Sweetlore世界のお菓子図鑑(234)

シフォンケーキ
Chiffon cake
油と卵白が作る軽さ、逆さに冷ます型
ケーキ / アメリカ

卵白の泡に、卵黄と植物油、水分を含ませると、高く膨らみながらしっとりたわむ生地になります。アメリカ生まれのシフォンケーキは、軽い織物に重ねた名を持つ菓子です。卵白だけのエンゼルフードケーキと違い、卵黄と油が潤いとこくを加えます。軽さの仕組みは泡立てだけにとどまらず、油と水を均一に合わせる仕事にもあります。
卵白の泡と、卵黄の乳化
生地の土台は、卵黄に油、水や牛乳、小麦粉などを混ぜた部分と、卵白に砂糖を加えて泡立てたメレンゲです。配合によってベーキングパウダーも使います。メレンゲは、砂糖を数回に分けて加え、つやがあって形を保つ状態まで泡立てます。卵白の泡を大きく立てるだけでなく、卵黄側の材料を均一に混ぜることも、きめの細かな内相につながります。
卵黄には、油と水分を細かな粒として分散させる乳化の役割があります。油が細かな粒として散っている卵黄生地は、卵白の泡と合わせた後も焼成中の気泡がまとまりにくく、きめ細かく膨らみやすくなります。油滴の大きさを比較した実験でも、細かな油滴の生地は焼成後の体積が大きく、気孔が細かく柔らかくなりました。泡立てと乳化の両方が、焼き上がりを支えます。
二つの生地を合わせるときは、泡を残しながら、底に重い卵黄生地が沈んだままにならないように混ぜます。泡立て器もこの工程に使えます。細い線で生地を分けながら、底から持ち上げ、ボウルを回して合わせる使い方で、卵白を泡立てたときのように勢いよくかき立てる操作とは異なります。最後に底まで確かめることが、筋や大きな空洞を防ぎます。
液状の油と、生地の温度
植物油は室温でも流動性があり、生地に混ぜやすく、冷めてからも柔らかな食感を保ちます。バターを溶かして同じように加えても、冷たい材料に触れて再び固まると、生地中に塊ができ、泡を損ねることがあります。
室温でバターを加えた比較実験では植物油より膨らみが小さくなりましたが、バターが固まらない温度に保つと改善しました。バターが使えないケーキというより、液状の油なら、生地温度を細かく管理しなくても油脂を均一に混ぜやすいのです。油を増やせば限りなく柔らかくなるわけでもなく、多すぎると焼けた生地が自重を支えられず、型から外した際に崩れます。
壁を伝って膨らみ、逆さに冷える
中央に筒のある背の高い型が、よく使われます。中央からも熱が入り、生地は外周と筒の壁に沿って上へ伸びます。型には通常、油を塗りません。滑りやすくすると、膨らむ生地が壁にとどまりにくくなるためです。
焼き上がった直後の生地はまだ柔らかく、立てたままでは縮みやすいため、型を逆さにして冷まします。型の脚や瓶の口を利用し、生地に触れずに支えます。配合や型によって、完全に冷めるまで入れておく方法と、一定時間後に外して冷ます方法があります。十分に骨格を作る焼成と、型に付いたままの冷却が一組の工程です。
筒型だけがシフォンケーキではありません。油を塗らない丸型で薄く焼き、重ねる仕立てもあります。軽い生地には、ホイップクリームやムースのような柔らかな充填物が合わせやすく、重いクリームを厚く挟むと押しつぶしやすくなります。筒型の一切れにクリームを添える形と、層に組み立てる形では、同じ生地の軽さが異なる表情を見せます。
洗い流して守った、油の秘密
考案者として知られるハリー・ベイカーは、カリフォルニアで保険業を営みながら自宅で菓子を作りました。約二十年にわたり方法を秘し、一九四〇年代後半にゼネラル・ミルズへ配合と手順を伝えました。試みは一九二〇年代後半にさかのぼる計算ですが、特定の完成日は分かっていません。
メーカーの回顧では、製作を人へ見せず、混ぜた後には型まで洗って植物油の使用を隠したといいます。秘密は商品名だけでなく、泡の生地へ液状油を組み込む方法だったのです。調理試験を経て一九四八年にベティ・クロッカーの広告とルセット(材料と作り方の一式)として家庭へ広く紹介されました。
ベティ・クロッカーは実在の一人でなく、家庭の質問へ答え、ルセットを試験し広めるための企業の人物像です。ベイカーの工夫を家庭で再現できる配合へ整える人々と、伝えるブランドが加わり、秘密の菓子は台所の定番へ移りました。一九五八年には箱入りミックスも発売され、ルセット公開に続く別の普及の段階になっています。
用語解説
- メレンゲ
- 卵白に砂糖を加えて泡立てたもの。シフォンケーキでは膨らみを支える泡の土台になります。
- 乳化
- 本来混ざりにくい油と水分を、細かな粒として分散させること。卵黄がその助けになります。
- 内相
- 菓子の内部の組織。気孔の大きさや並び方、きめを指します。
- エンゼルフードケーキ
- 卵白を泡立てて作る、油脂を加えない白いケーキ。シフォンケーキとの比較でよく挙げられます。
- 米国製パン協会
- 製菓技術の専門団体。ベイカーの配合取得を1947年、販売紹介を1948年と記す。
- ハリー・ベイカー
- シフォンケーキの考案者として知られるアメリカの製作者。植物油を使う配合をゼネラル・ミルズへ伝えました。
- ベティ・クロッカー
- ゼネラル・ミルズが家庭向けのルセットや製品に使うブランドと人物像。シフォンケーキを広く紹介しました。







