Sweetlore世界のお菓子図鑑(234)

タルト・コンヴェルサシオン
Tarte conversation
焼いた白い糖衣と格子が覆う、アーモンド入りの折り込みパイ
タルト / フランス

淡い糖衣にひびが走り、その上を細いパイの格子が斜めに横切ります。タルト・コンヴェルサシオンは、折り込みパイでアーモンドクリームを包み、白い糖衣も一緒に焼くフランス菓子です。表面の帯、乾いた糖衣、幾層ものパイ、しっとりしたアーモンド。大判でもタルトレットでも、切り口には硬さの違う層が現れます。
「会話」の本と、小さなアーモンド菓子
コンヴェルサシオンは、フランス語で「会話」。名に結び付くのは、ルイーズ・デピネーが母と少女エミリーの教育を会話形式で描いた『エミリーの会話』です。一七七四年に初版が刊行され、ほどなくパリでも版を重ねました。
『ラルース・デ・デセール』では、その流行書にちなみ十八世紀末に小さなアーモンド菓子が作られたと伝えます。最初の店や販売開始年は分からず、一七七四年という年は、菓子ではなく本の刊行年です。書物の名を得た菓子には、食卓の「会話」を思わせる呼び名が残りました。
ふくらませすぎない中身
中身は、柔らかなバター、砂糖、アーモンド粉、卵を合わせるクリームです。乳のクリーム、ラム酒、柑橘の皮を加えて風味を整える型もあります。メルコットと専門誌サヴールのルセット(材料の配合と作り方)は、ここを強く泡立てすぎない点で共通します。油脂を軟らかくして混ぜますが、溶かして液体にはしません。
型の中へ詰めすぎると、焼いたときに中身がふくらみ、縁からあふれることがあります。メルコットの型では、クリームを高さの半分ほどまでに留めます。薄い皮へいっぱいに押し込むのではなく、焼成で変わる中身の大きさにも余地を残しています。
蓋の上へ、もう一組の格子
底のパイへクリームを入れ、もう一枚でふたをし、縁を密着させます。表面に見える格子とは別に、その下にも一枚のパイがあるため、中身は上下の生地で包まれています。
格子の帯は、別に切り出して卵を塗り、冷やしておきます。薄く伸びやすい生地でも、冷えていれば移す際に変形しにくくなります。組み立てたふたへ糖衣を薄く広げ、帯を斜めに渡し、冷やしてから焼きます。
糖衣を焼く、パイを開かせる
この菓子のグラス・ロワイヤルは、焼く前に塗ります。粉糖と卵白を合わせて薄く伸ばし、その上に細いパイ生地を渡します。加熱すると糖衣が乾き、下のパイがふくらむため、割れ目を伴う表面になります。
少量の小麦粉を糖衣へ加えるルセットもあります。メルコットの型では、焼いた時に淡い色を付けるために使い、省くこともできます。また、少量のレモン汁で糖衣の柔らかさを調整します。小麦粉を含むものだけがグラス・ロワイヤルなのではなく、この菓子で焼くために選ぶ配合の一つです。
折り込み生地では、薄い生地とバターの重なりを、加熱で生じる蒸気が押し広げます。生地の断面を潰さずに切り、糖衣を厚くしすぎずに焼くことが、格子の輪郭と層の歯切れへつながります。表面の色を見ながら火を通し、型を外す前には少し冷まします。後から白く飾るのではなく、糖衣とパイが同じ窯の中で別々の変化をする菓子です。
用語解説
- グラス・ロワイヤル
- 粉糖と卵白を主体とする糖衣。ロイヤルアイシング。
- アーモンドクリーム
- バター、砂糖、アーモンド粉、卵などを合わせる、焼き込み用のクリーム。
- タルトレット
- 小型のタルト。
- メルコット
- フランスの料理研究家・製菓著述家。配合と技術解説を公開しています。
- ルイーズ・デピネー
- 十八世紀フランスの著述家。『エミリーの会話』が、この菓子の名前の由来として紹介されます。
- 『エミリーの会話』
- デピネーが母と少女エミリーの教育を会話形式で描いた書物。原題は『Les Conversations d’Émilie』。1774年にライプツィヒ、1776年にパリで刊行。
調査注記
書物の初版は1774年ライプツィヒ、パリ版は1776年。これは刊行史であり、菓子の発売開始日ではない。命名との結び付きは『Le Larousse des desserts』に伝わる由来で、十八世紀の菓子店の広告・当日の販売記録まで実証するものではない。







