Sweetlore世界のお菓子図鑑(534)

コッターブ
Qottab
ヤズドとケルマーンで変わる中身
揚げ菓子 / イラン・ヤズド

コッターブ(Qottab、قطاب)は、小麦粉の皮に甘いナッツの餡を包み、油で揚げて粉糖をまぶすイランの小菓子である。白い表面の内側には、揚げた薄皮と、カルダモンの香りを含んだ餡が重なる。ヤズドの名物として知られ、春分に迎えるイランの新年、ノウルーズにも用意される。丸い包み形も、縁をねじった半月形もあり、外観だけで1つの形に決めることはできない。
ヤズドとケルマーンで変わる中身
コッターブはヤズドだけの菓子ではない。ケルマーンにも同名の菓子があり、アーモンドを中心とするヤズドに対し、ピスタチオやクルミを使う地域的な違いが語られる。粉糖で仕上げる構造を共有しながら、割った時に現れる餡の色や、ナッツの油分、香りが変わる。家庭向けにはクルミを使い、オーブンで焼く作り方もある。したがって「アーモンド入りの揚げ菓子」は代表的な説明ではあっても、すべての作り方に当てはまる定義ではない。
粉糖の下にある皮と餡
ヤズドの代表的な餡は、アーモンド、砂糖、カルダモンからなる。細かく挽いたアーモンドに粉状の砂糖を混ぜるため、豆餡のように水分を多く含む餡とは異なる。バラ水を加えてまとめる作り方もあるが、乾いた粉のまま包む方法も土地に伝わる。香り付けにバラ水が必須とは限らず、ナッツと香辛料の香りをどう組み合わせるかが、作り手の違いになる。
皮にも幅がある。卵黄やヨーグルトを加えるルセット(材料の配合と作り方)がある一方、卵や乳を使わず、小麦粉、固形油脂、ぬるま湯を合わせる作り方もヤズドに伝わる。料理人エラヘ・ミラフザリが公開するものは、その一例である。ギーなどの油脂を含んだ柔らかい生地を薄くし、餡を置いて口を閉じる。円く切った生地を半分に折り、合わせた縁をねじって閉じると、半月の外周に連続する模様が付く。手の中で口を集めて丸く整える方法もある。
揚げた後の粉糖は、焼き色を覆うだけの飾りではない。口に入れた最初の甘さを担い、その後に皮とナッツの食感が続く。ミラフザリの作り方では、油を切り、まだ温かいうちに粉糖をまぶす。ピスタチオを散らす仕上げもあり、白い表面に緑の細片が現れる。粉糖の上にナッツが見える場合も、それがそのまま中の餡の種類を示すとは限らない。
イランの菓子には、ナッツと砂糖を薄い生地で包むものがほかにもある。コッターブでは、小さく閉じた包みを1個ずつ作り、揚げ皮と粉糖を合わせることが識別の手掛かりになる。シロップに浸す菓子と同じ甘さや口当たりを想像すると、その構造を捉えにくい。
新年に客を迎える小菓子
ヤズドとケルマーンでは箱詰めの土産として売られる一方、ヤズドの家庭では春分の新年ノウルーズに客を迎える菓子にもなる。箱の中で形がそろった商品と、各家庭で包む菓子とでは、同じ名前でも作られ方が異なる。
16世紀末のムガル宮廷記録『アーイーン・イ・アクバリー』の料理表には「クターブ」という名が見える。ただし、その材料は肉、小麦粉、ギー、タマネギ、ショウガ、香辛料で、インドで「サンブーサ」と呼ぶとも記す。現在のヤズドのナッツ餡と粉糖を持つ甘いコッターブを、この記録の配合と同一視することはできない。古い名前が記録に残っていても、それだけではヤズド式の発明年や、ヤズド式に至る直接の系譜は決められない。

粉糖をまぶしたコッターブ。割った1個から、皮とナッツ餡の2重の構造が見える。 写真:Shams948/CC0 1.0、元画像。
用語解説
- アーイーン・イ・アクバリー
- 16世紀末のムガル宮廷についての記録。料理表に現在の甘い菓子とは材料の異なる「クターブ」を載せる。
- ノウルーズ
- 春分に迎えるイランなどの新年。家族や客を迎える菓子が用意される。
- カルダモン
- ショウガ科の植物の種子を用いる香辛料。コッターブではナッツ餡の香り付けに使う。
- ギー
- バターから水分や乳固形分を除いて作る油脂。
- エラヘ・ミラフザリ
- ヤズドの食文化を伝える料理人。文化団体Farhang Foundationでコッターブの作り方を公開している。







