Sweetlore世界のお菓子図鑑(234)

トラヴェセイロス
Travesseiros de Sintra
枕の形にふくらむ、シントラの卵とアーモンドの包み
パイ / ポルトガル・シントラ

卵とアーモンドの黄金色のクリームを折り込み生地で包むと、長方形の中央がふっくら持ち上がります。シントラのトラヴェセイロは、名の通り小さな「枕」。砂糖をまとった薄い皮は軽く砕け、内側には濃い甘さが残ります。町の名物を育てたカーザ・ピリキータでは、先に人気を得たチーズのケイジャーダとは別の仕事として、一九四〇年代にこの枕菓子が加わりました。
薄い層を残したまま畳む
外皮のマッサ・フォリャーダは、生地と油脂の層を重ねた折り込み生地です。薄く伸ばしたものに中身を置き、畳んで縁を閉じます。生地の全体を練って一つにするのでなく、薄い層を残したまま包むため、焼いた後の上面と側面に細かな薄片ができます。
熱で生地の水分が蒸気になり、油脂で隔てられた層の間を押し広げます。上面は中身を覆うように膨らみ、押さえた縁は輪郭を保ちます。四方を確かに閉じる工程は、卵のクリームを流出させず、食べるときまで内側に留めるための要です。
卵黄の厚みと、内側のアーモンド
中身は卵と砂糖のクリームにアーモンドを合わせるもの。パイの軽い皮に対し、卵黄の豊かさとナッツの味を濃く集めます。アーモンドを大きな粒として上に散らすのでなく、内側のクリームへ取り込むため、見た目は飾りが少なくても、噛むと香りが広がります。
公開される作り方、家族が守る中身
ピリキータの中身には、卵とアーモンドのほかに秘密の材料があり、配合は直接の家族だけで共有されるといいます。一方、シナモンや牛乳を加える公開ルセット(材料の配合と作り方)もあり、外からは似た枕の中に、作り手ごとの味が収まっています。
Massa Primaの業務向けの作り方は、折り込み用マーガリンを使った外皮と、卵、砂糖、アーモンドのクリームを示しています。二百度で黄金色に層が開くまで焼き、縁を十分に閉じて中身が漏れないようにします。この作り方では砂糖を焼く前に振ります。焼く前後の砂糖の扱い、外皮の油脂、内側のクリームは、同じ名でも作り手により変わります。
一八六二年のパン屋と、一九四〇年代の枕
カーザ・ピリキータは、1862年にアマロ・ドシュ・サントシュと妻コンスタンシア・ゴメシュが開いたパン屋に始まります。初めからトラヴェセイロを売っていたのではなく、ケイジャーダが人気を集め、菓子店へ変わっていきました。
一九四〇年代、創業者の娘コンスタンシア・ルイーザ・クーニャが古い料理書を見つけ、そこから枕形のトラヴェセイロを店に出し始めたと伝わります。戦時下に生まれた新しい看板を、店は彼女の仕事に帰しています。古書から選んだ菓子が、チーズのケイジャーダに続く、卵とアーモンドの新しい看板になりました。
ケイジャーダを勧めた王と、店のあだ名
シントラの観光当局は、トラヴェセイロとケイジャーダを町の二つの象徴として紹介します。両方ともピリキータの看板ですが、外皮と中身は違います。チーズを含むケイジャーダは薄い皮で中身を受け、トラヴェセイロは卵・アーモンドのクリームを折り込み生地で包みます。
ピリキータという店名にも別の逸話があります。店の説明では、シントラに滞在したカルロス一世が、背の低い創業者コンスタンシア・ゴメシュに付けたあだ名でした。王は夫妻にケイジャーダの販売も勧めたといいます。王にまつわる店のあだ名とチーズ菓子の評判を受け継ぐ家に、後の世代が枕菓子を加えたのです。
用語解説
- マッサ・フォリャーダ
- 生地と油脂を折り重ねるパイ生地。蒸気によって層が開く。
- カーザ・ピリキータ
- シントラに1862年に創業した店。店名は創業者コンスタンシアのあだ名に由来すると自店史は説明。
- コンスタンシア・ルイーザ・クーニャ
- 1940年代に古い料理書からトラヴェセイロを作り始めた、ピリキータ家の菓子の担い手。
- ケイジャーダ
- フレッシュチーズなどを薄い皮に詰めるポルトガル菓子。
- アマロ・ドシュ・サントシュとコンスタンシア・ゴメシュ
- シントラのカーザ・ピリキータを始めた夫妻。
- カルロス一世
- ポルトガル王。自店史ではコンスタンシアのあだ名と、夫妻のケイジャーダ販売を勧めた話に登場する。
- Massa Prima
- 製菓原材料を扱い、業務向けの公開ルセットも掲載する事業者。
- 折り込み用マーガリン
- 生地の間に挟んで伸ばし、層を作るために使う油脂。







