Sweetlore世界のお菓子図鑑(234)

パリ・ブレスト
Paris-Brest
自転車の輪をかたどるシューと、ナッツのプラリネ
ケーキ / フランス

車輪のような輪を切ると、空洞のシューへ詰めた香ばしいクリームが現れる。パリ・ブレストは、長距離自転車競技の名を持つフランス菓子です。アーモンドやヘーゼルナッツと糖を練るプラリネを、乳やバターのクリームへ加えます。一人分の小輪と切り分ける大きな一台、どちらも軽い皮と厚い中身を一緒に味わう仕立てです。
1891年の競技と、1910年の店の記憶
パリ―ブレスト―パリは1891年に始まる約1200キロの競技です。沿道のパリ近郊メゾン=ラフィットに1907年開いたデュラン店は、ルイ・デュランが1910年、競技から着想して車輪形の菓子を作ったと伝えます。競技の開始と約二十年離れた創作で、家族が輪形、アーモンド入りシュー、プラリネクリームを継いでいます。
一方、ラルース料理辞典のスペイン語版は、同じ町の職人ボジェが1891年に作ったとします。創作の人物と年には異なる来歴があり、競技主催者ピエール・ジファールが菓子を注文したという説も伝わります。店が継ぐ1910年の記憶と、辞典の1891年の帰属は、区別して読む必要があります。
別名の輪と、パリに広がった中身
エミール・ダレンヌとエミール・デュヴァルの1909年の料理書には、輪のシューへプラリネ風味のクレーム・サントノレを詰める「パリ・ニース」があります。プラリネと輪のシューは、パリ・ブレスト一つの名だけに結びついていたわけではありません。
1932年6月の『パリ・ソワール』にはパリ・ブレストの販売広告があり、1936年のパリ観光局の案内には、シャンティイ、シュー、アーモンドの品が登場します。30年代の町には、一家のプラリネ入りに限らない中身も広まっていました。
店に伝わる回想では、ルイの息子ポールが1930年に保護を求めたものの、既に広く作られているとして退けられたといいます。一家が守る非公開の配合の一方で、輪形とナッツのクリームという組立ては、他の店にも広がっていきました。
輪の中へ、もう一本の輪を入れる
シューのルセット(材料の配合と作り方)は、水や乳、バター、塩を沸かし、粉を鍋で練ってでんぷんへ熱を加え、卵を少しずつ混ぜると、なめらかに伸びるシュー生地になります。絞る幅と高さが、炉でふくらむ輪の形を作ります。
中濱尚美の指導する型は、始点をずらしながら三本の輪を重ね、卵を塗り、フォークで筋を付け、刻みアーモンドを散らして焼きます。別焼きの細い輪を内部へ収める方法もあり、皮とクリームの間へもう一層の生地が入ります。冷めた大輪を横に切って絞り込み、蓋へ粉糖を振ると、アーモンドが白い表からのぞきます。
プラリネを、どのクリームへ合わせるか
ナッツと糖を加熱し、砕いて練るプラリネは、粉を散らすのと違い、糖と実の油脂がなじむペーストです。実の煎り方と糖の加熱で、ナッツの香りとカラメルの強さが変わります。
代表的なムースリーヌは、カスタードへバター、または別製バタークリームを合わせます。バターの一部を温かいカスタードへ入れ、残りを冷めてから加える方法もあります。バタークリームを別に作る型には、卵黄と乳のアングレーズを冷まし、柔らかいバター、イタリアンメレンゲを加えるものがあります。それぞれをなめらかにしてからカスタードと合わせ、プラリネを入れ、絞れる軽さと保形を両立させます。
アングレーズへバターとアーモンドプラリネを加える型もあり、ラムで香らせることもあります。卵と乳を加熱した後の組立てが違えば、同じナッツの香りも別の口どけになります。
底から詰め、中心へ濃いペーストを残す
ヴァローナの再構成は、横割りの代わりに底穴から詰めます。シューには、粗糖、粉、バターを薄くのばして凍らせた輪を載せて焼き、別焼きのヘーゼルナッツ粉入りサブレ輪も重ねます。
この一台では、なめらかな詰め物と泡立つ上のクリームを分けます。下穴から入れるクレムーは、乳、ゼラチン、プラリネ、カカオバターを乳化して冷やしたもの。上へ絞るガナッシュ・モンテには、じゃがいもでんぷんで調整した乳へゼラチンを入れ、プラリネとカカオバターへ乳化し、冷たいクリームを足し、約4度で12時間冷やして泡立てます。
絞った小山を湯で温めた丸い器具でくぼませ、プラリネを少量詰めます。ナッツの香りは、乳を含む軽い泡と、中心の濃いペーストへ分かれ、サブレ、上掛け生地、シューも別々の歯触りを作ります。
長いシュー、小さなシューにも続く構成
エクレア形や、小さなシューを数個並べ、個々へクリームを絞って別焼きの台へ載せる型もあります。底へ少量のレモンコンポートを入れれば、濃いナッツに酸味が加わります。輪から細長い皮、小さな連なりへ変わっても、空洞へ香ばしいクリームを抱かせる構成が続いています。
実を替えると、クリームだけでなく上掛けも変わる
ナッツをピスタチオへ替える型もあります。ランドゥメンヌの菓子職人ヴァンサン・クロシャが2022年に作った一台は、シューの上掛け生地、プラリネ、クレムー、ムースリーヌ、糖で覆う実にまでピスタチオを用いました。一か所へ香りを足すだけでなく、皮、なめらかな層、絞るクリーム、粒の歯触りへ同じ実を配る構成です。
本人は、好きなピスタチオを、好物のパリ・ブレストへ合わせたと語り、絞りの形も特徴に挙げています。車輪を記念した名はそのままに、作り手が選ぶ実と絞り方にも、一台の個性が現れます。
用語解説
- ダレンヌとデュヴァル
- 二十世紀初めのフランスの製菓書を共著した職人。
- クレーム・サントノレ
- カスタードと卵白の泡を合わせる系統のクリーム。
- シャンティイ
- 糖などを加えて泡立てた生クリーム。
- ポール・デュラン
- ルイ・デュランの息子で家業を継いだ職人。
- ルイ・デュラン
- メゾン=ラフィットの菓子職人。自店の来歴では一九一〇年にパリ・ブレストを創作したとされる。
- 中濱尚美
- 辻調グループの製菓指導者。三本の輪と内部の細い輪を使うパリ・ブレストをテレビ番組で指導した。
- プラリネ
- 加熱したナッツと糖を砕き、練って作るペースト。
- ムースリーヌ
- カスタードにバター、またはバタークリームを合わせ、軽さを持たせたクリーム。
- アングレーズ
- 牛乳、卵黄、糖などを穏やかに加熱して作る、流動性のあるソース状のクリーム。
- イタリアンメレンゲ
- 泡立てた卵白へ熱い糖液を加えて作るメレンゲ。
- 乳化
- 油脂と水分を細かく分散させ、均一になじませる操作。
- クレムー
- なめらかなクリーム状の素材。プラリネのクレムーには、乳、ゼラチン、プラリネ、カカオバターで作る型がある。
- ガナッシュ・モンテ
- 冷やしてから泡立てるクリーム。プラリネとカカオバター、乳、クリームなどで作る型もある。
- サブレ
- 油脂を含む、ほろりとした歯ざわりの焼き生地。
- コンポート
- 果実を加熱して作る素材。レモンで作るものもある。







