Sweetlore世界のお菓子図鑑(234)

マッテンタールト
Mattentaart
乳を凝らせたマッテンを、丸いパイへ包む
パイ / ベルギー・ヘラールツベルヘン

薄いパイの蓋を割ると、乳の穏やかな酸味と細かな凝乳の粒が現れます。ベルギーのマッテンタールトは、牛乳から作るマッテンを、卵と糖などで餡にする小型の丸い菓子です。フランドルのヘラールツベルヘンを代表し、フランス語ではタルト・オ・マトン。農家の乳と、町で焼く職人の仕事が出会う一個です。
牛乳を固め、水を切るところから
温めた牛乳へ酸味のあるバターミルクを加え、必要なら少量の酢で凝固させます。布へ取り、吊るしてホエイを切り、水分を抜きます。熟成した硬いチーズを削るのでなく、この凝乳を細かく挽き、卵黄と糖を混ぜ、別に泡立てた卵白で軽さを加えます。アーモンドの香りを足す配合もあります。
マッテンの脂肪や状態は季節でも変わるため、職人は卵と糖の量、混ぜ方を調整します。同じ重さを量るだけではそろわない原料を扱う仕事です。型のパイへ餡を入れ、上を覆って縁を密着させ、卵を塗り、中央をはさみで小さく切ります。蒸気の出口の周りが開くと、頂に花のような形ができ、よく焼けた皮としっとりした乳が対照を作ります。
凝乳を買った16世紀、品質を定めた1665年
保存しにくい乳を凝乳とホエイへ分けるのは、農家の利用の工夫でもありました。ヘラールツベルヘンの病院には16世紀のマッテン購入記録がありますが、買ったのは凝乳であって菓子ではありません。完成品の販売を扱う町の品質規則は1665年、マリア・テレジアによる勅令の追認は1752年です。材料と製品の記録には、それぞれの時間があります。
家庭や農家で焼く型から、町のパン店の比重が増すのは19世紀末ごろ。縁日、誕生日、祝いだけでなく、葬儀後の卓にも並びます。1978年には産地の同業団体ができ、1980年から町の広場で実演する「マッテンタールトの日」も開かれ、作り方を人前へ伝えています。
古いチーズのタルトは何を包んだか
16世紀初めの『Een notabel boecxken van cokeryen』は、しばしば先行ルセット(材料の配合と作り方)へ結びつけられます。しかし「褐色のタルト」は、柔らかなチーズ、または固ゆで卵黄へ、カルダモン、生姜、クローブ、ナツメグ、メース、糖などを混ぜます。隣のチーズタルトは、挽いたチーズに卵、バター、セージを合わせ、焼いてから穴を付け、バターを含ませます。
香辛料やセージを合わせるこれらのタルトと、現在のマッテン、泡立てた卵白、上下のパイを組む型には、材料にも製法にも隔たりがあります。乳と卵をタルトにする古い技法が、そのまま現在の一個と同じだったわけではありません。
保護名称の内側と、外で焼く最後の工程
2007年にEUの地理的表示保護PGIへ登録された「ヘラールツベルヘンのマッテンタールト」は、同市と隣のリールデへ結びつく名称です。乳とマッテンの由来、餡から包む工程は地域に結びつきますが、パイの粉とバターまで全て同地域産を求める制度ではありません。
包んだ未焼成品を冷凍し、最後に地域外で焼くこともできます。一方、一般のマッテンタールトはフランドル・アルデンヌなどにも広がります。フランス語圏のアト市域ギブックでは、農家が自らの品としてタルト・オ・マトンを作り、直売する例もあります。こうした農家の菓子も含む一般名と、原料と工程の土地を定めた保護名称には、違う広さがあります。
用語解説
- メース/セージ
- 前者はナツメグの種を覆う仮種皮の香辛料、後者は芳香のある葉を使うハーブ。古いチーズのタルトのルセットに登場する。
- マリア・テレジア
- 18世紀のハプスブルク家の君主。当時のオーストリア領ネーデルラントを統治しました。
- マッテン
- 牛乳を凝固させ、水分を切って得る乳の固形分。名称の中心になる材料です。
- バターミルク
- この菓子では、牛乳を凝固させるために使う酸味のある乳製品。
- ホエイ
- 凝乳から分かれる液体。乳清。
- PGI
- 生産地との結び付きが認められた食品の名称を保護する、EUの地理的表示制度。







