Sweetlore世界のお菓子図鑑(534)

ワタラッパン
Watalappan
キトゥル糖と香辛料を重ねる、スリランカの蒸しカスタード
デザート / スリランカ・マレー系共同体など

ワタラッパン(Watalappan/Watalappam)は、卵、ココナッツミルク、ジャガリーを合わせ、香辛料で風味をつけたスリランカのカスタードです。褐色の生地にカルダモンやナツメグが香り、カシューナッツを添えるものもあります。ココナッツの香りと褐色の糖の風味を、卵の柔らかな口当たりに重ねた菓子です。
この菓子はとくにマレー系やムスリムの共同体と結びつき、断食月の終わりを祝うイード・アル=フィトル、結婚式、そのほかの集まりに登場します。共同体の祝いの菓子でありながら、今日では宗教や民族を越えて親しまれています。

スリランカのワタラッパン。褐色の生地を切り分けた姿。 写真:Ji-Elle / CC BY-SA 3.0 / 原図、改変なし。
キトゥル糖の甘さを卵で固める

キトゥルの房状の実。糖づくりで使うのは、花序から採る樹液。2014年12月31日撮影。
写真:Sahan.kulathunge/CC BY-SA 4.0/原図。配信元の表示用縮小画像、追加加工なし。
キトゥル糖は、煮詰めた樹液をココナッツの半殻へ流し、冷まして半球形に固めて作ることもあります。
ジャガリーは精製度の低い糖の呼び名で、原料が1種類に限られるわけではありません。スリランカのワタラッパンでは、キトゥルと呼ぶヤシの樹液から作る糖が重要です。褐色の糖をココナッツミルクへ混ぜ込むので、色は表面のカラメルだけでなく、カスタード全体に付きます。
キトゥル糖だけを使う家庭も、白砂糖を組み合わせる家庭もあります。共同体を越えて料理を作る活動から生まれた『Recipes for Reconciliation』のルセット(材料の配合と作り方)では、両方の糖を用います。白砂糖を溶かしてカルダモンとシナモンを加え、火から下ろして冷ましてから、キトゥル糖、卵、濃いココナッツミルクを合わせます。卵液をこしてから、バニラとナツメグを加えて蒸します。
カスタードを固める中心の材料は卵です。粉を主にして弾力を出す菓子と異なり、卵液へどれだけの糖と液体を合わせ、どのように加熱するかが仕上がりを左右します。容器に入れて蒸す作り方のほか、湯煎にしたオーブンで加熱するルセットもあります。いずれも、型に入れた卵液へ熱を通して固める点は共通しています。大きな型から切り分けるものも、小さな器で1人分ずつ固めるものもあります。
香辛料は一つの配合へ固定されない
カルダモンは繰り返し用いられる香りですが、ナツメグ、クローブ、シナモン、バニラなどの組み合わせには幅があります。カシューナッツも、やわらかい生地に対して違う歯触りを加える材料です。家庭ごとの香りの組み合わせが、糖とココナッツの生地に重なります。
ココナッツミルクを使う形がよく知られる一方、練乳を使う例もあります。どの材料を採るかで、ココナッツの香り、乳の味、甘さのつき方が変わります。乳の濃い味わいを加えるものと、ココナッツを前面に出すものが、ともにワタラッパンの名で作られています。
セリカヤと、複数の言語に残る名
スリランカのマレー系共同体では、この菓子をセリカヤ(serikaya)と呼びます。卵とココナッツミルク、ヤシ糖を合わせるマレー世界のカスタードに近く、オランダ統治期に東南アジアから移った人々が伝えた菓子と考えられています。スリランカで手に入るキトゥル糖や香辛料を使うことで、当地の菓子としての特徴も備えるようになりました。
ワタラッパンという名は、タミル語で器を指すvattilと、菓子を表すappamに結びつけて説明されます。この語源説には異説もあります。シンハラ語ではワタラッパン、タミル語ではワタラッパム、マレー系の人々の間ではセリカヤと呼ばれ、一つの菓子が複数の名を持っています。
『Recipes for Reconciliation』の活動では、北部のジャフナと内陸のアヌラーダプラでも、ムスリムの文化を伝える料理としてワタラッパンが作られました。祝いの席で出される卵と糖の菓子が、他の共同体の台所でも作られ、人々をつなぐ役割も担っています。
用語解説
- ジャガリー
- サトウキビやヤシなどを原料にする精製度の低い糖の総称。
- キトゥル
- スリランカで樹液を糖や糖蜜に加工するヤシ。
- セリカヤ(serikaya)
- マレー系共同体で用いられる卵とココナッツ系カスタードの名。
- ルセット
- 材料の配合と作り方。
- イード・アル=フィトル
- ラマダンの断食が終わることを祝うイスラムの祭り。







