Sweetlore世界のお菓子図鑑(234)

フレジエ
Fraisier
いちごを断面に並べる、フランスの春のケーキ
ケーキ / フランス

赤いイチゴの切り口を側面に並べると、その間を埋める白いクリームも模様になります。フレジエは、焼き生地とクリームで果実を抱え込むフランスの生菓子です。名の fraisier はイチゴの株を意味します。現在の整った断面は、仕上げに飾るだけでは作れず、型の内側から一台を組む手順に支えられています。
外から見える果実、内側に包む果実
まず型の内側へ透明なフィルムを沿わせ、縦半分に切ったイチゴを、切り口が外を向くように並べます。果実の高さをそろえ、その間へクリームを絞って隙間を埋めます。側面は、でき上がったケーキへ果実を貼るのではなく、組立と同時に作るのです。
底の焼き生地にクリームと果実を重ね、上の生地を載せて表面を整え、冷やしてから型を外します。内部に丸ごとのイチゴを詰めるか、小さく切って散らすかでも、一切れの果実とクリームの配分は変わります。丸いセルクルでも四角い枠でも、縁の果実と内部の果実を分けて配置できる構成です。
イチゴの季節には、その土地で採れる果実を生かす菓子でもあります。二〇二六年のルノートルのバガテルでは、保形性を担うシャルロット種と、味を担うマラ・デ・ボワ種を組み合わせています。見える側面を整える力と、食べたときの果実の味は、品種を選ぶ別々の手がかりになるのです。クリームの細工だけでなく、果実の選択から一台の形と味が始まります。
果実を支えるクリームの選択
古典的なクレーム・ムースリーヌは、カスタードへバターを加え、空気を含ませたクリームです。果実の周囲へ行き渡る柔らかさと、冷えた後に切り分けられる保形性を両立させます。バターを半量ずつ、温かいカスタードと冷めたカスタードへ加える方法も、先に作ったバタークリームとカスタードを合わせる方法もあります。
バタークリームは、卵黄と乳を加熱する型と、熱い糖液で仕立てたメレンゲを使う型があり、合わせる泡の作り方が異なります。いずれも、カスタードとバター側の温度がそろわず硬さが不均一になると、滑らかにまとまりにくくなります。バターのこくと空気の軽さを一つのクリームに整える仕事です。
カスタードに泡立てた生クリームを合わせるクレーム・ディプロマットなら、生クリームの空気を含む柔らかさが加わります。さらに、ホワイトチョコレートとバニラのガナッシュ・モンテを使う仕立てもあります。こちらは熱いクリームとチョコレートを少しずつ乳化させ、冷たいクリームを加え、一晩ほど冷やして組織を整えてから泡立てます。ただ生クリームを泡立てる場合とも、バター主体のムースリーヌとも、果実を支える層の作り方が違います。
生地の潤いと上面の仕上げ
ジェノワーズをシロップで潤す仕立てだけがフレジエではありません。アーモンド入りの生地や、レモンを香らせたマドレーヌ生地を薄く焼くものもあります。果汁で湿らせれば香りと酸味を加えられますが、油脂やアーモンドを含む柔らかな生地では、シロップを使わずに仕上げることもあります。クリームの種類と生地の持つ潤いを組み合わせ、一台の柔らかさを作ります。
上面へ薄いマジパンを載せると、平らな面と側面の赤い果実が際立ちます。果実のコンポートを飾る、イタリアンメレンゲを薄く載せて焼き色を付ける、といった仕上げもあります。形や飾りを変えても、果実をクリームに抱かせる構造が一台を結んでいます。
ドームからバガテルへ
この名には、現在と異なる姿の歴史もあります。ピエール・ラカンが1900年に記した「野イチゴのフレジエ」は、ジェノワーズをマデイラ酒入りシロップで潤し、野イチゴを重ね、泡立てたクリームのドームで覆うものでした。現在の平らな上面や、果実の切り口を並べた側面とは、外観も組立も異なります。
一方、ルノートルの系譜が1966年のガストン・ルノートルの創作として伝える「バガテル」は、パリ郊外の庭園から名を取り、アーモンドを使う生地、クリーム、イチゴを合わせた菓子です。イチゴのケーキそのものの誕生年というより、名と構成を備えた一台の登場として位置づけられます。植物を表す同じ名を受け継ぎながら、ドーム、赤い側面、軽いクリームやメレンゲへと、イチゴの見せ方と支え方は変わってきました。
用語解説
- クレーム・ムースリーヌ
- カスタードにバターまたはバタークリームを加え、空気を含ませたクリーム。
- クレーム・ディプロマット
- カスタードと泡立てた生クリームを合わせるクリーム。
- ジェノワーズ
- 全卵を泡立てて作る、製菓の基本的なスポンジ生地。
- ガナッシュ・モンテ
- チョコレートとクリームを乳化、冷却してから泡立てたもの。
- マジパン
- アーモンドと糖を練り合わせた製菓用生地。
- ピエール・ラカン
- フランスの菓子職人・著述家。1900年版の著書に野イチゴのフレジエを収録しました。
- ガストン・ルノートル
- フランスの菓子職人。1966年にイチゴの菓子「バガテル」を創作しました。
- セルクル
- 底のない円形の枠。生地やクリームを重ねて形を整える。
- イタリアンメレンゲ
- 泡立てた卵白に熱い糖液を加えて作るメレンゲ。
- 乳化
- 水分と油脂を細かく分散させ、一体の滑らかな状態にすること。
- シャルロット/マラ・デ・ボワ
- イチゴの品種。ここではルノートルが保形性と味を担わせて組み合わせる例。







