Sweetlore世界のお菓子図鑑(234)

マルヴァプディング
Malva Pudding
焼いた生地に温かなソースを染み込ませる南アフリカのデザート
デザート / 南アフリカ

焼き上がってから、温かい甘いソースを吸わせる。南アフリカのマルヴァプディングは、柔らかな焼き生地と液体が一体になるデザートです。アプリコットジャムを生地へ混ぜる型がよく知られ、温かく分けて、クリーム、カスタード、アイスクリームなどを添えます。冷やす日本のプリンとは違う、食後の甘い一皿という pudding です。
生地の乳と、後から吸わせる乳
粉、糖、卵、バター、乳などを使い、ジャムは表面でなく中へ加えます。酢と重曹を使う型もあり、混ぜ方は一律ではありません。料理家ウォーレン・メンデスのルセット(材料の配合と作り方)は、粉、重曹、細粒の白糖へ、卵、溶かして冷ましたバター、ジャム、酢、エバミルクを加え、泡立て器で合わせます。バターをクリーミングしたり、卵を別立てしたりする型ではありません。
無糖の濃縮乳エバミルクは、375ミリリットルの一缶を、生地へ150、ソースへ225ミリリットルと配します。ソースにはさらに褐色糖、クリーム、バター、水を使い、焼いた後に加える乳と油脂も、初めから配合の一部にします。
焼き切ってから、少しずつ吸わせる
ソースを吸わせるには、先に中心まで焼く必要があります。マギー・ペプラーの型は、油脂を塗ったアルミ箔で耐熱ガラスか陶器の皿を覆って焼きます。ルセットを伝えたマイケル・オリヴィエは、焼き不足ではソースを吸わず、中が重くなると説明しています。
バターと糖などのソースを温かく保ち、熱い生地へ注ぎます。穴を開ければ中へ入る道になります。南アフリカ観光局の型は、熱湯、褐色糖、バニラ、濃縮乳のソースを何回かに分け、前の分が入るのを待ちながら数分掛けます。上面を飾るだけでなく、中を湿らせる量と役割です。
ペプラーのソースは普通の乳、クリーム、糖、水、バター、メンデスはエバミルク入りです。観光局にはバターもクリームもないソースがあり、生地のアプリコットジャムも任意です。よく知られる材料が、全ての型に必須とは限りません。
家のルセットが、1970年代のレストランへ
ケープ・ダッチ系の温かいデザートとして伝わる一方、現在の普及には具体的な店の記録があります。ボッシェンダルのレストランを担当したオリヴィエは、1970年代後半、料理長が不在の間に友人ペプラーへ手伝いを頼み、作り方を教わったと回想します。それからビュッフェへ定着しました。
ペプラーは母から作り方を教わったと語っていました。2013年の追悼記事には、農家の女性たちが共同回線の電話でルセットを読み合ったため、「テレフォーンプディング」と呼ばれたという回想が残ります。家庭で交換された作り方が、店で教えられ、客の求めに応じてさらに広がったという道筋です。
オリヴィエが2013年に公開したのも、ペプラーから受け取ったルセットでした。後にはバナナ、りんご、カラメル化した練乳を加える型も増えています。家庭の味を伝えることと、新しい材料で作り替えることの両方が、店での普及を支えました。
1912年の同名菓子は、ソースを別に出した
P・W・デ・クラーク夫人の1912年の本と、1924年のアフリカーンス語版にも、マルヴァプディングの名があります。料理書研究者ヘッタ・ファン・デフェンターが調べ、食文化記者エリーダ・デュトイが紹介したものです。しかしアプリコットジャムも酒も、熱い焼き生地へソースを吸わせる工程もなく、ソースは別添えでした。同じ名でも、焼いた生地へ液体を含ませる現在型とは違う菓子でした。
別名のテレフォーンプディングも、電話で伝える口承だけの言葉ではありません。料理家ジーン・ホラックは、自ら所蔵するD・J・H夫人の『Oranje Kook-, Koek- en Resepteboek』1918年版に、生姜とアプリコットジャムを使う型があると紹介しています。ペプラー家の型と同じ配合かどうかは別として、ジャム入りの温かい菓子が別名でも伝わったことがわかります。
Malva の説明も、アフリカーンス語でマシュマロを指す malvalekker と食感を結ぶ説、甘口ワイン malvesy、バラゼラニウムの芳香葉へ結ぶ説に分かれます。食文化史家ヘッティ・クラーセンはワイン説を退け、バラ水の代用にした芳香葉へ注目します。一方、料理書著者ディネ・ファン・ゼイルはワインを使うソースと名を結び付けます。1912年と1924年の同名ルセットには、ワインも香り葉も載りません。今の柔らかさや一つの材料から、名の起源は定まりません。
ヤン・エリス、ケープ・ブランデーとの違い
ヤン・エリス・プディングは、ジャム、乳、酢、重曹の生地へ、バター、糖、水、クリームのソースを吸わせる近い菓子です。蓋付き鉄鍋を炭火へ置き、後に蓋にも炭を載せて上を焼く屋外型もあります。
ケープ・ブランデー・プディングは、刻んだデーツとクルミの粒を生地へ入れます。デーツの一部を重曹と熱湯で柔らかくし、残りの果実とナッツも混ぜて焼き、熱いシロップへ火を止めてからブランデーを加えます。ジャムを混ぜる滑らかなマルヴァとは、果実の粒と酒の香りが異なる食べ応えを作ります。
マルヴァは寒い季節だけの菓子でもありません。メンデスは屋外調理ブラアイの後にも挙げ、大きな耐熱皿をソースで満たして多人数へ分けます。温かな生地と冷たいアイスの温度差も、その一皿の組合せです。
用語解説
- P・W・デ・クラーク夫人/D・J・H夫人
- それぞれ1912年と1918年の南アフリカの料理書に名が残る著者。二冊に載る菓子の名と材料は同一ではない。
- ジーン・ホラック
- 南アフリカ出身の料理・食文化の書き手。所蔵する1918年の料理書と家庭の温かいプディングを紹介した。
- ヘッティ・クラーセン/ディネ・ファン・ゼイル
- 南アフリカの食文化史家と料理書著者。マルヴァの名をそれぞれ芳香葉、甘口ワインへ結び付ける説を示した。
- テレフォーンプディング
- アフリカーンス語 telefoonpoeding、「電話のプディング」。母から教わった菓子を電話で交換したというペプラーの回想や、1918年の料理書に現れる名。
- エバミルク
- 牛乳の水分を減らした無糖の濃縮乳。糖を加えたコンデンスミルクとは別。
- ウォーレン・メンデス
- 南アフリカ生まれの料理家。エバミルクを使うマルヴァプディングのルセットを公開している。
- ケープ・ダッチ
- 南アフリカのケープ地域に根づくオランダ系の文化を指す呼称。
- ヤン・エリス・プディング
- ラグビー選手ヤン・エリスの名で知られる、ジャム入り生地と乳のソースの温かい菓子。
- マギー・ペプラー/マイケル・オリヴィエ
- 前者はボッシェンダルにマルヴァプディングのルセットを伝えた料理人、後者は当時のレストラン担当者で、その経緯とルセットを記録した。
- マルヴァ/マルヴァレッカー/マルヴェジー
- それぞれ植物名、マシュマロを指す語、甘口ワインの名。菓子名の語源をめぐる別々の説に現れる。
- エリーダ・デュトイ/ヘッタ・ファン・デフェンター
- 南アフリカの食文化記者と料理書研究者。古い同名ルセットと名前の説を調べた。
- ブラアイ
- 南アフリカの火を使った屋外調理と、その食事の集まりを指す言葉。







