Sweetlore世界のお菓子図鑑(234)

タルト・オ・シュクル
Tarte au sucre
砂糖と乳の濃さを、焼いた器で味わう
タルト / カナダ・ケベックなど

「砂糖のタルト」という同じ名が、土地ごとに異なる一台を指しています。ケベックでは、薄いパイ生地へ褐色の砂糖とクリームの濃い中身(フィリング)を詰めます。北フランスでは、柔らかな発酵生地の表面に糖をなじませます。ベルギーには上下二枚の生地で甘い中身を包む型もあり、糖と乳脂肪を何で受け止めるかが、菓子の姿を変えています。
褐色の砂糖にも、異なる名と原料がある
褐色砂糖は、色が似ていても、原料と作り方で分かれます。ケベックでいうカソナードはサトウキビ由来の褐色砂糖です。ベルギーのタルトには、シュクル・ド・ティルモンが製造する「カソナード・グラーフ」という軟らかい褐色砂糖も使われます。土地の材料名と商品の呼び名が重なっているのです。
北フランスのルセット(材料の配合と作り方)に現れるヴェルジョワーズは、精製で残った糖液を再び加熱して作る砂糖です。金色と褐色の型があり、原料はテンサイにもサトウキビにも由来します。砂糖を精製して残る糖液を再び生かす製法が、タルトの表面に褐色と香りを加えます。
ケベックでは、糖とクリームを煮て詰める
褐色の砂糖へ粉やコーンスターチを混ぜ、クリームを加えて加熱すると、流せる液体がとろみを持つ中身になります。メープルシロップなら樹液由来の香りも重なります。卵やバニラを使う型もあり、卵とでんぷんの組合せが、固まり方と切り口を変えます。
その中身を受けるパート・ブリゼは、小麦粉へ冷たいバターを散らし、液体でまとめる生地です。薄く延ばして型へ敷き、縁を整えます。RICARDOの卵入りの型では、成形した器を冷蔵庫で休ませ、中身を鍋で煮てから流します。上面を開けたまま焼くほか、細い生地を格子にすれば、帯の間に褐色の中身が見え、焼いた生地の香ばしさも加わります。
メープル入りの一台は、春の製糖期に砂糖小屋で食べる甘味にもなります。カエデの樹液採取と砂糖小屋の食事は、ケベックの無形文化遺産として記録されています。タルトは温かくも冷たくも供され、その季節の糖を食卓へ運びます。モントリオール大学の製菓職人による現代の型には、褐糖へ缶入りエバミルクを合わせるものもあります。
北フランスでは、くぼみへ甘さを集める
北フランスのラルースのルセットでは、酵母、乳、卵、バターで柔らかい生地を作ります。まとめて休ませ、円形に延ばし、指で小さなくぼみを付けてもう一度休ませます。ヴェルジョワーズと小さく分けたバターを散らして焼き、途中でクリームを掛け、再び炉へ戻します。
ケベックのように煮た詰め物を器へ流すのでなく、生地の表面に糖と乳脂肪をなじませる作り方です。ふくらんだ柔らかな部分と、くぼみに集まった甘い部分を一緒に切り分けます。発酵する生地そのものが、味わう層の大きな部分を担っています。
ベルギーには、薄いふたで閉じる型もある
ワロンのワーテルローにも、褐色砂糖を使うタルトが名物としてあります。ベルギーの型の一例が、シュクル・ド・ティルモンの二枚の生地を使うルセットです。酵母、卵、乳、バターの生地を冷やして薄く延ばし、型へ敷きます。カソナード・グラーフと細かな砂糖を広げ、アーモンド粉と粉糖を同量ずつ混ぜた粉を振り、クリームを掛けます。
さらに薄い生地でふたをし、卵を塗り、残りの砂糖とバターを載せ、休ませてから焼きます。発酵生地の表面へ甘さを置く北フランスの一枚と違い、こちらは生地の間に中身を収めます。
ケベックでは切れるほど濃い中身を薄い器に流し、北フランスでは柔らかな生地のくぼみに甘さを集め、ベルギーの二枚の型では砂糖とクリームを包み込みます。糖と乳脂肪を合わせる菓子が、土地の生地と食べる季節に応じて、異なる姿を持っています。
用語解説
- フィリング
- パイやタルトへ入れる詰め物。
- パート・ブリゼ
- 小麦粉へ油脂を散らし、水分でまとめる練りパイの生地。
- コーンスターチ
- トウモロコシのでんぷん。加熱して詰め物にとろみをつけます。
- ヴェルジョワーズ
- 精製で残った糖液の再加熱から作る砂糖。金色や褐色のものがあります。
- カソナード・グラーフ
- ベルギーのルセットに使われる、軟らかい褐色砂糖の商品名。
- 砂糖小屋
- カナダなどで、春のメープル製糖やその季節の食事の場となる施設。
- シュクル・ド・ティルモン
- ベルギーの砂糖メーカー。砂糖を上下二枚の生地で包むタルトのルセットを公開する。
調査注記
カソナードの原料定義はケベック仏語局2011年項、ヴェルジョワーズの原料の幅はアカデミー辞典、Graeffeはメーカーの商品説明を参照。同じ褐色や同じ名から全原料を決めない。ベルギーの二枚の型はメーカーの一例で全地域共通の規格ではない。三地域の類似から最初の土地・人物・伝来年を確定する資料は今回得られていない。







