Sweetlore世界のお菓子図鑑(534)

ウンム・アリ
Umm Ali
焼いた生地を乳に浸す、エジプトの菓子
デザート / エジプト

ウンム・アリ(Umm Ali、Om Ali、أم علي)は、焼いた薄いパンやパイを崩し、甘い牛乳とナッツを合わせて再び焼くエジプトの菓子です。表面には焼き色がつき、内側では生地が乳を吸って柔らかくなります。温かい器からスプーンで取り分けると、同じ生地から生まれた香ばしい部分と、しっとりした部分を一緒に味わえます。
「アリの母」に結び付く宮廷の伝承
ウンム・アリは、アラビア語で「アリの母」という意味です。名の由来には、13世紀のエジプト宮廷を舞台にした話があります。よく知られる筋では、1257年に権力争いの中でシャジャル・アッドゥッルが殺された後、彼女と対立していたアイバクの先妻、アリの母が、勝利を祝って菓子を作らせ、人々に配ったとされます。パンやパイ、乳、砂糖、ナッツを使った菓子がアリの母の呼び名で知られるようになった、という物語です。
この話の語り方には、先妻がシャジャルの殺害を命じたとするものと、その死を受けて菓子を配った場面を中心に語るものがあります。アイバクとシャジャル・アッドゥッルの対立と両者の殺害は中世エジプト史の出来事ですが、そのとき現在のウンム・アリが作られたことまでを確定する史料は明らかになっていません。宮廷の人物を菓子に結び付ける伝承と、現在の製法の成立年代は区別されます。
生地を焼いてから、もう1度焼く
土台にはエジプトの薄いパンであるルアー、フィロ(phyllo)、折り込みパイなどが使われます。小麦粉の生地を生のまま乳に入れるのではなく、まず焼いてから割るのが基本です。1度焼いて作った乾いた層に、あとから乳を含ませます。どの生地を選ぶかによって、吸い込む速さと、柔らかくなってから残る形が変わります。
崩した生地に、砂糖を溶かした温かい牛乳を注ぎます。ピスタチオやアーモンド、レーズン、ココナツを混ぜる形があり、表面にはアシュタや生クリームをのせます。牛乳を吸った部分は柔らかく、上面は炉の熱で色づきます。卵で乳を固めるブレッドプディングとは違い、卵を使わないルセット(材料の配合と作り方)では、乳の濃さと生地の吸水が全体の固さを決めます。
焼き上がりの違いには器の形も関わります。浅く広い器なら焼き色のつく上面が大きくなり、深い器では内部の湿った部分が増えます。パイをすべて乳の中へ沈めず、一部を上に残して焼く方法もあります。菓子全体を均一に柔らかくするか、上面の歯切れを残すかは、この配置で調整できます。
パルミエを使う現代の形
エジプトの菓子作りを発信するタスビフは、パルミエ(palmier)を使うルセットを紹介しています。パルミエは砂糖を巻き込んで焼いた折り込みパイの菓子です。普通のパイとは違い、表面に砂糖が焼けた香りがあり、乳に浸る部分にもその風味が移ります。これはすべてのウンム・アリに必須の材料ではなく、既に焼けたパイの性質を生かす1つの工夫です。
ナッツを中に混ぜる代わりに、供するときに各人が加える形もあります。同じ大皿でも、レーズンの甘酸っぱさやナッツの歯触りを好みに合わせられます。パイの種類だけでなく、乳、生クリーム、アシュタの組み合わせによっても、さらりとしたものから濃厚なものまで幅が生まれます。
現在のウンム・アリは、ラマダンの日没後の食事、イフタール(iftar)の甘味としても親しまれます。豪華な祝いの物語を伴いながら、身近な乳と焼いた生地を大皿で分ける菓子でもあります。表面を香ばしく残すか、乳を十分に含ませるかという作り手の選択が、取り分ける1杯の印象を変えます。

ナッツをのせたウンム・アリ。乳を含んだ生地と焼き色が見える。 写真:Mkevy、CC BY-SA 4.0(出典)。縮小版、追加改変なし。
用語解説
- ルアー
- エジプトの薄いパン。ウンム・アリの土台に使うことがあります。
- フィロ(phyllo)
- 紙のように薄い無発酵の小麦生地。重ねて焼く菓子に使われます。
- アシュタ
- 乳の濃厚なクリームを指す呼称。
- パルミエ(palmier)
- 砂糖を巻き込んだ折り込みパイの焼き菓子。
- タスビフ
- エジプトの菓子作りを紹介するCleobutteraの作り手。
- シャジャル・アッドゥッル
- 13世紀エジプトの女性統治者。1257年に殺害されました。
- アイバク
- 13世紀のマムルーク朝のスルタン。ウンム・アリの命名伝承に登場します。
- イフタール(iftar)
- ラマダンの断食を日没後に解く食事。







