Sweetlore世界のお菓子図鑑(534)

ニシャルダ
Nishalda・Nisholda
卵白と植物の根から生まれる白い甘味
デザート / ウズベキスタン、タジキスタンなど

ニシャルダ(Nishalda)は、ウズベキスタンやタジキスタンで作られる、白く濃い泡状の甘味です。ウズベク語ではニショルダ(Nisholda)、タジク語ではニショッロ(Нишолло)などとも呼ばれます。大きな鍋から器へすくうと、つやのある泡がとろりと伸びます。焼き固めたメレンゲのように一片をつまむのではなく、クリームに近い状態で盛り付ける菓子です。
卵白だけで終わらない泡立て
基本になる材料は、卵白、砂糖を煮て作る糖液、植物の根を煮出した液です。根はエトマク、イェトマクなどの名で呼ばれます。洗って刻み、水で煮た後に漉し、冷ましてから使います。根の液を加えた卵白を泡立て、糖液を少しずつ混ぜ、さらに撹拌を続けます。
この菓子では、最初に空気を入れれば完成するのではありません。糖液が泡から離れて底へたまらず、全体が均一にまとまるところまで混ぜ続けます。木のへらを持ち上げたときに生地が伸びることも、仕上がりを見る手掛かりです。砂糖の量と濃さ、根を煮出した液、混ぜ方が、白い泡の密度と持続性に関わります。
植物の根は香りだけの材料ではなく、泡立てを支える素材として使われます。根を煮出す、卵白へ空気を入れる、糖液を混ぜるという3つの働きが重なります。卵白と糖だけの甘味に根の煮出し液を加える点が、ニシャルダの製法を特徴付けています。植物学では、その原料の一つとしてナデシコ科のアロクルサ・ギプソフィロイデス(Allochrusa gypsophiloides)が記録されています。根に含まれるサポニンは、水の表面で働く泡立つ成分です。現地名で同じように呼ばれる根でも、すべての地域の材料が同一種というわけではありません。甘草の煮出し液や少量のゼラチンを使う別のルセット(材料の配合と作り方)もあります。
ウズベキスタンの伝統的な道具には、クワやマルメロの枝を束ねた泡立て具チルチョプ(chilchoʻp)があります。枝の束を鍋の中で動かし、卵白と根の液へ空気を取り込みます。鍋、根の煮出し液、枝の束を用いるこの製菓は、見た目の軽さに反して、長く手を動かす作業です。クエン酸やバニラを加えるルセットもあり、甘さだけでなく香味も調整されます。
春の祝いと、断食を終える食卓
ニシャルダがよく見られる時季には、春の新年ナウルーズと、ラマダーンがあります。前者は春分のころに祝いますが、後者は太陰暦に従うため季節を移動します。同じ白い菓子が春の菓子としても断食月の菓子としても語られるのは、2つの行事との結び付きが重なるためです。
ラマダーンには、日没後に断食を終える食事イフタールに、パンや茶などとともに用意されます。市場では白く濃い生地が大鍋で売られ、器へ取り分けられます。1人分ずつ包装された飴とは異なり、買うときにも鍋からすくう動作が伴う甘味です。
現地紙Daryoが2021年に取材したチョルス市場の売り手ソリハ・シュクロヴァは、ブハラで代々スマラクとニシャルダを作る家に育ち、家族でタシケントへ来て、冬から春に売ると話しています。別の売り手は、婚礼で花婿側から花嫁側へ1桶のニシャルダを贈った記憶や、ラマダーン以外でも注文を受けて作る商売について語っています。祭りに合わせて大量に出回る時季と、家庭や注文先で食べる時季は、必ずしも重なりません。
ブハラ系ユダヤ人の間にも、ニシャロウ(nishalawh)という甘味が受け継がれています。ニューヨークのブルックリンで育ったロジータ・マヴァシェフは、過越祭ペサハの8日目の夜が終わると、母が卵と砂糖などを泡立て、新しく焼いたパンとともに出したと記しています。パンをちぎり、白い甘味へ浸して食べる時間が、祭りの後にパンのある生活へ戻る祝いになっていました。ラマダーンやナウルーズと結び付く中央アジアの食卓に加え、移住先の家庭でも、それぞれの暦に沿って受け継がれる甘味です。
タジキスタンでも似た白い甘味がニショッロの名で作られます。呼び方や香りの加え方には幅がありますが、卵白、糖液、泡立てを助ける根の液を組み合わせる骨格を共有します。名前の似た各地の菓子をたどると、単なる材料の一致だけでなく、祝いの食卓へ白い甘味を用意するという共通の習慣が見えてきます。
根を煮出して冷まし、卵白と泡立て、糖液を少しずつ加える順序。Sweetlore独自作図。代表的な構成を示し、全地域の配合や道具を規定するものではありません。
用語解説
- エトマク
- ニシャルダに使う泡立つ植物の根の現地呼称。本文では種を一つに固定していません。
- アロクルサ・ギプソフィロイデス(Allochrusa gypsophiloides)
- 中央アジアに生育するナデシコ科の植物。根がニシャルダの原料として記録されています。
- サポニン
- 植物に含まれる成分群。本文では根の液が泡立つことに関わる成分を指します。
- チルチョプ(chilchoʻp)
- 枝を束ねて作る伝統的な泡立て具。
- ナウルーズ
- 春分のころに中央アジアなどで祝う新年の祭り。
- ラマダーン
- イスラーム暦の断食月。
- イフタール
- ラマダーンの日没後に断食を終える食事。
- ソリハ・シュクロヴァ
- 2021年にDaryoの市場取材へ答えた、ブハラ出身の菓子の作り手・売り手。
- ロジータ・マヴァシェフ
- ブハラ系ユダヤ人の家庭で育ち、ブルックリンでのペサハ後の甘味の思い出を記した著者。
- ペサハ
- ユダヤ教の過越祭。本文の家庭では、祭りが終わった夜に白い甘味と新しいパンを用意します。
- ルセット
- 材料の配合と作り方の一式。酸味や香りの調整は個別の作り方で異なります。







