Sweetlore世界のお菓子図鑑(234)

タルト・ブルダルー
Tarte Bourdaloue
洋梨の丸みを、アーモンドクリームで受け止める
タルト / フランス

洋梨の白い曲線の間に、アーモンドクリームの金色の焼き目が見えます。タルト・ブルダルーは、シロップで煮た果実を香ばしい中身とともに焼くフランスのタルトです。アマンディーヌ・オ・ポワールとも呼ばれますが、パリの通りの名を持つ「ブルダルー」の歴史には、今日の洋梨タルトに収まりきらない温かい果実菓子も含まれています。
通りの名を持つ、三つの時代の菓子
パリ九区のブルダルー通りは、説教師ルイ・ブルダルーにちなみます。菓子が受け継いだのは通りの名で、説教師自身の考案という話ではありません。
通りの七番地、レセルトゥールの店で、ニコラ・ブルゴワンが同名の菓子を作り、後継のファスケルが梨とフランジパーヌに砕いたマカロンを振る温かい型を作った、という来歴が伝わります。職人と店の名を受け継ぐ話ですが、そのころの「ブルダルー」がすべて今の洋梨タルトだったわけではありません。
ピエール・ラカンの一九〇〇年の製菓書に載る「ラ・ブルダルー」は、アーモンド、砂糖、卵と卵黄、澱粉に、泡立てた卵白を加える焼き菓子です。生地にキルシュを加え、平たい銅型で焼き、キュラソーの糖衣と十字で仕上げます。梨は登場せず、作者はブルダルー通りのレセルトゥールの創作と記しています。アーモンドの生地を焼いて酒の糖衣をかける菓子と、果実をクリームへ沈めて焼くタルトは、同じ名の下に異なる組立てを持っていたのです。
エスコフィエの『Le guide culinaire』には、梨のほかに「あんずのブルダルー」も載ります。空焼きした器へ、砕いたマカロン入りのフランジパーヌとシロップ煮の果実を重ね、上にもクリームとマカロンを置き、溶かしたバターを振って表面を焼きます。器の中で果実をクリームに挟む型や、米、セモリナ、ジェノワーズを周囲に使う型も挙げられています。
梨を放射状に並べる一枚へ定まる前から、この名は幅のある果実菓子の作り方を包んでいました。今日もりんごに替える型があり、果実を受け止めるアーモンドの中身が、異なる姿をつなぎます。
梨に火を通し、輪郭を残す
洋梨には、シロップで煮たものや、シロップ漬けの半割りを使います。果肉の硬さを整えてから、水分を切り、半割りや薄切りなどにして並べます。薄く切っても半身の輪郭を保って移せば、表面に細かな平行線が現れます。
煮るシロップには、バニラだけでなく、シナモン、クローブ、スターアニスを合わせるルセット(材料の配合と作り方)もあります。果実を柔らかくする仕事と同時に、その水分へ香りを移す工程です。煮た後に水切りして冷ますと、湿った果実を生地へ載せる準備が整います。
クリームの名前と、中身の違い
中身の一つは、バター、砂糖、卵、アーモンド粉を合わせるアーモンドクリームです。焼くと周囲が色づき、果実を受け止める香ばしい層になります。一方、フランジパーヌと呼ばれる、アーモンドクリームへクレーム・パティシエールを合わせたものを使う型もあります。
ルセットの見出しでは、乳のカスタードを混ぜないものにもフランジパーヌという名が使われます。ナッツとバターのクリームに乳の層が加わるかどうかは、名称より材料と工程に表れます。
一緒に焼くか、皮を先に焼くか
外側には、パート・ブリゼや甘いタルト生地を使います。料理書ラルースの型では、皮を敷いた型へクリームを広げ、梨を冠のように並べ、一緒に焼きます。焼き上がりは少し冷ましてから型を外し、冷たくして供する方法です。
先に皮を空焼きする職人の型もあります。セドリック・グロレの公開工程では、空焼きした皮へ卵黄とクリームを合わせた液を刷毛で塗り、再び焼いてから、アーモンドクリームを詰めます。底を先に焼くことに加え、内側の表面にも一段の処理をする違いがあります。
洋梨は半割り、四つ割り、薄切りなどを選んで配置できます。焼いた後にナパージュでつやを付け、アーモンドの薄切りを散らすと、粉として混ざる中身に加え、表面にもナッツの歯応えが生まれます。
用語解説
- アマンディーヌ・オ・ポワール
- 梨とアーモンドを使うタルトの呼び名。
- パート・ブリゼ
- 小麦粉、油脂、水などで作る練りパイの生地。
- 空焼き
- 中身を詰める前に皮だけを焼くこと。
- クレーム・パティシエール
- 乳、卵、糖、でんぷんなどを炊くカスタード系のクリーム。
- フランジパーヌ
- アーモンドのクリーム。現代の技術解説ではクレーム・パティシエールとの混合を指しますが、ルセットの見出しには幅があります。
- ナパージュ
- 果実やタルトの表面へ塗る、つやを付ける上掛け。
- セドリック・グロレ
- フランスの菓子職人。空焼きした皮へ卵黄と乳のクリームを塗り、再び焼く工程を公開。
- ルイ・ブルダルー
- 1632–1704年。フランスの説教師で、パリの通りの名の由来となった人物。
- ピエール・ラカン
- 1836–1902年。フランスの菓子職人で、菓子の歴史を記した著者。
- ニコラ・ブルゴワン、ファスケル
- 前者はブルダルー通り七番地のレセルトゥールで初期の菓子を作ったとされ、後者は後継職人として梨とフランジパーヌの型に結び付けられます。
- エスコフィエ
- フランスの料理人・料理書著者。果実のブルダルーを料理書に記した。
- マカロン
- ここでは砕いてクリームや表面へ使う、アーモンドなどの焼き菓子。
- セモリナ
- 小麦などを粗めに挽いた粒状の粉。
- ジェノワーズ
- 卵の泡を生かして焼くスポンジ系の生地。
- キルシュ/キュラソー
- 前者はサクランボの蒸留酒、後者は柑橘の香りを持つリキュール。1900年の同名菓子では生地と糖衣に分けて使う。
調査注記
旧稿の「約十年後に同店を継ぐ」は基点を確定できず削除した。パリ市の二次解説は十年後と記すが、フランス語Wikipediaは1860年の別住所の営業から十年後の移転を述べており、初期菓子から十年後と同一視できない。別住所録の原本は今回未見のため移転年を新たに確定していない。
1900年第5版のp.183はWellcomeの原ページ画像を実見し、OCRとも照合。糖衣はcuraçaoであり、kirschは生地に含む。Wikipediaやその転載にある「キルシュ糖衣」とは区別する。原項目の創作帰属はLesserteurで、Nicolas BourgoinやFasquelleの詳しい先後は同頁に書かれていない。これらの人名は市の解説が伝える来歴とし、一項の工程を現代タルトの単独発明記録へ広げない。







