Sweetlore世界のお菓子図鑑(234)

スクランドラウシス
Sklandrausis
ライ麦の器に、じゃがいもとにんじんの二層
パイ / ラトビア

灰褐色のライ麦の縁が、橙色のにんじんを柵のように囲みます。ラトビア西部クルゼメのスクランドラウシスは、下にじゃがいも、上ににんじんを詰める丸い小型のパイです。野菜の甘さを生かし、冷めてから茶や牛乳とともに食べます。素朴な穀物の器が、色の違う二つの野菜を一口へ収めます。
発酵させずに作る浅いライ麦の器
基本のルセット(材料の配合と作り方)では、外側はライ麦粉へ熱い水、バターなどの油脂、塩を合わせた、発酵させない生地です。薄くのばして丸く抜き、周囲を指で立ち上げます。小麦粉を少量加えて、のばしやすくする型もあります。縁が倒れない硬さを持つ、浅い器を作ります。
伝統的な仕様では、完成品の直径は八〜十四センチほど。生地を二〜三ミリほどに薄くしても、縁を一周立てることで、詰め物を受け止められます。名は skland- と rausis の二つに分かれます。前者は柵や斜面を指すクルゼメの古い語で、ここでは立ち上げた縁に対応します。後者はパイを指す語で、炉の灰や熾火を寄せる動詞 raust との関係が説明されています。縁を立て、炉端で焼く手仕事が名にも残っています。
白いじゃがいも、橙のにんじん
じゃがいもは茹でて潰し、塩や油脂、クリームなどを合わせ、底へ広げます。その上に、茹でて潰したにんじんを、砂糖やサワークリームなどと合わせて重ねます。野菜を同じ色へ混ぜず、じゃがいもを下、にんじんを上という順序を保ちます。
断面には、灰褐色の薄い生地、淡いじゃがいも、黄色がかった橙のにんじんが並びます。底はよく焼けた硬さを持ち、詰め物は柔らかく、細かな気孔を含みます。食べるとライ麦のパンらしい風味が残り、その上へにんじんの甘さが広がります。
サワークリームと香辛料の仕上げ
焼いた表面へサワークリームと砂糖を合わせたものを塗り、シナモンやキャラウェイを振る型があります。卵を加えた上掛けなら、さらに火を入れて仕上げます。にんじんの甘さ、乳の酸味、香辛料の香りが、簡潔な野菜の二層へ重なります。
炉の熾火から野菜の二層へ
このパイには、ライ麦生地を炉の熾火で焼く昔の形から、野菜を重ねる姿へ至る変化がありました。にんじんの栽培は十六世紀、じゃがいもは十七世紀に伝わり、農民の間で広く作られるのは十九世紀という整理です。現在の白と橙の二層は、後から伝わった野菜が農村の食卓へ根付いた後の姿です。
復活祭に配る一切れと太陽の見立て
この菓子は、リーヴ人の食文化とも結びつき、クルゼメ各地で受け継がれてきました。収穫の祭りや復活祭、クリスマスなどに作る記憶も残ります。立ち上がった縁は、中身が火の中へこぼれないようにする、昔の炉端焼きの構造にもつながっています。
リーヴ人の復活祭の回想には、復活祭の歌の儀礼の後、ほかのごちそうと一緒に、このパイの切れを配った例もあります。丸い橙色の形には、冬至・夏至を祝う太陽の見立ても重ねられてきました。単に野菜を甘くした軽食だけでなく、収穫や年中行事の食卓にも置かれてきた菓子です。
家にある野菜を使い、伝統の骨格を残す
家にある材料に合わせる工夫も、この菓子を支えてきました。じゃがいもの一部を、水を絞った生のすりおろしへ替えることや、にんじんを生のすりおろしで作る余地も示されます。必要ならセモリナを加えて密度を整えます。決まった一つの柔らかさだけではなく、ライ麦の丸い器、上向きの縁、野菜の層という骨格の中に、家庭の選択があります。
二〇一三年には、伝統的特産品として欧州で登録されました。産地の名前だけを守る形式ではなく、生地、野菜の重ね方、形などの伝統的な特徴を保つ仕組みです。切る前には橙の面が目立ち、切った後には白いじゃがいもの層が現れ、土地の野菜と穀物を一つの小さな器で見せます。
用語解説
- クルゼメ
- ラトビア西部の地方。クールラントとも呼ばれる。
- リーヴ人
- バルト海沿岸に暮らしてきたフィン・ウゴル系の民族。
- キャラウェイ
- 小さな果実を香辛料に使う植物。パンや乳製品にも合わせる。
- セモリナ
- 小麦を比較的粗い粒に挽いた粉。詰め物の密度の調整にも使われる。
- skland-/rausis
- 申請書による名称の二要素。前者は立てた縁、後者はパイの意味に対応し、後者は炉の灰を寄せる動詞とも関係付けられる。







