Sweetlore世界のお菓子図鑑(234)

ズコット
Zuccotto
薄いスポンジの半球に、白とカカオのクリームを閉じ込める
デザート / イタリア・トスカーナ

半球を切り開くと、酒を含む薄いスポンジの内側から、白とカカオのクリーム、チョコレートや砂糖漬けの粒が現れます。ズコットは、フィレンツェに伝わる冷たいドーム形の菓子です。型の曲面を生地へ写し取り、中身を満たして冷やしてから返す構造で、リコッタを使う型も、クリームやアイスクリームを使う型もあります。
帽子と兜、メディチ家の宴席
名には、聖職者の小さな帽子ズッケットに似るからという説と、歩兵の兜を最初の型にしたという説があります。zuccotto は「かぼちゃ」を意味する zucca から派生した語で、頭の頂部を覆う小さな兜という古い意味も持ちます。頭へかぶせる丸い覆いという連想が、帽子、兜、菓子の形をつないでいます。
兜の話は、メディチ家の宴席へも結び付きます。建築家ベルナルド・ブオンタレンティが兜を器にして菓子を作り、王妃カテリーナにちなみ「カテリーナの兜」と呼んだという伝承です。赤いアルケルメスの外皮と白いリコッタの中身を、フィレンツェの赤と白へ重ねる説明もあります。
平たいスポンジを、丸い外皮へ
卵の泡を生かしたパン・ディ・スパーニャを円く焼き、薄く切って帯や三角形へ分けます。ボウルや専用型の内側へ隙間なく沿わせると、平たい生地が半球の覆いになります。最後に底となる一枚で蓋をすれば、返した時に中身を収められます。
生地には酒を水などでのばした液を塗ります。料理書『クッキアイオ・ダルジェント』のルセット(材料の配合と作り方)はジビッボを使い、ほかに赤いアルケルメスやオレンジの酒を用いる配合があります。液を含んだスポンジは柔らかくなり、選ぶ酒によって外皮の色と香りが変わります。
リコッタへ砂糖をなめらかに混ぜ、泡立てた乳のクリームを合わせれば、乳の濃さを保ちながら軽い中身になります。一部をカカオで茶色くし、白い部分へチョコレート片を入れると、切り口に二色の層と粒が現れます。砂糖漬けのさくらんぼやシトロンを加える型では、果皮の弾みと香りも重なります。中身が落ち着くまで型ごと冷やし、食卓へ出す段階で外します。
中身が変われば、冷やし方も変わる
同じリコッタのドームでも、詰め方と温度は一律ではありません。『クッキアイオ・ダルジェント』の型はカカオの中身を先、白い中身を後に詰め、スポンジで蓋をして冷蔵します。料理家ジョエル・ネデルランツの型は、白いリコッタへ砂糖漬けとチョコレートを混ぜ、中心側へカカオの部分を置きます。こちらは冷凍庫で落ち着かせ、食べる一時間前に取り出します。
トッローネを使う、クリスマスの食後向けの型もあります。泡立てた卵黄とクリームを二分し、一方へカカオとナッツ菓子、他方へコーヒーや砕いたウエハースを混ぜます。円い生地は二種の中身の間と底にだけ置き、側面を覆いません。ドームの表面にクリームが出るため、ピスタチオや砂糖漬けの飾りも、スポンジの外皮とは異なる表情を作ります。アイスクリームを入れる変奏まで含めれば、ズコットは形を共有しながら、中の乳製品と提供時の硬さを選べる菓子です。
二十世紀の菓子店から、現代のフィレンツェへ
近代の店での歩みを伝えるのが、サン・ロレンツォ地区のシエニです。一九〇九年にヴィットリオ・シエニが店を開き、同店の来歴では、プラトリーノのレストラン・ゾッキのためにズコットを作ったと伝えています。町の歴史店舗案内にも載る菓子で、現在も店が受け継ぐ一品です。宮廷の兜の伝承とともに、菓子職人が飲食店へ納めた近代の仕事が、このドームの来歴にはあります。
「カテリーナの兜」の名を掲げる現代の作り手に、ジェラート職人ヴェトゥリオ・ボンディがいます。彼が復元を掲げて作る型は、アルケルメスを含むスポンジに、羊乳リコッタとイタリアンメレンゲを詰めるもの。赤い生地と白い中身で、フィレンツェの色を表します。
ロベルト・ブオナミーチが示すのは、ストレーガに似た酒、ホイップクリーム、チョコレートムースの芯、底のヘーゼルナッツを合わせる白い型です。赤い外皮とリコッタの型に比べ、酒の色、乳製品、中心の硬さが変わります。
形の見立ても続いています。二〇一八年には、パオロ・サッケッティらが大聖堂のクーポラの形へ作り替えたと報じられました。帽子や兜に託されてきた半球は、今の職人の手で、町の建築を表す菓子にもなっています。
用語解説
- パン・ディ・スパーニャ
- 卵の泡で軽く焼くイタリアのスポンジ。
- ジビッボ
- マスカット系のぶどう名。この菓子では香りのあるワインを生地に含ませる例がある。
- アルケルメス
- 赤い色とスパイスの香りを持つリキュール。
- カテリーナ・デ・メディチ
- 十六世紀にフランス王妃となったフィレンツェのメディチ家出身者。
- ベルナルド・ブオンタレンティ
- 十六世紀のフィレンツェで活躍した建築家・舞台美術家。菓子や冷菓の考案伝承にも名を残す。
- ヴィットリオ・シエニ
- 1909年にフィレンツェで菓子店を開いた職人。
- ヴェトゥリオ・ボンディ、ロベルト・ブオナミーチ、パオロ・サッケッティ
- それぞれリコッタ、白いクリーム、大聖堂の形などでズコットを作る現代の職人。
- イタリアンメレンゲ
- 泡立てた卵白へ熱い糖液を加えて作るメレンゲ。
- トッローネ
- ナッツを砂糖や蜂蜜などの生地で固めたイタリアの菓子。







