Sweetlore世界のお菓子図鑑(234)

クレムナ・レジーナ
Kremna rezina
黄色と白の二段を、薄いパイが挟む
パイ / スロベニア・ブレッド

薄いパイの間へ、黄色いバニラの層と白い生クリームを高く重ねる。スロベニアのクレムナ・レジーナは、とくにブレッド湖畔の型で知られます。横面を覆わない四角い一片では、二種類の泡を含む乳の層が、外から見えます。柔らかく揺れる中身を、平らな二枚で崩さずに支える菓子です。
黄色い泡と、白い泡
下のバニラクリームは、乳、卵、糖などを炊き、切っても層を保つ濃さへ整えます。ただ密なカスタードを詰めるのではなく、この黄色い部分にも泡が入ります。地元紙『ゴレニスキ・グラス』の2010年のパーク・ホテル厨房取材は、卵のクリームがまだ熱いうちに、固く泡立てた卵白を加える工程を記録しています。
卵白を含ませたクリームを底のパイへ流し、完全に冷めてから泡立てた生クリームを載せます。黄色い層の卵白の泡と、その上の乳脂肪の泡は別工程です。形を支える固さと、口で軽くほどける柔らかさは、この二段をそれぞれ整える仕事から生まれます。
上下のバターの折り込みパイは、大きく平らな板として焼きます。粉と油脂の薄い層が焼成で分かれ、台と蓋を作り、食べると細かな薄片へ砕けます。上へ振る粉砂糖は焼き色の凹凸に残り、横の黄色と白をいっそう際立たせます。
ホテルの七センチを切り分ける
パーク・ホテルの型は、縦、横、高さがそれぞれ7センチ。関係者への取材では、クリーム部分の3分の2をバニラ、3分の1を生クリームと説明しています。これは一つのホテルの構成で、スロベニアの全ての店を定める規格ではありません。
切るときには硬い二枚を通りながら、柔らかな中身を押しつぶさず、立方体を残す必要があります。2019年の取材は、以前三人で担った切断を機械へ替えたことも伝えます。配合を受け継ぐ仕事と、毎日多くの一片を形よく供する仕事には、別々の工夫があります。
ブレッドの代表型が生まれた1953年
ホテルを運営する側は、1953年に菓子職人イシュトヴァン・ルカチェヴィッチが代表型を作ったとしています。現在も湖畔のカヴァルナ・パークで、卵、乳、生クリーム、バター、小麦粉、糖を用い、原型に基づいて日々作ります。長く運び保存する焼き菓子とは違い、新鮮なクリームの軽さを中心に据えています。
ホテルのカフェの食後や休憩の一品から、ブレッドの象徴の一つへ育ちました。町のランニング行事には、入賞者へメダルの代わりにフォークを贈る例もあります。ゴール後に菓子で祝う道具まで、湖畔の名物へ結びついています。
1953年より前にも、別の町の菓子があった
ホテルは前身をヴォイヴォディナのクリーム菓子へ結びつけます。ドムジャレのレンチェクの店は、ヤンコ・レンチェクの自家ルセット(材料の配合と作り方)を1938年から手作業で受け継ぎます。1953年はブレッドのホテル型が生まれた年です。
隣国クロアチアのサモボルには、黄色いクリームを薄いパイに厚く挟む kremšnita があります。町の観光解説は、卵、乳、粉は共通でも、冷たく固いプディング状や、生クリームを上へ加える型、チョコレートで覆う型とは違い、新鮮で温かい一片が好まれると説明します。ブレッドの白い生クリームの独立層とは、食べる温度もその役割も同一ではありません。
サモボル側が代表ルセットへ結びつけるのは、1920年代にザグレブで修業して戻り、兄マルコの店で作ったジューロ・ルカチッチです。ブレッドのルカチェヴィッチとは別人です。温かいサモボル型、1938年からのドムジャレの店、1953年のブレッドの二層型は、それぞれの町で育った菓子の姿を伝えます。
用語解説
- ゴレニスキ・グラス
- スロベニアの地方新聞。2010年にパーク・ホテルの厨房を取材した。
- ブレッド
- スロベニア北西部、湖畔の保養・観光の町。
- イシュトヴァン・ルカチェヴィッチ
- 一九五三年にブレッドのパーク・ホテルで代表的なクリーム菓子を作った職人。
- カヴァルナ
- スロベニア語でカフェ。
- カスタード
- 乳、卵、砂糖などを加熱して作るクリーム。クレムナ・レジーナでは下段の黄色い層になる。
- 折り込みパイ
- 粉の生地と油脂を薄く重ね、伸ばして畳んで作るパイ生地。
- ヴォイヴォディナ
- セルビア北部の地方。パーク・ホテルがこの菓子の前身として挙げる地域。
- ドムジャレ
- スロベニアの町。レンチェクの菓子店がある。
- ヤンコ・レンチェク
- ドムジャレの店が、自家のクリーム菓子のルセットを伝えた人物として紹介する職人。







