Sweetlore世界のお菓子図鑑(234)

リンツァートルテ
Linzer Torte
ナッツ生地とジャム、格子模様のつくり
トルテ / オーストリア

木の実を含む格子の間から、赤いジャムがのぞく。オーストリアのリンツァートルテは、クリームを挟むスポンジのトルテとは異なり、生地と果実を一緒に焼く菓子です。香辛料を含むほろりとした生地に酸味のあるジャムが重なり、焼いてすぐの輪郭と、数日置いてなじんだ口当たりの両方を持ちます。名に残るのは、ドナウ河畔の都市リンツです。
格子を延ばす、絞る
リンツァー生地には、まとめて延ばす練り生地と、柔らかなバターを攪拌し、卵を少しずつ合わせる型があります。練り生地なら残りを棒にして上へ置き、柔らかい生地なら口金から絞る。似た格子でも、手で持てる硬さか、袋から押し出す硬さかで、組立て方が変わります。柔らかな土台とジャムの間に、薄い食用オブラートを敷くルセット(材料の配合と作り方)もあります。
生地は「茶色」「白」と呼び分けられることもありますが、その言葉だけで一つの配合には決まりません。製パンの専門解説『bmi aktuell』の2007年の整理では、茶色は練るリンツァー生地、白は攪拌するリンツァー・マッセで、どちらにも細かく挽いたアーモンドやヘーゼルナッツを含みます。色の名とともに、木の実、卵、混ぜ方を見て区別する必要があります。
小麦粉は粘りの出にくいものを使い、生地を長く練り続けずにまとめます。練った型では30分〜1時間ほど冷やしてから延ばし、攪拌型では休ませずに手早く組み立てます。練り生地を休ませることと、焼き上がった一台を待つことは、別の工程です。
木の実の香り、果実の酸味
古いルセットにはアーモンドが現れ、後にはヘーゼルナッツも広がりました。レモン皮、シナモン、クローブを加え、卵なし、全卵、卵黄、ゆで卵黄など、卵の使い方にも幅があります。リンツのジンドラークは焙煎ヘーゼルナッツと赤スグリを合わせます。ラズベリーとは別の果実で、鋭い酸味を持つ赤スグリと、油脂の多い生地の組合せです。ドイツ南西部のベッケラーには、スグリとラズベリーを重ねる型もあります。
格子は表面を全面には覆わず、焼いた後も窓の中にジャムの色を残します。切り分けると、下には木の実の生地、上には焼けた棒、その間には果実という違いが見えます。
第一次世界大戦中には、木の実を炒ったオート麦やゆでたじゃがいもへ替える「戦時リンツァートルテ」のルセットもありました。材料が乏しい時代には、格子と果実の姿を保ちながら、生地の中心となる材料を組み替えたのです。
1653年の四つのルセットから、旅人の土産へ
1653年、アンナ・マルガリータ・サグラモーザ伯爵夫人の料理書には、既にリンツの名を持つルセットが四つ記されています。アドモント修道院に伝わるこの手稿を、図書館員・食文化研究者ヴァルトラウト・ファイスナーが確認したのは2005年でした。さらに古い関連するアーモンド菓子はあっても、リンツの名が伴う既知の手掛かりはこの手稿へさかのぼります。
1718年のコンラート・ハッガーの料理書では、格子の姿が銅版画にもなりました。1842年には旅行作家ヨハン・ゲオルク・コールが、リンツの宿の料理人に作り方を尋ねています。19世紀に製造販売を広めたのが菓子職人ヨハン・コンラート・フォーゲルで、遠方への発送も行われました。家に伝わるルセットだった一台は、旅先で求め、持ち帰り、送り届ける都市の名物にもなっていきます。
リンツァートルテは、リンツの店だけでなく、ドイツなどの職人も焼く菓子です。都市を指す名が、菓子の種類を表す一般の名にもなっています。特定の店が守る商品と、各地のリンツァートルテには、同じ都市名を持ちながら配合や果実を作り分ける幅があります。
一台を待ち、小さな窓へ分ける
ジャムを焼き込む一台は、缶や箱へ収める土産となり、クリスマス、復活祭、訪問時の贈り物にもなります。焼成後に1〜2日待ち、ジャムを生地となじませるのは、REWEのルセットにもある仕立て方です。木の実の生地と果実が別々に際立つ焼きたてから、一緒に落ち着いた組織へと時間を置きます。
大きな円形だけでなく、長方形に焼いて切るリンツァー・シュニッテンもあります。リンツァー・アウゲンでは、二枚の小さなクッキーでジャムを挟み、上に開けた窓から果実を見せます。「リンツの目」という名の小菓子へ変わっても、外側の生地と内側の色を一緒に見せる姿は残っています。
用語解説
- リンツァー生地
- 木の実を含む生地。練って成形する型と、攪拌して絞る柔らかな型がある。
- オブラート
- でんぷんなどで作る薄い食用シート。ジャムと柔らかい土台の間へ敷くルセットがある。
- アンナ・マルガリータ・サグラモーザ
- 1653年の料理手稿に名を残す伯爵夫人。
- ヴァルトラウト・ファイスナー
- 2005年に同手稿を確認した図書館員・食文化研究者。
- コンラート・ハッガー
- 1718年の料理書に格子の図とルセットを載せた料理人。
- ヨハン・ゲオルク・コール
- 1842年の旅行記にリンツの宿で聞いたルセットを記した旅行作家。
- ヨハン・コンラート・フォーゲル
- 十九世紀にリンツで製造販売を広めた菓子職人。
- 赤スグリ
- レッドカラント。ラズベリーとは別種の酸味ある小果実。
- リンツァー・アウゲン
- 「リンツの目」の意。上のクッキーの窓からジャムを見せる小菓子。
パレードのリンツァートルテ / Linzer Torte
京都・伏見桃山の洋菓子店「パレード」が手がける、スパイス香る伝統菓子「リンツァートルテ」。
オーストリア リンツ地方(ラズベリーの産地)発祥と言われ、現在あるトルテの中では最も古いタルトの一つ。タルト型にスパイス入りの生地を敷き込み、赤い実のジャムをのせて焼き上げたお菓子です。バターケーキやクッキーの間のようなザクザクとした食感のシナモン香るタルト生地と香ばしくしっとりとしたアーモンドナッツ生地、自家製のフランボワーズジャムの甘酸っぱさがとてもよく合います。ローストしたアーモンドスライスも付いているので食感も楽しく、格子模様の生地で覆われているので見た目も綺麗なタルトです。コーヒー、紅茶はもちろん、ボルドー系の赤ワインや甘口のシェリー酒などと合わせるのもおすすめです。







