Sweetlore世界のお菓子図鑑(534)

ラスグッラ
Rasgulla・Rasagola
チェナを硬いチーズにしない
デザート / インド・西ベンガル州・オディシャ州など

白く丸い菓子に匙を入れると、乳の生地から甘いシロップがにじみます。ラスグッラ(Rasgulla)は、酸で固めた乳のチェナを練って丸め、糖液の中で煮る菓子です。スポンジのような弾力と水分の多さが特徴ですが、オディシャのラスゴラ(Rasagola)にはクリーム色から茶色のものもあります。色や弾力、糖液の状態には、土地ごとの違いがあります。
チェナを硬いチーズにしない

西ベンガル州ディーガの菓子店で並ぶ、白いチェナの球。糖液で煮る前に形を整える工程を示す。
写真・図版:Biswarup Ganguly/CC BY 3.0/原図。Commonsの1280px縮小配信。切り抜き・色調整なし。
チェナ(chhana)は、熱した乳に酸を加えてたんぱく質を凝集させ、布で乳清を切って作ります。まだ水分を含む、熟成させない柔らかな乳の凝固物です。乳の種類、酸の強さ、凝固させる温度、水切りの方法によって、同じ名の材料でも硬さと保水性が変わります。
ラスグッラには、球にまとめても割れず、煮たあとに糖液を含めるチェナが必要になります。牛乳のチェナは一般に柔らかい組織を得やすく、水牛乳では硬く粗くなりやすいため、製法に調整が要ります。脂肪の量も、仕上がりを左右します。乳脂肪が少なすぎれば硬くなり、多すぎれば練っている間に脂がにじみ、べたついた生地になります。水分と乳脂肪、乳たんぱく質の状態が、柔らかさに関わります。
チェナは滑らかになるまで練り、表面に亀裂のない球にします。少量のセモリナや小麦粉を加えて、生地を調整する製法もあります。乳たんぱく質を主体とする組織を作り、その状態を保ったまま糖液で加熱します。
煮る糖液と、含ませる糖液
糖液の濃さは、甘さを調節するためだけのものではなく、製造条件でもあります。技術資料に示される一例では、濃い糖液で球を煮たあと、より薄い糖液へ移して浸します。煮ている間に水が蒸発するため、水を補って濃度を保つ操作も行います。煮る工程と、その後に糖液を含ませる工程で、液の状態を調整しています。
加熱中の球は膨らむので、鍋には動ける余地が必要になります。乳たんぱく質が比較的密に集まったチェナも、糖液で煮たあとの試料では、大きな空隙を持つ多孔質の組織へ変わったことが観察されています。完成したラスグッラが中まで糖液を含み、弾力を持つことには、この組織も関わっています。乳を煮詰めたコアを揚げてから糖液に浸すグラブ・ジャムンとも、乳を固める段階と加熱方法が違います。
職人の試みと、文献に残る菓子の名
ベンガルの白く弾力のあるロショゴッラの歴史には、コルカタの菓子職人ノビン・チャンドラ・ダスと1868年が繰り返し登場します。ダス家では、チェナの球を糖液で煮ても崩れないように工夫を重ねた末に、この白く弾力のある菓子が生まれたと伝えています。19世紀後半から20世紀初頭には、ボワニプルのムリック家やショヴァバザールのチットランジャン・ミシュタンナ・バンダールなども、それぞれの食感へ改良を重ねました。1930年にはK.C.ダスが缶詰を送り出し、傷みやすい乳菓をコルカタの外へ届ける道が広がりました。
先行する菓子をめぐっては、フリアでラナガートのパール・チョウドリー家の菓子作りを担ったハラダン・モイラの話も伝わります。チェナの球が煮立つ糖液へ落ち、菓子ができたという偶然の発見譚です。食品研究者サルカルらの2021年の整理でも、こうした職人の系譜が取り上げられています。白いスポンジ状の菓子が洗練されるまでには、著名な1軒に加え、複数の職人と店の試みがありました。
オディシャ側には、詩人バララーム・ダースによる15〜16世紀の『ダンディ・ラーマーヤナ』にラスゴラの名が現れるという文献上の議論があります。サルカルらが示す1921年刊の文学選集では、ラーマを探す弟たちのバラタとシャトルグナが、旅先で聖者バラドヴァージャを訪ね、乳の菓子などとともにもてなされる場面に、その名が収められています。これは菓子の名が文学の食卓に現れる例です。その場面には、現在のチェナや糖液の調整を再現できるほどの製造手順までは記されていません。
神への供物から、沿道の店と箱入りの商品へ
オディシャでは、ラスゴラがプリーのジャガンナート寺院の儀礼と深く結び付いています。年ごとのラタ・ジャトラのあと、ジャガンナート神が帰還するニラドリ・ビジェで、菓子がラクシュミー女神に供えられます。伝承では、旅に同行できなかった女神が帰還した神の入場を拒み、ラスゴラを贈られて機嫌を直すといいます。誰が誰に何を贈るかが、この菓子を仲直りの供物として理解する手掛かりになります。これは信仰の物語であり、発明時点を示す製造記録とは性質が異なります。
ブバネシュワルとカタックを結ぶ街道沿いのパハラには、ラスゴラを売る店が集まっています。2019年の現地訪問記では、チェナにセモリナとカルダモンを合わせて丸め、濃い糖液で煮る店の製法が記録されています。砂糖の糖液を使うものとジャガリーの糖液を使うもの、大きさの違いもあり、オディシャの菓子を1種類の色や硬さだけでは括れません。
カタック近郊のサレプルでは、ビカラーナンダ・カルの店が広く知られます。孫娘による2025年の取材では、1924〜25年頃、小屋で手作りのラスゴラを売り始めたと語られています。村の祭りや市へ出向く商いから、次世代の機械化と包装へ発展しました。別の2017年の取材では、保存して運ぶ商品を作るため、糖液や噛み応えを調整した試行錯誤も語られています。出来たてを店先で味わう乳菓と、遠方へ送る乳菓では、同じ店でも求められる仕上がりが変わったのです。
地理的表示(GI)でも、2017年の「Banglar Rasogolla」と2019年の「Odisha Rasagola」は別の名称で登録されました。オディシャの登録番号は612です。それぞれの地域名を付した製品の特性が、別々に保護されています。オディシャのものには糖の加熱による色の違いがあり、ベンガルの白いものとは柔らかさや糖液の状態にも違いがあります。
用語解説
- パール・チョウドリー家
- ベンガルのラナガートの有力な家。ハラダン・モイラが菓子作りを担ったという伝承に登場します。
- バラタ/シャトルグナ
- 『ラーマーヤナ』でラーマの弟として登場する人物。本文のオディア語版の饗応場面に現れます。
- バラドヴァージャ
- 『ラーマーヤナ』に登場する聖者。本文で触れる場面では、ラーマを探す弟たちをもてなします。
- 多孔質
- 内部に多くの小さな空隙を持つ組織。糖液で煮たラスグッラの乳たんぱく質に見られます。
- ムリック家
- コルカタのボワニプルで菓子作りを担った一家。のちのバララームの店につながります。
- チットランジャン・ミシュタンナ・バンダール
- コルカタのショヴァバザールにある菓子店。ラスグッラの改良を重ねた店の1つです。
- K.C.ダス
- クリシュナ・チャンドラ・ダスの名を冠した菓子店の系統。ラスグッラの缶詰化で知られます。
- ハラダン・モイラ
- ベンガルのラスグッラの先行する作り手として、発見譚に登場する菓子職人。
- サルカル
- タナモイ・サルカル。ラスグッラの歴史と製造研究を整理した2021年の学術総説の共著者。
- バララーム・ダース
- オディア語の詩人。『ダンディ・ラーマーヤナ』の作者。
- ダンディ・ラーマーヤナ
- ラーマの物語をオディア語で語った文学作品。ラスゴラの名が登場する箇所が論じられています。
- ラーマ
- インドの叙事詩『ラーマーヤナ』の主人公。
- パハラ
- ブバネシュワルとカタックの間にある、ラスゴラの店が集まる土地。
- サレプル
- カタック近郊の町。ビカラーナンダ・カルの菓子店で知られます。
- ビカラーナンダ・カル
- サレプルでラスゴラの商いを発展させた菓子職人。
- チェナ(chhana)
- 加熱した乳を酸で固め、布で乳清を切った柔らかい乳製品。
- 乳清
- 乳が凝固したあとに分かれる液体。水、乳糖などを含みます。
- セモリナ
- 粗く挽いた小麦の粉。生地の調整に少量使う製法があります。
- ノビン・チャンドラ・ダス
- 19世紀コルカタの菓子職人。白いスポンジ状のロショゴッラの発展と結び付けられます。
- ジャガンナート
- オディシャのプリーで信仰される神。ラスゴラは寺院の帰還儀礼にも関わります。
- ラクシュミー
- ジャガンナートの配偶神として、本文の供物の伝承に登場する女神。
- ニラドリ・ビジェ
- ラタ・ジャトラの旅を終えたジャガンナートが寺院へ帰還する儀礼。
- ジャガリー
- 精製度の低い糖。パハラでは糖液の甘味に使うものもあります。
- 地理的表示(GI)
- 土地と結び付いた製品の名称・特性を保護する制度。発明者を決める制度とは異なります。







