
- 細かな粒を糖液でまとめるラドゥの一種に用いられる名。
- ジャガリー
- サトウキビやヤシなどから作る精製度の低い糖。
- プラサード(prasada)
- 神に供えたのち、人々に分けられる食べ物。
- ティルパティ
- 南インドの巡礼地。寺院のラドゥで知られます。
- ラッドゥ/ラッドゥカ
- 豆粉や穀粉、糖などから作る甘い菓子の名として記録されるサンスクリット語。
- ティルグル
- 胡麻とジャガリーを組み合わせるマハーラーシュトラの祝いの甘味。球形のラドゥのほか板状などもあります。
- マカラ・サンクランティ
- 太陽暦の節目と収穫を祝う、1月頃の祭り。
- チュールマ
- 加熱した小麦生地などを砕き、糖やギーと合わせるもの。丸めたものもあります。
- サンジョート・キール
- インドの料理人。本文のチュールマは本人の公開ルセットの一例です。
- チュダ・カダンバ
- オディシャの、粉にしたチュダやココナッツなどを球へまとめる菓子。
- チュダ
- 押しつぶした米の加工品。
- ゴンド
- 食用にする植物由来の樹脂・ガムの呼称。
- ロコーパカーラ
- 11世紀のカンナダ語の百科的実用書。料理や菓子も扱います。
- ニマトナーマ
- マンドゥーのスルタンの宮廷で、15世紀末から16世紀初頭に編まれた料理や飲み物などの作り方を集めた本です。
- ノラ・M・タイタリー
- ペルシア語写本研究者。『ニマトナーマ』を英訳しました。
- 樟脳/麝香
- 芳香を持つ素材。本文では宮廷料理書に記された歴史的な香料として挙げています。







